「私が倒れても3日間生き延びられるように」「自分の居場所を見つけてほしい」偏見や誤解のない社会に【双子のダウン症候群育児体験談】

桐淵良美さん(43歳)は優馬(ゆうま)君と風馬(ふうま)君(10歳)と、詩菜(しいな)ちゃん(8歳)の3人の子どもを持つ母。優馬君と風馬君はダウン症候群を持つ一卵性双生児の双子で、2人は現在特別支援学校に通う4年生です。長男の優馬君は、ダウン症の他にも重度知的障害と自閉症スペクトラムを持ち、風馬君は最重度知的障害と自閉症スペクトラムを持っています。

優馬君と風馬君が1歳半頃に、良美さんの夫・勝さんが『NPO法人つなぐ』を立ち上げ、現在では児童発達支援事業と放課後等デイサービス事業所を群馬県の高崎市と前橋市で5つの事業所を運営しています。
2回目のインタビューでは、2人の自閉症の特性や、妹の詩菜ちゃんに対する声かけ、良美さんの今後の活動ついて聞きました。

「私は、普通の人生を歩んではダメってこと?」生まれた双子が2人ともダウン症。息子のために駆け抜けた10年間【双子のダウン症候群育児体験談】

自閉症の睡眠障害や自傷、癇癪、脱毛症がつらい時期も

自閉症の特性が強く出ていた頃の風馬君(左)と脱毛症を発症した頃の優馬君(右)

――ダウン症の他に自閉症スペクトラムを持っている風馬君と優馬君ですが、特性が強く出てしまって大変な時期もあったようです。

「風馬は、睡眠障害があり、夜中にも起きてしまって、5歳頃からは頭を壁にガリガリ擦り付けてしまう時期もありました。昼間には自分で頭やあごをガンガン殴ってしまうこともありましたが、服薬するようになってからは睡眠も自傷行為もなくなりました。常にくるくる回ったり、一定の動きで揺れていたりという常同行動があります。

優馬は、感情のふり幅が大きくて突然泣き出したり、怒り出して物を投げたりと特に8歳頃は大変でした。また、年長の終わり頃から脱毛症が始まって、1番ひどかったときは髪の毛の7割ほどが抜け落ちてしまっていました。優馬も服薬をするようになってから脱毛が落ち着き(何度か場所が変わり抜ける時もありますが)今はほとんど気にならなくなりました。優馬は感覚過敏もあるので、口の中で嫌な食感があると吐き出してしまったり、ドライヤーは苦しくなってしまうようでほとんどできません。散髪も大泣きで嫌がります。しかし、最近は私が“ペアレントトレーニング”を学んだこともあり、子どもとの関わり方が変わったので、癇癪もびっくりするくらい減りました。もっと早く学んでいれば良かったなとは思いますが、今までは私自身の心の余裕がなくて難しかったなと思います」(良美さん)

障害者家族だけの問題にせず、地域との繋がりを強めたい

優馬君(左)風馬君(中)詩菜ちゃん(右)

――普段から家族で仲良く支え合いながら過ごしてきたという桐淵さん一家。2人の妹である詩菜ちゃんと関わる時に良美さんが心がけていることはなんでしょうか。

「障害のないきょうだいに障害のことを聞かれた時の返答の仕方はとても大切だし、みなさんも結構悩むことではないでしょうか?私も試行錯誤を繰り返してきました。

最近では詩菜に『ダウン症ってなに?』とか『優ちゃんと風ちゃんがダウン症じゃなければ良かった。お話できれば良かった』とか『よだれ汚いよ~』とか言われることもあります。そんな時、私は『じゃあなんで詩菜は、女の子なの?日本人なの?なんで男の子はおちんちんがあるのに、女の子はないの?それと同じで手が不自由な子、耳が聞こえない子、肌の色もいろんな子がいるでしょ?だから、ダウン症の子もいるのは当たり前のことなんだよ』とさらっと答えています。『よだれが汚いのは確かにそうだね。だけど優ちゃんと風ちゃんはどうしても垂れちゃうの。そんな時は、ティッシュで拭いてあげてね。汚くて嫌なら薄い手袋するといいよ』とお話したりしています。2人とお話できないことも『お話できなくて嫌なら、ママと一緒に優ちゃんと風ちゃんがお話のかわりに会話ができる方法を一緒に考えてあげようよ』と違う方法でコミュニケーションを取る方法を教えています。

私は、優馬と風馬という障害がある子と当たり前のように関わりを持てることは、詩菜にとってプラスだと思っています。昨今では、きょうだい児が抱えている負担が大きく、問題になっていますが、私たちの法人で働く方の中には、自身のきょうだいの障害がきっかけで福祉業界に来る方も少なくありません。そういった方々を見ていると、人との関わりが上手だったり、なかなか気を配れないところまで細かく気づいてくれたり、人を思いやる気持ちが備わっていると感じる瞬間も多々あります。

もちろん、詩菜は、詩菜の人生をきちんと自分で考えて生きていけるように関わっていきたいです。そのためには私だけではなく、親戚も含めみんなで詩菜は詩菜が楽しめる環境を作れるように協力してもらっています。ふだんは優馬と風馬の世話で追われていて、詩菜はパパが見ていることも多いのですが、寝るときは手をつないで寝ていたり、2人だけで出かける日を作ったり“スペシャルタイム”を作るようにしています。色々な世界を見せてあげたうえで、障害があることがかわいそうなことだとか嫌なことだと思わないように関わっていきたいです」(良美さん)

――悩めるきょうだい児や障害者家族を減らすには、障害児の家族の中だけの問題にせず、社会全体の問題として取り組んで行く必要があると良美さんは考えます。

「なかには介護等が負担になって学校に進学できなかったり、遊ぶ時間等の自由がなかったというきょうだい児もいるので、それは本当につらいことだと思います。そういう方を少しでも今後減らしていくには、その家族だけの問題にしないように、社会が変わっていく必要性もあると思います。

当法人のような、障害のある子たちを預かる施設が地域に均等に作られることももちろん大切ですが、例えば地域の公民館や児童館等を利用して、定年後の元気に働ける高齢者を雇用し、だれもが利用できる“実家”のような役割をしてくれる場所があったらいいのではと思います。障害がある・ないに関わらず、ひとつの大きな家族のように、人との関わりを学びながら育っていける場所づくりが必要だと感じています。

今後は児童発達支援や放課後等デイサービスの支援内容として、障害がある子どもたちが、大人になってからも地域に馴染めるような土台作りをしていかなければならないと思っています。ほかの子より馴染むのに10倍時間がかかる子であれば、地域と馴染めるようにじっくり10年かけて少しずつ未来への土台を作ってあげることも大切です。これからのより良い未来につなげる方法を、私たちも色々と考えていかなくてはならないなと思っています」

最終目標は、“私が倒れても3日間生き延びていられる”ようになること

最近の風馬君(右)と優馬君(左)

――風馬君と優馬君のそれぞれの性格と、2人の魅力について、良美さんはこう話します。

「優馬は、ダンスが得意で音楽も大好きです。音の出る本が大好きで、家に居るときは常に童話や手遊び歌などの本を持ち歩いて聴いています。そのおかげか発語が増えてきました。まだ摸倣が多く、自分の気持ちを話すことが難しいのですが、少しずつコミュニケーションが取れるようになってきました。日頃から感情のアップダウンが大きくて、ニコニコ笑ったり、無表情になったり、泣き虫になったりと忙しいですが、おかげさまで支援学校のお友だちにも可愛がられているようです。

風馬は、自分の世界観を持っているのですが、最近はそれから抜け出してきて、他者との関わりを求めることも多くなってきました。自傷や睡眠障害もありましたが、服薬するようになってからは本当に落ち着き、今は気になりません。起きる時間や寝る時間も一定で、1日の流れもできています。お昼ごはんや夕ごはんの時間が変わると少し怒ります。風馬もみんなに可愛がってもらえて、特に放課後等デイサービスでは女の子たちにお世話してもらっていてモテモテです(笑)。

2人とも本当にみんなに愛されて育ったので、人見知りもなく、だれにでもすぐに近寄って手を繋ぐような人懐っこい性格です。お友だちや支援してくださっている周りのみなさんには本当に感謝しています。このまま学べることは学ばせてあげながら、2人が2人らしく生きられるような環境を作って、できる限り支えていきたいなと思います」(良美さん)

――周囲にあたたかく見守られながら、すくすくと成長している風馬君と優馬君。2人の現在の課題と、将来の課題について聞きました。

「目下の目標は、優馬は人とのコミュニケーションが少しずつ取れるようになってきたのでそこを伸ばしていくこと。風馬はフォークや箸が使えるようになることです。

2人の将来に向けて私が取り組むべき課題は、2人が“学べる環境”をできるだけしっかり作っていくことです。2人はこれから先も誰かの手を借りて生活をしていかなければならないので、自分でできることは自分できるようになって、支援してくださる方の負担を少しでも軽くしていきたいです。私の最終の目標は、例えば、私と優馬と風馬の3人で生活することになった時に、私が倒れて急死したとしても、自分で冷蔵庫や戸棚を開けて何かを食べられて、3日くらいは生きていられるようになることです(笑)。もし3日間連絡が取れなければ、誰かしら家に来てくれるのではないかと思うので、2人が飢え死にで死ぬことはないかなと。

もちろん不安はありますが、これからより良い未来を考えて私も動いて行こうと考えているので、そんなに心配はしていません。みんなに愛されるよう、ニコニコ笑って幸せを分けてあげられる人になって欲しいなと思います」(良美さん)

パパやママになる人たちが“これから悩むであろうことを学べる社会”を作りたい

児童発達支援事業所『ちゃいるどえっぐ元総社すくーる』

――障害のある人たちのために日々活動に取り組んでいる良美さんですが、障害者やその親だけでなくどんな親でも障害のある子どもとの関わり方を学ぶ機会が必要なのではないかと考えています。

「『あの子なんで変な顔してるの?』『なんであの子はじっとしてないで動き回っているの?』など、障害のある人について子どもに聞かれた時に、親はどのように返答したら良いか学べる機会がもっとあったらいいなと思います。以前、病院で他のお子さんが『あの子たち変な顔してるよ』と、2人のことを親御さんに話していたのですが、その親御さんがお子さんに『ほら、○○の保育園にも変な子いるじゃん。ああいう障害がある子』と答えているのを聞いて、本当に胸が苦しくなりました。そして、このような親の発言を聞いて育てられた子どもたちはどうなってしまうんだろうと心配になりました。お母さんも思わず言ってしまった言葉だとは思いますが、そういう世の中も変えていけたらなと思っています。

私は、最近“ペアレントトレーニング”の資格を取り、親と子どもとの関わり合い方を学んでわかったのですが、どんな親御さんも子育てで悩まない方はいないのではないかと思います。障害がある・ないに関わらず、妊娠中または妊娠を考えているすべての方たちが事前に、“これから悩むであろうことを学べる社会”になることも大切なのではないかなと思っています。困った時に悩むのではなくて、事前に学んでおけば困らず対処できる。そういった世の中の流れになっていったらいいですね」(良美さん)

――障害者とその家族のよりよい未来のために、まだまだたくさんやりたいことがあると話す良美さん。今後の活動についてお聞きしました。

「優馬君と風馬君が産まれたのをきっかけに『NPO法人つなぐ』を立ち上げました。2015年4月から『ちゃいるどえっぐ』という児童発達支援事業所を私たち夫婦で始めました。現在では群馬県の高崎市と前橋市で放課後等デイサービスも含め5事業所運営しています。現在、私はそこの副理事長兼統括施設長としてみなさんと関わらせて頂いています。

今年から親御さんたちの力になれるように、“ペアレントトレーニング”を取り入れた子育て支援事業も行う予定で準備中です。みなさんに色々な正しい情報をお伝えできればと思って活動しています。優馬と風馬も含め、生きているみんなが自分の居場所を見つけ楽しく人生が過ごせるお手伝いが少しでもできれば嬉しいです」(良美さん)

――最後に、ダウン症などの障害を抱えた人たちについて、多くの人に知ってほしいことはなんでしょうか。

「私が2人を産んだことや、施設でさまざまなダウン症のお子さんに出逢ったことで感じたのは、“ダウン症”という言葉は 、“日本人” “イタリア人”というぐらい、大きなカテゴリの言葉だということです。だって、ダウン症でも普通に会話できる方もいますし、海外では結婚してお子さんがいる方もいます。もちろん身体が弱かったり、他の疾患があり医療的ケアが必要なお子さんもいますが、みんな、私たちと同じで笑うし、怒るし、好きなこともあるし、パパとママが大好きだし、きちんと1人の人間として生きています。なので、普通に話しかけて仲良くなることもできます。(人によっては、会話が上手くできない方や、人と関わるのが苦手な方もいると思うので、近くに介助の人がいる場合は詳しく確認してください)

いつか就労支援で『気軽に障害のある方に逢えて、気軽に障害について学べるレストラン』みたいな場所が作れたらいいなと思っています。そこに来ると障害のある人たちが働いていて、特性や関わり方等が学べる本や資料が沢山あって、『障害がなくても来てね。関わり方を教えてあげるよ~』と言える場所。言葉にするより、実際に大勢の人に障害のある方と関わってもらうことが、偏見や誤解がなくなる1番の近道なのかなとも思います。

病気や障害、特性を持っている方もたくさんいらっしゃいますが、世の中には診断がついていなくても、社会に生きづらさを感じている人も大勢いるのが現状で、障害あるなしに関わらず悩めることはたくさんあるのではと思います。なのでたとえ妊娠中や産後に障害がわかったからといって、必ずその子が不幸になるということではないような気がします。もちろん、家庭の事情もある方もいますし、大変な経験をする方もいらっしゃいますので、みなさんが自身で考えて判断することは誰も責められないことだと思いますね。

でも、楽しいことも幸せなことも産んで良かったと思うこともたくさんあるのは事実です。私はその中で見つけた幸せな世界をこれからも発信していければ良いなと思っています」

お話・写真提供/桐淵良美さん 取材・文/清川優美、たまひよONLINE編集部

自閉症育児で意識していることは、自分とは違うタイプの“のうみそ”への伝え方【自閉症育児体験談】

“ペアレントトレーニング”を学び、これからは障害のある人もない人も、実際に障害のある人と関わったり、学んだりすることができる場所づくりができたらと話す良美さん。地域で繋がり、理解を深め、支え合う。どんなに小さなことでも、1人ひとりが行動を起こして誰もが共に生きていける社会を作っていくことが求められています。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることをめざしてさまざまな課題を取材し、発信していきます。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年1月の情報で、現在と異なる場合があります。

桐淵良美さん

PROFILE)2013年11月にダウン症の一卵性双子の男の子2人を出産、2015年12月に女の子を出産した3児の母。セラピストから転職し、「NPO法人つなぐ」の副理事長となり、群馬県で5ヵ所の障害児支援施設の運営をしている。

■NPO法人つなぐ

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