別れた恋人のSNSを「監視」する友人への違和感…“知りたい欲”がもたらす異常な思考とは

匿名で気軽に投稿を楽しむのがSNSのメリットですが、アカウントの持ち主が友人や知り合いだったり、また恋人だったりすると、親近感からついチェックしてしまうという人もいるでしょう。

仲がいいなら、お互いの投稿について話題にして盛り上がるのも楽しいですが、問題なのはネガティブな出来事があって疎遠になってから。

アカウントを知っているばかりに、自分と離れたその後が気になって「情報」を追ってしまうのが当たり前になると、普段の生活にまで影響を及ぼす可能性もあります。

ある女性は、男友達の元カノへの執念を目の当たりにして戸惑ったと話してくれました。

同じ趣味の男友達と仲良くなり…

晶子さん(仮名/33歳)には、ゲームが共通の趣味でいつも楽しく話せる男友達のAさん(30歳)がいました。

「Aと知り合ったのもあるゲームの攻略を紹介する掲示板で、フレンドの登録をして個人的に話すようになりました。

ゲームの世界観を守る楽しみ方だけじゃなくてマナーとかも感覚が似ていて、お互いに性別は無関係で親しみが湧いていたと思います」

そう話す晶子さんには彼氏がいて、そんなことも関係なくAさんとはプライベートなことも打ち明けあえる仲になったそうです。

「ふたりともネット好き」で、使っているSNSサービスも同じだったことからそちらの話でも盛り上がったといいます。

Aさんは「彼女と別れたばかり」と晶子さんに話していました。

「失恋の愚痴をSNSについ書き込んでしまう、と前に言っていたのを覚えています。

でもアカウントはハンドルネームで自分とはわからないし、本人に迷惑をかけるわけじゃない、と開き直っていたのが印象的でした。

確かに、つらい気持ちを吐き出せるのがSNSだし、そんな使い方もありだなとは思ったのですが……」

晶子さんがAさんの言動に違和感を覚え始めたのは、元カノの話題が多くなってからでした。

垣間見える「元カノ」への関心の大きさ

「普段は、ゲームとか仕事のこととか、お互いの近況を電話やLINEでは話していたのですね。

Aは男の人だけどコソコソしたくないので彼氏にもきちんと話していて、理解してもらっていました。

それでAにも彼氏の話なんか少しするのですが、そこからAの元カノさんの話題になることが増えたと気がついて」

晶子さんが気になったのは、Aさんが口にするのが「いつもSNSにある元カノさんのアカウントから得た情報」だったことです。

今日は何を食べたとか誰とどこに行っていたかなど、投稿された内容を「楽しそうでよかった」と話す一方で、「新しい彼氏はまだいないみたい」と繰り返すAさんに、未練があるのだなと晶子さんは感じます。

最初は今やっているゲームについて話していたのに、気がつけば元カノの「会社の男を褒めていた」「裏でどんな仲になっているやら」とSNSの投稿についてストレスを溜めているAさんの様子を、晶子さんは心配していました。

「未練があったら、別れた元彼のアカウントを私も追うかもしれないと思ったら、Aの気持ちはわかるのですね。

気になってチェックするのも理解できるのですが、何ていうかA自身に元カノさんを忘れる気がないし、いつまでそうするのかなって」

まだ好きなら接触してみれば、とアドバイスまがいのことも言ったという晶子さんですが、そのときは「喧嘩して終わったから、きっと嫌われている」とAさんはすぐに返したそう。

嫌われているかもしれないのに元カノのアカウントを日々チェックしては行動を確認するような姿からは、関心の大きさが伝わってきました。

チェックが「監視」になるとき

別れた恋人のSNSのアカウントをこっそり見るようなことは、心当たりがある人も多いと思います。

それが悪いというわけではなく、誰でも見ることができるSNSなら相手について少しでも情報がほしい、としがみつくこともありますよね。

問題は、その行動が相手への悪い執着を育てる流れになるときです。

「Aから電話がかかってくると、ほとんどが元カノさんの話題でした。

あるときは『◯◯って書いているのだけど、どういう意味?女の人ならわかる?』と元カノさんの投稿について私に意見を求めてきて、『本人じゃないからわからないよ』と答えるしかなかったです」

これは元カノの「匂わせ」かもしれない、一緒にいる相手は男かもしれない、とひとつの投稿を取り上げて騒ぐAさんの姿は、未練を通り越して執着のようなしつこさを感じたといいます。

復縁を求めるでもなく、忘れるための努力をするでもなく、元カノのアカウントを小まめに確認しては情報を知りたがるのは「自分が忘れられるのが怖いのかもしれない」と晶子さんには映りました。

「Aが『俺じゃないやつと』って言ったときがあって、要は新しい彼氏ができるのがイヤなのだなと思いましたね。

自分と付き合っているときに行ったお店に『男性らしき人物』と出かけた内容があったらしく、それに対して怒っていました。

『誰と行くのも自由じゃない』と呆れて返したら、『デリカシーがないだろう』って、あなたは自分がしていることは棚上げしてないかって、ツッコミたくなりました」

だんだんとAさんの相手をするのが大変になってきた晶子さんは、着信があっても出ずにLINEでも元カノの話題はなるべくすぐに切り上げて別の話をするようになったといいます。

「ある日、Aが『もうすぐあいつの誕生日で、男と過ごすかもしれない』って電話で言ってきて、『◯日は要チェックだな』って。

それはもう監視では、と背筋が寒くなって、そのときは答えずにゲームの話を振りました。

電話を切ってから彼氏にこのことを話したら、『そのうちつきまといとか始めそうで怖いね』って、私と同じ感想でしたね」

そんな自分についてAさんが「何の疑問も持っていない」ことも、晶子さんはおそろしかったといいます。

他人に支配される思考

彼氏から「ゲーム好きで話が合うのはわかるけど、その人との付き合いはちょっと考えたほうがいい」と言われた晶子さんは、Aさんの話を聞くことにすっかり疲れており距離を取ることを決めます。

「仕事が忙しくなるから、これからは電話とかLINEは難しくなるかも、とメッセージを送りました。

そうしたら、『元カノもそう言ってだんだん連絡が来なくなった』って返事が来たのですね。

それを読んだときに、ああもうダメだと思いました」

どんなことも「元カノ」に置き換えるAさんの姿を見て、これ以上会話はできない、とはっきりと思ったそうです。

晶子さんから見たAさんは「まるで元カノさんに支配されているようでした」と振り返りますが、別れているにも関わらず思考の基準がその人になってしまうのは、依存状態といえます。

言動や振る舞いを自分で決めているつもりでも、その選択のベースには他人の姿があり、その人の言動や振る舞いによって自身の気持ちが左右されているのですね。

Aさんと晶子さんの関係のはずなのに、晶子さんの状況に元カノの有り様を持ち出すのは、そこに晶子さんはいないのと同じです。

友人であれ、そんな流れになる会話が楽しいと思えるはずがなく、晶子さんはそれきりAさんとは連絡を取らなくなったそうです。

別れた元恋人への未練をどう扱うか、SNSの投稿を利用して情報を得ようとする気持ちはわかるけれど、向ける関心も度が過ぎれば自分を追い詰めます。

ほかの人との関係にまで悪い影響が出るのは、執着は視野を狭くして自分の考え方や言動のおかしさに気がつく隙間がなくなるからです。

「いい友達だったけど、元カノさんのことで頭がいっぱいでは前向きな話ができないし、どう接していいかわかりません。

申し訳ないけど、遠ざけないと私までどんどん気が滅入るので……」

ため息をつきながら、晶子さんはスマートフォンに視線を向けました。

「SNS依存」になる前に

元カノの「その後」が気になり、毎日こっそりと投稿を見に行っては情報を得る、日常を把握したがるのは、未練と感じます。

SNS以外でその人の姿を知る手段がないと、チェックすることがやめられずに常に更新を期待するようになり、自分こそ「日常」の多くの時間を相手に費やします。

仕事中でもトイレに入るときでもスマートフォンが手放せず、最新の情報をいつもほしがってSNSを覗くのは、いわゆる「SNS依存」の状態。

SNS依存は、自分の承認欲求を満たす手段としてそこでの反応に心が囚われていることを本来は指しますが、こんな「元恋人への執着から見ることがやめられない」のも、SNSに縛られている証拠といえます。

この男性に限らず、「自分が目を離しているスキに何かあったら嫌だ」とばかりに相手のアカウントを執拗にチェックする人はいて、意識が「投稿の確認」に向く回数が多く、その結果ほかの人とのつながりでも相手の姿が前に出ておかしな振る舞いをします。

元恋人や疎遠になった友人など、ネガティブな終わりを迎えた人ほどその後の過ごし方が気になるのは理解できますが、「把握すること」にこだわると次は「監視」が始まり、自分の思考が相手に支配される危険を忘れてはいけません。

気軽に触れられるからこそ、ときには思い切って自分から遠ざけるのも、健全な心でいるためには大切です。

「人の投稿によって追い詰められる」ような状態こそSNSでは避けるべきで、心の在り方が悪いほうに傾いている、と気がついたら意識から切り離す努力をしましょう。

SNSが身近になった現代は、誰かの情報を得たいと思えばすぐ手に入れることができるかもしれませんが、意識を向けすぎるとその人の存在に心が左右されるようになります。

言葉を目に入れる機会を減らすのは、思考の軸を自分に置くために重要です。

振り回されることなく、自分の前向きな気持ちを第一にできるような使い方を、SNSでは心がけたいですね。

(mimot.(ミモット)/ 弘田 香)

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