定年までに蓄えはいくら必要?「老後2,000万円問題」を解決する“貯金”でも“株式投資”でもない「第3の選択肢」【公認会計士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

定年後の生活について、不安を抱いたことがあるという会社員は多いでしょう。そこで、『ただの人にならない「定年の壁」のこわしかた』(マガジンハウス)の著者で公認会計士の田中靖浩氏が「老後の金銭的な不安」を解消すべく、“貯金”でも“投資”でもない「新たな選択肢」を紹介します。

定年までに貯金はいくら必要か?

長い間安泰だったサラリーマンの老後に不穏な気配が漂っています。

「なんとかなるさ」と高を括っている人がいまだ多数派である一方、「このままで良いのだろうか」と不安を感じている人が増えています。

じわじわ迫る不安感の背景に「この国にはサラリーマン・公務員が多い」事情があります。

サラリーマンや公務員といった勤め人は、定年によって「働くのはこの年齢まで」と区切られます。自分は働きたくても年齢によって強制終了させられるのがサラリーマン・公務員の特徴です。

そんな強制終了があっても文句が出なかったのは、その後に十分な退職金と年金が用意されたからです。それに加えて現役時代に貯金をしておけば、少々の贅沢だってできる。だからみんな定年を受け入れてきたのです。

人の一生を「第1期:子ども期、第2期:大人期、第3期:老人期」に分けるなら、サラリーマン・公務員の生き方は「第1期:子ども期」に勉強して良い会社・組織に入り、「第2期:大人期」をそこで働きながら過ごす。「第3期:老人期」は第2期に蓄えた財産の取り崩しで生活する──と、そんな一生です。

老後の生活になんとなく不安を感じるサラリーマンは第2期のうちに「貯金」しようと考えます。ここで悩ましいのは「定年までにいくら貯金すべきか?」がわからないことです。

老後資金2,000万円問題は“単なる試算”だが…

もともと定年後に向けて関心の高かった「定年後に必要な貯金問題」ですが、これに世間の注目が一気に集まったのが「老後2,000万円問題」。

2019年、金融庁金融審議会「市場ワーキング・グループ」が公表した報告書の「老後に向けて2,000万円の蓄えが必要」の部分がクローズアップされました。金融庁の名とともに「2,000万円」という金額が大げさに報じられ、ワイドショーなどで取り上げられる騒ぎ。これが「炎上」狙いなら大成功ですが、そうではなさそうです。

報告書を読むと2,000万円は試算にすぎません。老後までにどれだけ蓄えればいいのか。その金額は本人の退職金、家族数、生活ぶりなどによってまったく異なります(報告書にもその旨が明記されています)。

2,000万円は「夫婦で月5.5万円不足するとしたら30年で2,000万円不足」という計算にすぎません。ただ、この「2,000万円問題」が話題になったことには理由があります。

「2,000万円問題」が話題になった理由

みんなもともと「定年までにいくら貯めればいいのか?」について関心があったのです。なぜなら「定年から先は仕事しない」と思い込んでいるからです。

会計的にこの「2,000万円不足」は極めて正しいです。

定年後、収入(年金等)と支出(生活費)を比較して月に5.5万円の不足があるとすれば、貯金等を取り崩しながらの生活になります。それが定年後30年続くとすれば、取り崩し合計は約2,000万円──と、これは小学生レベルの計算です。

計算上は定年時までに「不足する合計額」の貯金等を用意すれば問題解決しますが、それはあくまで「計算上の解決」にすぎません。それで幸せに生きられるかといえば、これはまったく話が別です。

皆さん、想像してください。年金収入で生活費をまかないつつ、不足する分は貯金を取り崩して暮らす。そんな倹約生活には向き不向きがあります。ちなみに私には無理です。ケチが大嫌いな私は節約しすぎで窒息してしまうかもしれません。旅に出ることもなく、毎日部屋でゴロゴロしながら貯金残高が減るのを眺める日々はもはや拷問です。

さらに耐えられそうにないのが「無職」の前提。これはお金の問題ではありません。仕事することが何より好きな私にとって「定年後は無職=仕事をしない」状態は地獄です。ストレスが溜まって本屋で怒鳴るクレーマーになってしまいそうです。

貯金と株式投資では手に入らない「人とのつながり」

老後のために「貯金」や「株式投資」を行うのはすばらしいことです。それに加えて私は第3の選択肢として「定年後も働く」ことを提案します。

サラリーマン・公務員の皆さんは「自分には無理だ」と思われるかもしれません。もちろんフリーランスとして働くことには性格的な「向き・不向き」があります。性格さえ向いていればなれるものではなく、そこには努力も必要です。しかも準備には時間もかかります。その意味で「誰にでもできる簡単なお仕事です」というものではありません。

しかし、もし定年後にフリーランスとして働けるようになれば、貯金や株式投資では手に入らない財産が手に入ります──それは「人とのつながり」です。

老後に必要なものは「お金」だけではありません。それにも増して大切なのは身体と心の「健康」です。

年齢を重ねた人間にとって身体の健康を保つのが大切であるのは当然ですが、サラリーマンの方にとって心配なのは「心の健康」です。

必死に働いてきた定年前とヒマを持て余す定年後に差がありすぎ、心の健康を害してしまう例があまりにも多いのです。それを回避するには、できれば定年後もやりがいがある仕事で働くほうがいい。働くことさえできれば、ヒマは有意義な時間に変わり、孤独は「人とのつながり」に変わります。

筆者が考える“令和のフリーランス像”とは

もちろん「働きたくない」方が無理して働くことはありません。ただ「自分はまだ働きたい」と思う方がいれば、定年後もぜひ働いてください。その年齢で「雇われる」ことはなかなか難しいのなら、定年後はフリーランスとして働きましょう。

現役サラリーマンの方は会社で働きつつ、いつかフリーランスに変身することを目指してください。私自身は若い頃からフリーランスとしてがむしゃらに働いてきましたが、それを皆さんに勧めるつもりはありません。年配の皆さんは「好きな仕事を好きな時間だけ働く」フリーランスを目指しましょう。

フリーランスとして何の仕事を選ぶかはもちろん本人の自由ですが、私は「サービス業」をオススメします。なぜなら自分自身が商品のサービス業にはほとんど初期投資がかかりません。それゆえ小さく仕事を始めることができます。

・サラリーマンからフリーランスへ変身する

・好きな仕事を好きな時間だけ働く

・サービス業で小さく仕事を始める

人生100年時代、定年後も働くことを考えましょう。これらの特徴をもつフリーランスのことを「令和フリーランス」と名付けます。

田中 靖浩
作家/公認会計士

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