アングル:「夫の闘い引き継ぐ」、ナワリヌイ氏の妻ユリアさんが政治活動示唆

Andrew Osborn

[ロンドン 19日 ロイター] - 北極圏の刑務所で先週死亡したロシアの反政府活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏の妻ユリアさん(47)は19日の動画で、ナワリヌイ氏の闘いを引き継ぐ意向を示した。これまで野党指導者の座を継ぐことに否定的だったが、夫の死を受けて今後は政治活動に本格的に関わる可能性を示唆した。

ユリアさんは「プーチン(大統領)は夫を殺すことで、私の半分を殺した。私の心と魂の半分を。けれど残りの半分は生きていて、その残った部分が私自身に『屈する権利はない』と教えてくれている。私は夫の取り組みを続け、祖国のための闘いを続ける」と述べた。

夫の死後に妻が政治活動を引き継いだ例には、米公民権運動家コレッタ・スコット・キング氏、フィリピンのコラソン・アキノ氏、ベラルーシの野党指導者スベトラーナ・チハノフスカヤ氏などがある。

親ロシア政府系ソーシャルメディアはユリアさんに関して事実と異なる情報を流すなど個人攻撃を開始しており、彼女を脅威とみなす勢力があることがうかがえる。

ユリアさんは動画でプーチン氏が夫を殺害したと非難し、復讐を望んでいると述べた。「私の怒りを分かち合ってください。私の怒り、憤怒、あろうことか私たちの未来を殺した者どもへの憎しみを分かち合ってください」と訴えた。

ナワリヌイ氏の後継者は誰であろうと、重要人物の死亡や投獄、亡命で弱体化している反政府運動を引き継ぐことになる。ナワリヌイ氏の支持者の多くは、反政府活動が過激派の烙印を押されたことで海外に出国。ロシアの政治体制は厳しい統制が敷かれ、国内に残っている人々にはほとんど活動の余地がない。

しかしウクライナ戦争に反対する呼びかけを含むユリアさんの声明は3時間で150万回余り視聴され、コメントは5万件近くに達した。19日にユリアさんの名前で「X」に開設された、彼女の動画による声明を紹介するアカウントは3時間で140万回視聴され、すぐに数万人のフォロワーを獲得した。

常に亡命を否定し、2021年にドイツでの毒物治療から帰国後に逮捕された夫と異なり、ユリアさんは帰国の計画を公表していない。しかし海外に留まり続ければ政府から「外国の操り人形」と批判を浴び、政治的に重要な役割を果たすのが難しくなる恐れがある。

<徹した支え役>

ユリアさんは19日まで公的な政治活動にはほとんど関わっておらず、夫を支え、家族の絆を維持する役割を強調していた。反プーチンの立場を夫と共有していることを明言しながらも、公の場への登場や発言は夫にとっての節目に限定し、夫の釈放と人道的な処遇を提唱した後は再び公の場から退いていた。

一方、2人の互いへの強い思いがうかがわれる場面は多かった。

ナワリヌイ氏は昨年8月に新たに懲役19年の刑期を言い渡されたとき、ガラス張りの法廷の檻(おり)の中から、外で見守るユリアさんに両手でハートの形を作った。

ユリアさんは経済を学び、銀行に勤務した経験を持つ。何年も夫の傍らで抗議活動に加わり、裁判に出席、自身も何度か拘留され、夫が20年の毒殺未遂事件から回復するのを支えた。

モスクワ生まれで、名門プレハーノフ・ロシア経済大学を卒業。父は著名な科学者ボリス・アンブロシモフ氏。ナワリヌイ氏とは1998年に休暇で訪れたトルコで出会い、2年後に結婚。娘と息子を授かった。

ユリアさんは16日に夫の死が報じられてから数時間後にはドイツのミュンヘンで開催された安全保障会議に予告なく登壇、聴衆にプーチン氏の責任を問うと表明した。ミュンヘンではさらにブリンケン米国務長官と会い、亡命中のベラルーシ野党指導者チハノフスカヤ氏とも会談。19日にはブリュッセルで開かれたEU外相会議に出席した。

ロシア政府はユリアさんの動きを注視している。

政府の元顧問セルゲイ・マルコフ氏は19日、ユリアさんを「ジャンヌ・ダルク」のような人物に仕立て上げようとしていると欧米の情報機関を非難。やがて忘れ去られるだろうと述べ、「静かな場所」にとどまるよう忠告した。

分析会社R・ポリティクの創設者のタチアナ・スタノバヤ氏はユリアさんの声明について、「独立した政治的役割への明確な意思表示」だとしながらも、さまざまな「落とし穴」が潜んでいる恐れがあるとし、ユリアさんの今後を予想するのは時期尚早だと見ている。

「彼女が何を提供できるかに多くは掛かっている。拷問を受けて亡くなった傑出した政治家の未亡人としてではなく、独立した人物として何ができるかだ。人々を遠ざけないような自身の政治スタイルや中身、チームを見つけることができるだろうか。時がたてば分かるだろう」と話す。

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