『リビングの松永さん』美己を救った健太郎の“お兄ちゃんムーブ” 向井康二の優しさ光る

人生で誰かと「好きな人が被る」経験をしたことがある人は、案外多いのかもしれない。しかし、自分の担任と好きな人が被った高校生は、後にも先にも美己(髙橋ひかる)だけだろう。

松永が保護者代わりに出席した三者面談で、夏未(若月佑美)と偶然再会した松永(中島健人)。美己は恋のライバルが、まさかの自分の担任であることにショックを受ける。『リビングの松永さん』(カンテレ・フジテレビ系)第7話では、“小夏”こと、松永の元カノ・夏未がいよいよ動き出す。

容姿端麗、自立した大人でさっぱりした性格の夏未は、女子高生の恋のライバルにしてはあまりにも強敵すぎる。夏未が松永のことを「純」と呼ぶ距離感ひとつとっても、劣等感を感じてしまうのも無理はない。しかも、前回美己を励ますアドバイスを送ってくれた存在であるからこそ、なかなか憎めない女性でもある。

そんな美己の気持ちを見抜いていたのが、シェアハウスの同居人の凌(藤原大祐)だ。美己のことを思っているからこそ「俺たち、同期だろ?」とポジティブに美己を励ます凌。そんな彼に、多くの視聴者が思わず「なんていいやつなんだ!」と感激したのではないだろうか。

そしてやはり『リビングの松永さん』といえば、シェアハウスで行われるイベントの描写が楽しい。こんなにも年中賑やかなシェアハウスも珍しいのかもしれないが、住人たちの仲の良さが毎話伝わってくる。しかし、そのシェアハウスの“歴史”が新参者である美己を苦しめることになるとは。

誕生日当日。普段はぶっきらぼうな松永だが、みんなからのサプライズでのお祝いに嬉しそうな表情が隠せない。

やはり情に熱い松永は、なんだかんだいっても、人付き合いが好きなのだ。もっといえば“相手の心にしっかりと踏み込むようなコミュニケーション”が好き、という方が正しいのかもしれない。ただほんの少しだけ、感情の伝え方が下手なだけ。

それでも直感的に相手の痛みがわかるからこそ、環境に馴染めない人や新しい人、1人になってしまっている人を放っておけないのだろう。そんなところがまた、松永の良さでもある。

パーティー当日、美己は松永への手作りのバースデーケーキを用意するが、夏未の豪華なケーキの差し入れに気後れしてしまう。さらに、シェアハウスのメンバーたちと夏未の再会による楽しい雰囲気に「知らない家みたいだな」と孤独を感じ、場を離れる美己。夏未が悪げなく発する「懐かしい」「変わってないね~」という言葉に宿る“知らない時間”が、美己の心をじわじわと苦しめていく。

注目すべきは、“買い出し”と称してシェアハウスを出ていった美己への男子メンバーたちの対応だろう。今回は、それぞれの形での美己への思いの向け方が如実に表れた回だったのではないか。

まずは、美己の“買い出し”発言に「松永さんに園田さんを追いかける資格はないと思います」と松永に言い切った凌。いつだって周りをよく見ている凌は、松永に見えない美己の感情の機微が見えている。

松永が、ピンチな時でもヒーローのように“絶対的に助けてくれる優しさ”を持っているとすれば、凌の持つ優しさは、もっと静かな“寄り添い続けるあたたかさ”に近いものなのかもしれない。

しかし、美己のもとに実際にやってきたのは健太郎(向井康二)だった。「話入れないと居心地悪いよね。ごめんね?」と美己を気遣う健太郎の“お兄ちゃんムーブ”を見れば、今回美己を連れ戻す適任者は健太郎しかいなかったようにも思える。大事な妹を見るような、恋愛の形とは少し違う優しさ。それは凌と松永とはまた違う、美己をシェアハウスの仲間として大切にする健太郎ならではのものである。今回の健太郎の態度に、美己はどんなに救われたことだろうか。

「美己ちゃんしか知らない純くんのことも、いっぱいあるんじゃない?」

そんな健太郎の言葉に励まされるように、松永と和解した美己。「どんなプレゼントよりも、最高のプレゼントだ」という松永の言葉通り、美己が一生懸命作ったケーキは、どんなパティシエのそれよりも美味しそうだった。

最初は誰にも心を開かなかった松永が、「リビングに顔を出すようになるまで」の話……いわば『リビングの松永さん』の誕生秘話が明らかになった第7話。「自分の中で区切りつけたって思ってたけど……全然そんなことなかった」という夏未の発言も気になるところ。次回、本格的なライバルとなるであろう夏未が仕掛けてくる行動は、松永と美己の恋のターニングポイントにもなりそうだ。

それでも第7話を観て「今の美己なら大丈夫」と確信した自分がいる。なんといっても、美己には最高の仲間と、彼女を大切に思う「松永さん」がついているのだから。

(文=すなくじら)

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