【西武】“エース候補”隅田知一郎の決意「髙橋光成さんが180~200イニングくらい投げると思うんですけど、僕もそれくらい投げられるように」

もはや12球団屈指といっても言い過ぎではない。

髙橋光成、今井達也、平良海馬の3本柱を軸に構成された西武先発陣は他に類を見ないレベルの高さを誇っている。

「先発陣はみんな取り組みが違うんで、一人ひとり芯があるっていうか。すごいんですよ。自分もそういうふうにならなければっていう意識はないですけど、みんなが違うことやってるんで、その中にいたら自分も自然とそうなりますよね。僕も人と同じことはやらないので」

そう語るのはそんな先発陣の一角を任され、昨秋に続いて侍ジャパン入りを果たした隅田知一郎である。この春季キャンプでは先発陣の中でももっとも評価を上げている。

「まぁ、順調ではありますけど、去年のキャンプと同じように、その日やるべきことをしっかりやれているっていう感じですかね。自信ですか。特に変わったことはないです。与えられたメニューをしっかりできているなって思います」

隅田の取材には独特な間がある。いつも即答はせず無言の時間があり、気がつくと会話の主導権を握られている。そんな印象だ。

キャンプ中に隅田を待ったが、練習後のぶら下がり取材、待ち侘びたライオンズファンのサイン全てに応じた隅田はウェイトルームまでの道中に取材を始めると「そうっすかね」といった後、こちら側の質問を否定してみせた。
嫌味な印象はない。隅田独特の空気があり、どんどんそこに引きこまれていくのだ。おそらく、隅田に抑え込まれる打者はそんな感覚なのかもしれない。

今季が3年目になる隅田の話をキャンプ中に聞きたくなったのは調整ぶりが順調なことと立ち居振る舞いにある種の自信を感じるようになったからだ。そんな時、あの日の試合が彼を変えたのではないかと思い出したのである。

あの日の試合とは、昨季のシーズン終了後に開催されたアジアチャンピオンシップでのことである。年齢制限のある代表とはいえ、侍ジャパンのユニホームに袖を通した隅田は予選リーグの大一番・韓国戦に先発すると、7回を3安打無失点に抑える圧巻の投球を見せたのだった。

実は、試合前日、侍ジャパンの指揮官・井端弘和監督はこんな予言めいたことを言っていたのだ。

「合宿の時からボールが一段とよくなっていて、これは楽しみだなと。大事なゲームになる韓国戦の先発をすぐに決めました。隅田で行こうと。この試合は彼が一皮剥ける試合になると思う」
アジアチャンピオンシップは優勝。隅田はベストナインに選ばれた。

そういった流れがあっただけに、春季キャンプを順調に過ごしていた隅田の近況はとても明るく見えたのだ。なかなか状態が上がってこないエースを尻目に、抜群の仕上がりを見せている。井端監督がいったように、一皮剥けたのではないか。

本人に手応えはあるのか。

「井端監督からは合宿の時から、『お前はもっとできる』と言ってもらえていました。期待してくれているなというのは感じましたけど、特に韓国戦で大きな自信をつかんだとか、そういうのはないですよ。オフの自主トレから去年と同じように、いい感じではきていたとは思います」

隅田からは特別なことはないと淡々と言うのが終始一貫した返答だった。

一方で質問を変えてみた。昨季のシーズン最終登板、隅田はあと一歩のところで二桁勝利を逃した。その登板後のX(旧ツイッター)で隅田は「この悔しさを忘れない」とポストしていたのだが、これについてきいてみた。

「過去は変えれないんで、うん、そんなことを引きずっている場合じゃないかなと思います。今の目標は去年よりは投げたいと思っています。開幕投手は僕が決めることではないですけど、もちろん任せてもらえるんだったらやりたいと思いますね」

隅田は周りからどう見られているかをほとんど気にしないという。

侍ジャパンに入り、世間からの視線はどんどん変化していくが「そこを僕が(態度とか)変えちゃいけないでしょ」と語り、「応援は力になります。勝ち星が増えていくたびに応援してくれる人が増えてそれが僕に勢いを与えてくれる」と話している。
XやInstagramなどにはたくさんのコメントやDMが来る。誹謗中傷されることも多いらしいが、そこに目くじらを立てることもない。自分で好きなことを発信し、その反応までは気にしない。

いわば、自分の発信の周囲の反応も、侍ジャパンに入ることで変わっていく周囲の変化も隅田にとってはどこ吹く風なのだ。

「いい意味で重みを感じていないのかもしれませんね。でも、(侍ジャパンに)入ってよかったです。いろんな人と関わることができたのが一番大きいです。僕の大学からプロ野球選手になった人が少ないですし、普段、他球団の選手とかとの関わりがあんまりなかったんです。挨拶する人とかも全くいなかった。だからいろんな人の話を聞けるようになってきたのがちょっと大きい」

日本のトップ選手たちと関わりを持つことで、自身の芯を作っていく上では大きな経験となるだろう。3月の欧州選抜との親善試合にも招集された。将来的には「WBCにも出たい」と隅田は言う。

今季への目標を問うとこう意気込んだ。

「ハイレベルな話になると思うんですけど、今だったらチームでは髙橋光成さんが180イニング、もしくは200イニングくらい投げると思うんですけど、僕もそれくらいを投げられるように頑張りたいですね。イニングを投げないと三振も獲れないし、自分で勝利を手繰り寄せることはできないと思うので」

髙橋光成のエース一択から今季は多くの先発陣がその座を狙っている。隅田もその一人として数えられるだろう。それくらいの雰囲気が隅田からは感じられる。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。

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