国民年金、何歳から受け取ればいいですか?国民年金受給者「3,000万人」の回答

日本の公的年金制度。細かな決まりごとが多く、知っていると知らないでは、大きな差となることも珍しくはありません。今回は「年金の繰上げ受給」「年金の繰下げ受給」についてみていきます。

最大24%減額の「年金の繰上げ受給」、最大84%増額の「年金の繰下げ受給」

老後の生活を支える年金。その最大の関心ごとは「どれくらいもらえるか」ですが、その次に気になるのが「いつもらうか」。

――えっ、年金がもらえるのは65歳からなんじゃないの?

その認識で間違いではありませんが、“原則”という言葉が枕につきます。

厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、国民年金の老齢年金受給者の平均年金月額は5万6,428円。また基礎のみ、共済なし・旧国年の老齢年金受給者の平均年金月額は5万1,607円。一方で、厚生年金保険(第1号)の老齢給付の受給者の平均年金月額は、併給の老齢基礎年金を含めて老齢年金が14万4,982円。65歳以上の受給権者の平均年金月額は、男性が16万7,388円、女性が10万9,165円でした。

年金は前述の通り、現行法では原則65歳からの支給。希望すれば60歳から65歳になるまでの間に繰り上げて受け取ることができ、これが「年金の繰上げ受給」の制度。繰上げ受給の請求をした時点に応じて年金が減額され、その減額率は一生変わりません。減額率(全部繰上げ)は、1ヵ月繰り上げるごとに0.4%(昭和37年4月1日以前生まれの場合は0.5%)。最大24%の減額となります。

令和6年度の国民年金の受給額は、満額で6万8,000円。60歳0ヵ月で受給開始となると、1ヵ月5万8,480円になる計算です。

一方で、65歳で受け取らずに66歳以後75歳までの間で繰り下げて増額した年金を受け取ることができるのが「年金の繰下げ受給」制度。繰り下げた期間によって年金額が増額され、その増額率は一生変わることがないのは、繰上げ受給と同様。増額率は1ヵ月繰り下げるごとに0.7%で最大84%。国民年金であれば65歳ではなく75歳で受け取ることで、月6万8,000円が月12万5,120円になる計算です。

受け取れるはずの年金が受け取れなくなるなど、細かな注意事項があるので、制度を利用する際はしっかりと検討を重ねたいところ。ちなみに繰上げ受給では原則として老齢基礎年金と老齢厚生年金は同時に繰上げ請求をする必要がありますが、繰下げ受給では老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げすることができます。

繰上げ受給・繰下げ受給、実際に活用している高齢者はどれくらいいる?

年金の繰上げ受給と繰下げ受給。ここで話題に挙げられるのが、「いつもらうのがお得」という論争です。

仮に「70歳」まで繰り下げたときの損益分岐点は「81歳11ヵ月」、「75歳」まで繰り下げたときの損益分岐点は86歳11ヵ月となります。また「60歳」まで繰り上げたときの損益分岐点あh「80歳10ヵ月」です。

ただしこれは額面で考えた場合。手取りベースであれば、「60歳繰上げ」で82歳2ヵ月、「70歳繰下げ」で84歳1ヵ月、75歳繰下げで89歳2ヵ月となります。男性の平均寿命は81歳ほどですから、75歳まで繰り下げたら、ほとんどの男性は損をする、という結果になるのです。

しかしこれはあくまでも算数の問題。人間の寿命は誰もにも分からず、得するのか、損するのか、評価は難しいといえるでしょう。

そんななか、実際の年金受給者は、繰上げ受給を選択しているのか、それとも繰下げ受給を選択しているのか、どっちなんでしょう。

前述の厚生労働省の資料によると、国民年金受給者3,433万6,782人のうち、原則とおり受け取っている人たちは2,997万0,646人。全体の87.3%を占めています。

そんななか、国民年金を繰上げ受給している人は369万3,670人で、全体の10.8%。それに対して、国民年金を繰下げ受給している人は67万2,466人で全体の2.0%です。

過去5年の推移をみていくと、繰上げ受給は12.9%→10.8%と2.1ポイントダウンしたのに対し、繰下げ受給は1.3%→2.0%と0.7ポイントと上昇しています。

年金額を増やすことのできる繰下げ受給の話題を耳にすることが多いですが、実際に制度を利用しているのは増加傾向とはいえ2%ほどしかいません。また年金の受取年齢については、60歳定年から65歳の年金受給開始までの無収入の5年間がクロースアップされ、不安定な家計を助けるものとして、繰上げ受給を推奨する専門家も。しかし昨今は、65歳、さらには70歳まで安心して働くことのできる環境が整いつつあり、繰上げ受給を選択する人は減少傾向にあるようです

――年金をいつもらうのか、得か、損か。

諸先輩の声を聞く限り「原則通り65歳からもらう」が無難であり、老後のプランも立てやすいタイミングだといえそうです。

[参考資料]

厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』

日本年金機構『年金の繰上げ受給』

日本年金機構『年金の繰下げ受給』

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