三つ目の名前

 〈人は三つの名前を持つ〉とユダヤ人の格言にある。〈生まれた時に親がつけた名前。友達が親しみを込めて呼ぶ名前。そして生涯のうちに獲得する名前である〉▲一つ目は本名、次が愛称。三つ目は、古い例だとエジソンは発明王、チャップリンは喜劇王。日本の球界史でいえば、ゴジラ、平成の怪物、令和の怪物…ということだろう▲なにも有名人に限らない。万人が「三つ目の名前」を携えて、誰かの記憶に刻まれる。例えば「初孫の自分を誰よりもかわいがってくれたおばあちゃん」「いとおしいお兄ちゃん」。とりわけ戦争犠牲者のご遺族は、亡き人の三つ目の名を心で呼び続けた戦後79年に違いない▲佐世保大空襲(1945年6月)の遺族たちでつくる「佐世保空襲犠牲者遺族会」が会員の減少、高齢化により3月末で解散するという。8年前、犠牲者1200人余りの名前を刻んだ「墓銘碑」を建立した▲三つ目の名前を心に刻み、一つ目の名前を碑に刻む。若い人が墓銘を指でなぞることもあるだろう。やむを得ない解散だが、名前を形に残し、伝える意味は大きい▲戦後の長い歳月を思う半面、ウクライナでは侵攻開始から2年、中東でも戦火が絶えない。遺(のこ)された人々が三つ目の名前を心で何度も呼ぶ、そんな無念の営みが今なお繰り返されている。(徹)

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