スコープ/働き方改革、土木学会建設マネジ委特別小委員会委員長・堀田昌英氏に聞く

◇オール建設産業の連携効果期待
2024年度から建設業に適用される時間外労働上限規制を契機に、産学官の有識者が参加した土木学会建設マネジメント委員会の特別小委員会が働き方改革を推進するための提言を1月に公表した。多様なステークホルダー(利害関係者)が存在する建設生産管理システムの特性を踏まえ、施工者、設計者、発注者らの連携によるオール建設産業でのプロセス効率化を打ち出した。その背景や狙いなどについて、委員長として議論をリードした東京大学大学院の堀田昌英工学研究科社会基盤学専攻教授に聞いた。
--改めて特別小委を設け議論してきた経緯を。
「従来の働き方を含め建設生産管理システムを近代化していくことが大きな課題とずっと思っていた。働き方改革関連法の全面施行を4月に控えたこのタイミングが最適だと考えたからだ。特別小委には施工者や設計者、発注者など産学官の多様な関係者が参加した。建設生産管理システムに関し、それぞれの立場で問題意識が異なる一方、連携することによってさまざまな働き方改革の成果を生み出せると期待し議論してきた」
--従来の建設生産管理システムにどのような問題意識を持っていたか。
「公共工事品質確保促進法では受発注者にそれぞれ品質管理の責務が定められている。本来なら受発注者双方が下請の協力会社などで働く技能者も含め、全現場従事者一人一人の労働条件や作業実態をきちんと把握し共有しておく必要がある」
「上限規制をクリアしようとする場合、官民問わず適正工期を設定することが最も大事な対策の一つになる。ただ受注者あるいは発注者だけで対応するのではなく、受発注者双方がしかるべき責任を全うしないと上限規制はクリアできないだろう」
--提言は三つの時間軸を設定してまとめた。ポイントは。
「上限規制適用まで早急に対応すべき取り組み、建設産業全体の生産性を図る中期的取り組み、持続可能で魅力ある産業を実現するための長期的取り組みという3段階の時間軸で構成している。このうち当面の上限規制適用まで早急に対応すべき取り組みは、既に多くのステークホルダーが推進している。今後は建設産業全体に周知、定着させることが必要だ」
--中期的取り組みでは、多様なステークホルダーの連携による生産性向上も打ち出した。
「好事例の一つが鋼橋の上部工で建設コンサルタンツ協会(建コン協)が持つ設計段階のあらゆるデータと、日本橋梁建設協会(橋建協)が保有する施工段階のさまざまなデータを連携させる取り組みだ。こうした設計や施工など各段階の連携が広がっていけば、提言で目標の一つに挙げる建設生産管理システムのプロセス効率化が進んでいくだろう」
--長期的取り組みでは、働き方改革の最終目標として魅力ある建設産業の実現による担い手確保・育成を掲げる。
「提言の具体化を後押しし、良好な労働環境の下でインフラの整備や維持管理を行えるようにするきっかけにしたい。そうなれば将来、若い人が建設業で働きたいと思える持続可能な産業に発展していくのではないか。土木学会は22年6月にインフラや国土の未来像を示す『土木のビッグピクチャー(長期的全体俯瞰〈ふかん〉図)』を提言した。これからはインフラを提供するプロセスや働き方も変わっていかないといけない。春にもシンポジウムまたはワークショップを開き、今回の提言を発信していく」。

□書類作成時間削減、土木学会の提言要旨□
土木学会建設マネジメント委員会の小委員会が1月に公表した建設業の働き方改革に関する提言。当面は4月から適用される時間外労働上限規制に対応し、工事関係書類の作成時間削減を「働き方改革の一丁目一番地」と位置付ける これも含めたあらゆる対策について、建設会社だけでは実現困難と認識。発注者や設計者らも含めたあらゆるステークホルダーによる、オール建設産業での取り組みを推進を訴える。
提言要旨は次の通り。
【上限規制適用まで早急に対応すべき取り組み】
▽賃上げや適正工期の確保など継続的に進める
▽好事例を共有し展開する
▽書類作成時間を大幅に削減する
▽発注者、設計者、施工者が連携しプロセスを効率化。時間の無駄や工程へのしわ寄せをなくす
▽時間管理の重要性を認識し生み出した時間を「溶かさない」
【2030年代頃までに建設産業全体の生産性を図る中期的取り組み】
▽生産性向上に寄与する技術開発を積極的に推進するための環境を整備
▽建設生産・管理システムをデータでつなぎ建設産業の働き方を根本から変える
【2040年代頃までに持続可能で魅力ある建設産業を実現するための長期的取り組み】
▽建設産業の魅力向上・発信と多様な人材育成による人材の裾野拡大
▽持続可能な建設産業とするための仕組みづくりと地域から全国へのプラットフォーム構築
▽持続的に「人材」「時間」「資金」を確保するため働き方改革と合わせて社会インフラに関する中長期計画を策定。

© 日刊建設工業新聞社