【解説】 ユリア・ナワルナヤ氏が立ち向かう困難な挑戦 夫ナワリヌイ氏の死を受けて

サラ・レインズフォード東欧特派員

何年もの間、ユリア・ナワルナヤ氏はほぼ常に、ロシアの反体制活動家である夫アレクセイ・ナワリヌイ氏のそばにいた。政治的な抗議活動や裁判でもその場にいて、しばしばナワリヌイ氏の手を握っていた。

2020年にナワリヌイ氏が神経剤を盛られた際、救命治療のために彼をロシア国外に搬送する許可を求めたのもナワルナヤ氏だった。

ナワリヌイ氏は16日、ナワルナヤ氏から遠く離れた北極圏の刑務所で、孤独のうちに亡くなった。

夫の死について、ナワルナヤ氏はロシアのウラジーミル・プーチン大統領を非難。ロシアの人々に、自分と共にプーチン氏と戦うよう呼びかけた。

ナワルナヤ氏は19日に動画の声明をインターネットに投稿。慎重に、だがドラマチックに、政治の世界のスポットライトの中に入っていった。夫への強い愛と鮮烈な悲しみに満ちた動画は、時に見るのもつらくなるようなものだった。

しかし同時に、非常に説得の力のある声明だった。

ナワルナヤ氏は、自分は二つに引き裂かれ、心が壊れたと話した。だが、夫の大義を継続する活力となっているのは怒りだ。

ナワルナヤ氏は、ナワリヌイ氏の「考えられない」死を無駄にしないためにも、彼の言う「美しい未来のロシア」を実現したいと語った。

現在、とても落ち込んでいるだろう反プーチン派のロシア人にとって、この演説は元気を与えてくれるものだっただろう。

この瞬間まで、ユリア・ナワルナヤ氏は控えめでよそよそしかった。しかしこの動画を見ると、非常に内面的な強さを持った女性であることがわかる。

ナワルナヤ氏の喪失感、そして愛が、彼女に明確な道徳的権威を与え、人々を引き付けている。

力強い女性たち

過去にも、男性の不在時に、力強い女性たちが助けに入る前例がある。

最も有名なのは、2020年のベラルーシ大統領選での出来事だ。政治経験のないスヴェトラーナ・チハノフスカヤ氏は、政権に批判的だった夫セルゲイ・チハノフスキ氏が出馬を禁じられ収監された後、自ら出馬を決めた。現職のアレクサンドル・ルカシェンコ大統領はチハノフスカヤ氏を軽視し、この出馬を許した。

この性差別によってルカシェンコ大統領は危うく、その長期政権を失うところだった。ルカシェンコ氏が地滑り的勝利を宣言したとき、チハノフスカヤ氏は大群衆と抗議デモを行い、選挙不正だと叫んだ。

彼女はベラルーシ国家保安委員会の警告を受けて国外に脱出せざるを得なくなり、現在は亡命中の「大統領」として活動している。

エフゲニア・カラ=ムルザ氏も、世界的な役割を担っている。

夫の反体制派活動家ウラジーミル・カラ=ムルザ氏が、2015年と2017年にモスクワで毒を盛られた際、エフゲニア氏は病院に付き添い、「犬のように」夫を守った。

ウラジーミル氏は当時、プーチン氏の側近たちへの制裁を強化するよう、西側諸国の指導者たちに働きかけていた。

同氏は2022年に、ロシアのウクライナ侵攻を批判したとして逮捕され、2023年に禁錮25件の刑を受けた。

エフゲニア氏は現在、西側の国々を回り、夫の行っていた制裁への働きかけを続けるとともに、夫の自由を求めて活動している。

反体制派の弾圧

ユリア・ナワルナヤ氏も、同じような役割を担う可能性がある。

ナワルナヤ氏はすでに、欧州連合(EU)の外相らと会談。外相らはナワリヌイ氏の死について「怒り」の声明を発表した。声明では、「最終的な責任」はプーチン氏にあると宣言し、詳細は述べられていないものの、「さらなる制裁」を約束した。

しかし、ロシア国内の反対勢力を率いることは難しい。

そもそも、ナワルナヤ氏は国外にいる。プーチン氏が自分の夫を殺したと批判したばかりの今、活動家としてモスクワに戻ることは非常にリスクを伴うだろう。

ロシア国内では、ナワリヌイ氏の政治団体は「過激派」として活動を禁じられている。これは、武装組織「イスラム国(IS)」やアルカイダと同じ扱いだ。

2021年4月、ナワリヌイ氏の団体は、追放される前の「最後の戦い」だとアピールし、抗議デモを呼びかけた。その大義は強固だった。警察の動員も大規模だった。

しかし、参加者の数は期待ほどではなかった。これ以降、あらゆる反体制派への圧力が強まった。

ナワリヌイ氏の同胞は、本人と同じように収監されているか、拘束を恐れて逃亡しているかのどちらかだ。

プーチン大統領は政権を握ってきた20年をかけ、組織的にすべての反体制派を弾圧してきた。

ナワルナヤ氏が率いる対象は、ほとんど残っていない。

絶望的な追悼

ロシア各地でナワリヌイ氏を追悼するためにささげられた花の山は、多くの人々が変化を望んでいることを示している。

黒いフードを被った男たちによって追悼の花が撤去されるたびに、人々はさらに多くの花を持ってくる。これは静かで平和的な抵抗行為だ。

ナワルナヤ氏が動画で呼びかけたのは、拳の下に団結し、プーチン政権に「強烈なパンチ」を浴びせることだった。

しかし、人々の恐怖と無力感はあまりにも強い。

結局のところ、アレクセイ・ナワリヌイ氏は生前、最も激しいパンチを浴びせ、そのために大きな代償を払ったのだ。

(英語記事 Alexei Navalny's widow Yulia faces daunting challenge in Russia

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