日本学術会議「任命拒否問題」の国賠訴訟が提起 「政府の説明責任」追求と「個人の名誉」回復を目的

手前から福田弁護士、岡田教授、加藤教授、小沢教授、三宅弘弁護士(2月20日都内/弁護士JP)

2月20日、2020年に起こった日本学術会議会員の任命拒否問題について、行政文書の不開示処分および個人情報の不開示処分の取り消しを国に対して請求する、2件の行政訴訟が提起された。

任命拒否問題から訴訟までの経緯

2020年8月、日本学術会議の事務局は候補者105人の一覧表を安倍晋三首相(当時)に提出した。9月、安部首相が退任した後に発足した菅義偉内閣は、候補者から6名を除外した名簿を事務局に返送。

除外された候補者(以下敬称略)は、芦名定道(キリスト教学者)、宇野重規(政治学者)、岡田正則 (法学者)、小澤隆一 (憲法学者)、加藤陽子 (歴史学者)、松宮孝明 (法学者)。

10月に6名が任命されなかったという事実が報じられ、学術会議や野党は、任命を拒否した理由を説明することや6名を速やかに任命することを政府に求め続けていた。しかし、2021年10月に発足した岸田内閣も、菅内閣と同様に会員候補6人を任命しない方針を示した。

2021年4月、弁護士や法学者などの法律家1162名が、任命拒否にかかわる行政文書の開示を求める情報公開請求を行う。同日、任命拒否された学者6名も、拒否の理由や経緯がわかる文書の開示を政府に請求した。

同年6月には両方の請求について開示・不開示の決定が出そろったが、どちらについても大半の情報が不開示のままとなった。

2023年8月、総務省の情報公開・個人情報保護審査会が、任命拒否の理由や経緯を記録した行政文書を不開示とした政府の決定に関する答申を出し、一部の文書について不開示の決定を取り消すべきとした。

同年8月と9月に各処分庁は審査官の答申に従って採決を行う。結果、一部の内部文書について、それまでは「黒塗り」となっていた情報が開示される。学術会議内部で会員候補を選考中であった時期(2020年6月)に「任命者側」(政府)から学術会議事務局に伝達されたという文書と、内閣府が作成したとされる資料内の「2020年9月24日 外すべき者(副長官から)」と記載された箇所に、任命拒否された6名の氏名が書かれていたことが明らかになった。

しかし、任命拒否の根拠や理由がわかる文書は「不存在」とされたままとなっている。また、文書内の黒塗りが解除されず不開示のままとなっている部分も多く残る。

そこで原告側は、不開示処分の取り消しおよび損害賠償を求めるため、2件の行政訴訟を提起するに至った。

学術会議事務局に伝達されたという文書から

「政府の説明責任」と「名誉の回復」

行政文書の不開示処分の取り消し(情報の公開)を請求する訴訟の原告は、弁護士や法学者ら166名(任命拒否された小澤教授、岡田教授、松宮教授も含む)。原告1人につき1万円の国家賠償を請求している。

提起後に開かれた会見で、福田護弁護士は「6名の任命拒否について、情報公開により政府の説明責任を果たさせる」「任命拒否の根拠・理由を明らかにする」ことが訴訟の目的であると説明した。

個人情報の不開示処分の取り消しを請求する訴訟の原告は任命拒否された6名。具体的には、各処分庁が原告らについて保有している個人情報の開示を求める訴訟となる。請求している国家賠償の金額は1人につき100万円。

こちらの訴訟にも、政府の説明責任を追及するという目的がある。また、6名は不当に任命拒否されたことで日本学術会議法17条に会員の資格として記載された「優れた研究又は業績がある科学者」という評価も否定されたことになるため、その名誉を回復することも目的としている。

内閣府が作成したとされる資料から(黒塗りの解除前・解除後)

任命拒否された学者たちの訴え

会見にて、行政法を専門とする岡田教授は「文書を黒塗りにするならきちんとした理由が必要になる。どこに宛てた文章かも隠されているのはおかしい。政府のなかでどういう経路を経てこういった判断がなされているのか、それを国民に対して説明する義務が政府にはあるはずだ」と語った。

加藤教授は、任命拒否の理由が明らかにされていないことに関して「会社が就職で志望者を断った時にその理由を明らかにすることはない、という説明がなされたが、それでは我々は就職に失敗した人と同じだということになる。これにはひどく傷ついた」と述べたうえで、「しかし、その説明は、思いのほか国民には通じなかった」と指摘。

世論調査で6~7割の国民が「国側の説明は不十分である」と答えたことにも言及しながら「任命拒否の不当さは国民感情としても理解されている」と加藤教授は語った。

小沢教授は「政府には任命の権限があるが、自分たちの行った任命行為について、一切の説明責任を果たしていない状態。本来なら自分たちが守るべき法律を守っていない。悪しき事例として明らかにしていって、国民と国家権力との約束である憲法がゆがめられている実態を示していく。政府の説明責任を果たす前提を作るための訴訟だ」と、意気込みを示した。

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