焦点:欧州農業の未来は 異常気象が作物に影響、政策かじ取りに難しさも

Kate Abnett

[ブリュッセル 14日 ロイター] - 欧州各地で農家の抗議行動が広がっている。欧州連合(EU)の環境保護規制が、小売価格を低く抑え、低価格な輸入食品の流入を招くなど、農業セクターに多くの犠牲を強いているという主張である。

その一方で、農業は気候変動によって最も深刻な影響を受けている分野の1つだ。欧州農業は現在すでに熱波や干ばつ、洪水の増加に苦しんでいる。環境保護政策が防ごうとしているのは、まさにこうした影響だ。

<気象条件はさらに悪化>

近年、異常気象の深刻化により農家の悩みは増している。

欧州の主要生産国を襲った干ばつの影響で、EU域内のオリーブオイル生産量は2023年6月までの12カ月間で過去最低を記録した。スペインでは、小麦や大麦、コメなど主要作物の生産量が過去10年間で最低水準となっている。

EUは今シーズンの穀物全体の生産量は過去5年の平均を4.3%下回ると予想し、その主な原因として悪天候を挙げている。

スペイン以外でも昨年は豪雨のために収穫が遅れ、フランスやドイツ、ポーランドでは小麦が水浸しとなった。イタリアとギリシャでは異常気象のためにリンゴとナシの収穫量が減少し、異常な多湿のため果実の品質を損なうカビの病気が広がった。

気候変動による農業分野への影響は今年もすでに現われている。世界的に過去最高の暖かさとなった1月、イタリアの農家は、冬季の異常な暖かさと乾燥により、作物に壊滅的な影響が出ていると警告した。

<気候変動の役割>

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、すでに欧州に生じている気候変動による影響の例として、トウモロコシやコメ、大豆、小麦の収量悪化を指摘している。気候変動に伴い、これまでより頻繁かつ深刻な熱波が襲来して植物の生育を遅らせており、作物に大打撃を与える干ばつも深刻化している。

異常気象を分析する国際研究グループ「ワールド・ウェザー・アトリビューション」は、昨年7月に欧州を襲い、大規模な作物の被害と家畜の損失をもたらした異常な猛暑では、人為的な原因による気候変動が「圧倒的に大きな」役割を果たしたという結論に達している。

またこうした高温・乾燥という気象条件は山火事を増加させる要因にもなっている。昨年夏にギリシャで猛威をふるい、農地やオリーブ畑を焼き尽くしたのはその1例だ。

その一方で、温度が上昇すれば大気はより多くの水分を含むようになるため、地球温暖化は、いったん雨が降れば土砂降りになる可能性があることを意味する。すると、昨年5月に洪水で何千カ所もの農地が水没したイタリアなどの国で見られるように、洪水のリスクが高まる。

<悪化の一途>

気候変動の抑制に向け迅速な対策を講じなければ、欧州農業に対する気候変動の影響はますます深刻になる。

IPCCは、世界の平均気温が産業革命期以前の水準から摂氏2度上昇した場合、南欧の人口の3分の1以上が水不足に直面すると指摘している。すでに地球の気温は産業革命期以前より摂氏1.2度上昇している。

干ばつに見舞われやすい地中海地域では、すでに水不足が農家にとって頭痛の種となっている。

ワインとパスタ用小麦で名高いイタリアは、2022年に史上最悪レベルの干ばつを経験した。EUの果実生産の3分の1を占めるスペインでは、政府が「国土の5分の1以上が耕作不能になるリスクが高い」と明らかにしている。

<EUの環境規制のどこが問題か>

欧州各地で抗議の声をあげている農家は、EUの環境保護規制のせいで、域外の生産者にとっては無縁のコストや煩雑な手続きを自分たちが強要されている、と主張している。

こうした抗議を踏まえて、EUはいくぶん態度を軟化させた。先週には決定直前の段階になって、2040年までの気候変動対策ロードマップから農業由来の温室効果ガス排出量削減目標を取り下げた。またEU執行部は、農薬使用削減に関するEU法案を撤回し、生物多様性の向上に向けて一定の土地を休耕状態にすることを農家に求める目標も先送りした。

環境保護団体などはこうした動きを批判し、いま環境保護政策の手を緩めれば、長期的には生態系のさらなる劣化と気候変動の深刻化を招く可能性があり、農家にとってダメージを与えることになると警告している。だが農家の中には、現場への影響をほとんど考慮することなくトップダウン式に政策が押し付けられているという声もある。スペインでパエリア用コメを生産する農家は、カビを防ぐ農薬の使用をEUが禁止したせいで、カビ被害によって生産量が減少したと訴える。

<農業の未来は>

EUの環境保護対策の中に、さらなる混乱を招くことなく、どうやって農家の参画を求めていくか──これは政策立案者にとって切迫した課題となっている。

今のところ、EU執行部は守勢に立たされている。今月にはEU諸国の農相会合が開かれ、農業セクターにおける煩雑な手続きの削減に向けた新たな取り組みを協議する。

ただしEUは、気候変動に関する目標を順守するためには、農業部門でも引き続き排出量削減を大幅に加速する必要がある、と指摘している。

EUの温室効果ガス排出量全体の10%以上は農業セクターによるもので、過去20年でほとんど減少していない。

EU当局者によると、EU執行部は農業による温室効果ガス排出に対処するための政策立案に取り組んでいる。その1例が、農家による土壌へのCO2蓄積に対して報酬を与える炭素取引制度だ。

EUが2027年以降に向けて、巨額の農業補助金予算について新たにどのような改革を行うか、またその中で気候変動への適応と排出量削減に関してどういった支援を提供するか、それが大きな鍵を握ることになる。

(翻訳:エァクレーレン)

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