『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』を待っていてよかった! 刻まれた作り手たちの情熱

アニメ情報誌『月刊ニュータイプ』2006年6月号の表紙に大きく掲載された「機動戦士ガンダムSEED 映画化決定!!」の文字。あれから18年の時を経て、全国の映画館で絶賛上映中の『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』は、興行収入26.8億円、観客動員数1163万人を突破している(2月13日発表時点)。1月26日の公開日から、わずか2週間弱でこの好成績となれば、この先もまだまだ記録は伸びるだろう。

あらかじめ遺伝子調整を受けて、優れた肉体と優秀な頭脳で生まれてきた「コーディネイター」と、普通の人類として生まれた「ナチュラル」。ナチュラルは地球連合軍に、コーディネイターはザフトに所属して戦いを繰り広げている世界。友人同士だったキラ・ヤマトとアスラン・ザラは、それぞれ地球連合軍とザフトに分かれて戦わなければならなくなるーーというのが『機動戦士ガンダムSEED』(2002年)のあらすじだ。

その続編『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』(2004年)は、戦争で両親と妹を失った少年シン・アスカが、コーディネイターとしてザフトに所属。前作の主人公キラやアスランと出会いもありつつ、戦いへと身を投じていく。『SEED DESTINY』は、戦争を望まない人々が、何とか最善の道を模索しながら、どうしても悲劇に突き当たってしまう展開が視聴者の心を揺さぶった。まさに平成のガンダムシリーズを代表する名作になり得たと思う。

『SEED DESTINY』の第8話で、故郷の慰霊碑を訪れたシンは、自分が対戦しているモビルスーツのパイロットとは知らずにキラと出会う。シンは名も知らぬその青年の前で「いくら綺麗に花が咲いても、人はまた吹き飛ばす」と、平和を踏みにじる戦争への怒りを吐露するが、最終回でキラと再会したシンは、ようやく彼が敵対していたガンダムのパイロットであることを知り、驚く。握手のためシンに右手を差し伸べたキラは「いくら吹き飛ばされても、僕らはまた花を植えるよ、きっと……」と語りかける。これは勿論、第8話の会話を受けての台詞なのだが、つまりキラはあの日会った彼の言葉を覚えていたわけで、このロングスパンで結実する2人の関係性は「エモい」という言葉がぴったりだ。キラはシンに優しく微笑み「一緒に戦おう」と言葉をかけて、『SEED』から足かけ3年にわたる放送は一応の幕となる。

『SEED FREEDOM』の物語は、『SEED DESTINY』から2年後の世界。「一緒に戦おう」と言われたシンは、キラが隊長を務める部隊に所属し、世界平和監視機構コンパスの一員になっている。テレビシリーズ最終回の後、登場人物たちがどう生きたのか、シンとキラはどうなったのか気になっていたファンには嬉しい贈り物だった。

前述の通り、2006年のアニメ誌で制作発表が報じられた後、幾度かメインスタッフが進捗に言及したことはあったものの、『SEED』、『SEED DESTINY』両作品のシリーズ構成を担当した両澤千晶が2016年に他界し、続報がずっと途絶えたままだった。その後も続々と新たなガンダムシリーズは制作され続け、もはや実現しないまま終わるのかと映画を諦めていたファンも多かったことだろう。それだけに令和の新作『機動戦士ガンダム 水星の魔女』Season2(2023年)最終回の直後、この映画の告知が出たことは、ファンにとって十分なサプライズだった。

『SEED DESTINY』放送終了から約20年、映画化の第一報から時間をかけて熟成させただけはあるキャラクター描写の数々は、本当に「待っていてよかった」と思えるものだった。テレビシリーズでは敵味方に分かれていたキャラクターたちが、強敵を倒すために団結している姿が頼もしく、また燃えるのだ。注視したいのは、サンライズ制作の別作品『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』(2014年)からのフィードバックが感じられる点だ。

『クロスアンジュ』は『ガンダムSEED』シリーズの監督・福田己津央が、作品の内容に深く関与するクリエイティブプロデューサーという肩書で参加していた。人間社会の根底にある差別問題に、ガラの悪い先輩がお嬢様育ちの新入りを陰湿にイビる女囚ものの要素を加え、美少女ロボットアニメの枠組みに落とし込んだテレビアニメである。

『SEED FREEDOM』終盤の戦闘シーンに差し込まれる笑いを誘う要素や、キラに支援ユニットを届けるラクスのパイロットスーツ及びお尻を突き出す前屈姿勢のライディングポーズが、『クロスアンジュ』の可変メカ、パラメイルの操縦席を想起させるものであったり、『SEED FREEDOM』に『クロスアンジュ』のスタッフ、キャストが加わっている辺りは、福田己津央関連作品を観続けていたファンなら「おっ」となるポイントと思われる。その意味では、映画の制作が休止している期間に福田監督が他の作品で培ったものが本作に逆輸入されたとも言え、お披露目までに時間を要した意義があった映画ではないかと思う。

福田監督は1月26日に行われたスタッフトークショーの壇上で「さらに『SEED』を観たいという声が上がることが何よりもうれしいことです」と話しており、まだアイデアの引き出しはあるように見受けられるので、これからの新展開も期待したい。

(文=のざわよしのり)

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