「早くトンネルを抜け出したい」7か月不発のキ―ル町野修斗は昇格争いの起爆剤になれるか。周囲の環境にも言及「いい人ばかりで助かっています」【現地発】

今季、ブンデスリーガ2部を首位で折り返したのが、昨夏に湘南ベルマーレから加入した町野修斗が所属するキールだ。

シャルケ、ハンブルク、トッテナム、フルアムなどで活躍したベテランMFルイス・ホルトビーを中軸に、ベネディクト・ピヒラー、スティーブン・スクリプスキ、フィエテ・アルプのオフェンシブトリオが好調をキープ。攻守のバランスが噛み合ったことで、着実に勝点を積み重ねてきた。

それまでずっと3、4部リーグにいたキールがブンデスリーガ2部へ初めて昇格したのが16-17シーズン。そこから7シーズン目で悲願となる1部昇格への可能性を感じつつあるファンも少なからずいることだろう。

ただ、24年に入ってからブラウンシュバイク、フュルトに連敗。ピヒラー、アルプが負傷離脱した影響は少なくなく、攻撃が停滞気味になっているのが気になるところだ。

ならば町野の爆発で不振脱出と行きたいところ。カタール・ワールドカップのメンバー入りも果たした日本代表FWがブンデス2部クラブを移籍先に決断し、27年までの4年契約にサインをしたというのは、少なからずの驚きをもたらした。

キールのSDウーベ・シュテーファーは「町野修斗に移籍を決断してもらえて非常にうれしい。この移籍はクラブにとって偉大な歴史だ。ドリブルが巧みで、コンビネーションプレーも得意な修斗を獲得できたことで、チームのオフェンシブはさらにバリエーション豊かになるだろう」と喜びのコメントを残している。

開幕からスタメンで起用されると、4試合で2ゴール・2アシストと結果を残す。キールファンの中には「うちのクラブでプレーするには良すぎるよ」と口にしていた人もいたほどだ。

【動画】左足ダイレクトで決めた町野修斗の移籍後初ゴール!
だが、ここから下降線をたどりだす。サッカー専門誌『キッカー』の評価でも落第点をつけられ出し、10、11節でスタメンを外れ、出場機会もなし。12節オスナブリュック戦でスタメン復帰したものの、大きなアピールができないまま58分に途中交代。16節デュッセルドルフ、17節ハノーファーとの試合で再びスタメンを勝ち取り、上々のパフォーマンスを披露したが、今年に入ってからもまだネットを揺らせず、約7か月もゴールから遠ざかっている。

本人はドイツサッカー、そしてドイツでの生活への順応と向き合っている段階だと明かしている。キールの地元紙『キーラーナッハリヒテン』の取材に次のように正直な告白をしていた。

「ドイツ語は一生懸命勉強してますけど、まだまだ助けが必要ですね。周りのことがこれまでと全く違う中で、あまり多くの人と話すことができない。時々孤独を感じてしまったり、メンタル的に穴に落ち込んでしまったと感じてしまったこともあります」

今の時代、スマホですぐに誰とでもコンタクトを取れるという側面はあるが、それだけですべての問題が解決するわけではない。人間同士現場でのコミュニケーションが円滑であればあるほど、気持ちを解放して取り組める。結果が出ているときはさほど問題にならないことも、思うようにいかないときは心に大きくのしかかってしまう。

日本代表の仲間と情報交換をし、経験者の話を参考にしている。だが最後のところで取り組まなければならないのは自分自身。そんな町野にとって冬に一時帰国できたのは大きなリフレッシュになったようだ。

「僕にとってはとてもよかったし、自分を取り戻して、新しい力を蓄えることができた」

クラブも町野がはやく順応できるようにとサポートをしている。ラップ監督やコーチ陣は説明に時間を取り、町野がわからないときはゆっくりと何度も説明し直してくれたりするそうだ。

「いや本当みんな人としていい人ばかりで助かっています。監督やコーチとかにも恵まれている。この機会をしっかりつかみたいです」

20節マグデブルク戦後に町野はそう語っていた。この試合では前線で身体を張り、ヘディングで起点となり、サイドに流れてパスを呼び込み、守備では連続してプレスに走りとチームに貢献していたが、一方攻撃では相手のアグレッシブなプレーに押され、前線で孤立するシーンが続き、シュートはゼロ。

「シュートを打てなかった。打ちたかったですけど。守備の面とか競り合いのところでタスクは最低限できましたけど、何よりずっと点が取れてない。早くこのトンネルを抜け出したいですね」

手ごたえと課題を積み重ねながら、また次へと顔をあげて取り組んでいく。時間はかかるかもしれない。でもいつか必ずきっかけをつかむことができるはずだ。そして1部昇格への起爆剤となってほしいものだ。

取材・文●中野吉之伴

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