日本の城、年表から紐解く画期的な書籍 『古代から現代まで城の変遷が劇的にわかる 日本の城年表』の面白さ

■年表から見る城の本、なぜ注目される?

コロナ禍の収束とともに旅行がブームになっており、日本各地にある城巡りの人気が復活している。城巡りをする人は歴史愛好家から武将ファン、インバウンドまで様々であり、さらに御朱印ならぬ“御城印”のサービスも人気だ。さらに、日本100名城や世界遺産に登録された城、国宝の天守がある城だけでなく、マニアックな山城にもファンが殺到しているという。

なぜ、これほどまでに城は人々の心を惹きつけるのか。そして、日本の城はどのようにして成り立ち、守られてきたのだろうか。そうした問いに答える一冊が2月20日に発売された。『古代から現代まで城の変遷が劇的にわかる 日本の城年表』(西ヶ谷恭弘/監修、朝日新聞出版/刊)である。城郭研究の第一人者である西ヶ谷恭弘氏が監修している。城の発展の歴史を紐解くと、日本の政治史、経済史、そしてその時代の人々の暮らしまでもが見えてくることがわかる。

城の歴史をまとめた書籍はこれまでも数多く出版されているが、注目されるのは古代から現代まで、時代ごとに分けて、城を網羅的に扱っている点である。例えば、多くの人は城という単語を聞くと、安土桃山時代から江戸時代の城を思い浮かべるかもしれない。しかし、その城のルーツはといえば、古代に築かれた環濠集落までさかのぼることができる。さらに鎌倉時代の蒙古襲来など、大陸からの侵攻などに備えて築かれた城もある。

■明治以降の城の歴史も網羅

そして、この本で注目されるのは明治時代以降の城の歴史について、詳しく解説している点だ。明治維新を経て城は無用の長物となり、破却される例が相次いだため、その歴史はあまり顧みられることがなかったのではないだろうか。しかし、明治時代以降にも城が活用されるケースは少なくなかったのだ。西郷隆盛が明治政府に反旗を翻した西南戦争では熊本城が舞台に戦いが繰り広げられたし、陸軍の基地や倉庫が城跡に築かれることもあった。

さらに、明治の半ばになると城は文化財としての価値を見出されるようになり、地域のランドマークとしての性格も付与されることになった。昭和初期になると名古屋城の天守や本丸御殿群が城郭建築では初めて国宝に指定され、姫路城の天守なども順次国宝になっていき、城は地域の観光の目玉になっていったのである。明治以降は、江戸時代までの人々が抱いていた城への価値観が劇的に転換した時代であったといえよう。

城は文化財として保護されるようになったが、第二次世界大戦の空襲では名古屋城や和歌山城、広島城の天守が一度に焼失し、戦後間もないころには大坂城にあった紀州御殿や松前城の天守が失火で焼失している。その後、高度成長期に入るとお城復活ブームが起こり、戦災で失われた天守を中心に鉄筋コンクリートで再建されていく例が目立った。平成になると、より本物志向の再建が求められるようになり、掛川城天守のように本格的な木造による天守の建設が盛り上がるようになった。

こうしてみると、時代によって人々が城に求める事柄も大きく変遷していることがわかる。そして、最近も焼失した首里城正殿の再建や、福山城天守のリニューアルなど、城の話題がない日がないほど、城は人々の関心事になっている。令和の時代まで続いている城の歴史を俯瞰的に知りたい人には、おすすめの一冊といえるだろう。

▼DATA
『古代から現代まで城の変遷が劇的にわかる
日本の城年表』
西ヶ谷 恭弘:監修
ISBN:9784023341395
定価:1760円(税込)
発売日:2024年2月20日
A5判並製 256ページ

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