笠置シヅ子が映画で重宝された理由とは? 『ブギウギ』を観てこそわかる贅沢な“演技”

NHK連続テレビ小説『ブギウギ』第21週では、スズ子(趣里)はタナケン(生瀬勝久)との映画撮影に臨んでいる。ステージとはまた違った立ち振る舞いと、スタッフが多くいる環境に戸惑いを見せながらも、スズ子は新しい仕事に奮闘している。

スズ子のモデルである笠置シヅ子も数々の映画に出演している。映画は戦後に娯楽として急速に発展し、まさに世の中の“流行りモノ”であった。笠置が出演した映画の多くは「シネ・オペレッタ」と呼ばれた歌謡映画で、劇中で自分のヒット曲を歌うことも多かった。

その中のひとつが、高峰秀子、岸井明、灰田勝彦らその時代のスターたちが勢揃いし、1949年に公開された『銀座カンカン娘』である。この映画の主題歌は服部良一が作曲した同名曲で、共演した高峰秀子が歌っているバージョンがレコード化されており、劇中ではシヅ子も同じ曲を熱唱している。またそのほかにも自身の曲である「ラッパと娘」の一部を披露しており、『ブギウギ』を観たあとにこの映画を観ると笠置の贅沢な起用のされ方に驚いてしまう。

“歌パート”以外での笠置の演技は女優というより、まるで芸人のように身体を張っている。笠置が演じる声楽家を目指す春はひょんなことから映画のエキストラとしてカメラの前に立つことに。だが用意されていたのは、女優の代わりに噴水の池に放り込まれるという役。親友の秋(高峰秀子)に呼ばれてひょこひょこやってきただけの春は、ものの数秒でずぶ濡れになるのだった。

笠置はこの時には「東京ブギウギ」「ジャングル・ブギー」をリリースしており、誰もが知る「ブギの女王」だったはずだ。だが、歌だけにこだわらず、与えられた役柄を全力で全うするその姿から、観る人を笑顔にしたい、自分に出来るエンターテインメントを届けたいという思いが伝わってくる。きっと全ての仕事にそのような思いで臨んでいたのだろう、この時にはすでに笠置は喜劇女優としても世間に広く知られていたという。

服部を笠置の音楽の師匠とするなら、演技の師匠はエノケンこと榎本健一であった。エノケンは、『ブギウギ』のタナケンのモデルと思われる人物である。エノケンは笠置に「君は歌手で役者ではないから、芝居のツボは外れている」「しかし、それが面白い効果を出している」と言ったというエピソードが残っている。おそらく、これが喜劇映画や歌謡映画に笠置が引っ張りだこだった理由だろう。エノケンからの演技指導で笠置の演技力はみるみる向上し、いつしか「女エノケン」と呼ばれるようにまでなったという(※)。

『ブギウギ』でも「つまらないものを見せたらそっぽ向かれて、しまいやぞ」とタナケンから厳しいことを言われていたスズ子。このような言葉をしっかりと受け止め、全力を出せる、まっすぐさがスズ子のいいところだ。最近は鮫島(みのすけ)が彼女の周りを嗅ぎ回っていて不穏だし、誤解をそのままにしておけないスズ子の性格がりつ子(菊地凛子)との無用な対立を生みそうでハラハラするが、どうにかこの困難を乗り越えてほしい。

■参照
※ 砂古口早苗『ブギの女王・笠置シヅ子-心ズキズキワクワクああしんど-』現代書館、2010年
(文=久保田ひかる)

© 株式会社blueprint