通院困難で訪問も難しい糖尿病患者br多職種ができることを分担し通院治療可能に

多職種で通院をサポート

ケアマネジャーさんからの依頼内容は、『糖尿病治療のほかに管理栄養士の在籍しているクリニックで栄養食事指導をお願いしたい』というものでした。当クリニックでは、在宅訪問栄養食事指導を行っておらず、ご夫婦そろって高齢のため自動車の運転は難しいとのことで、ヘルパーさん付き添いのうえ、月1回のペースで通院することとなりました。

初回は、Gさんのほか紹介者のケアマネジャーさん、付き添いのヘルパーさん、奥さまの4人で来院されました。いつもどおり、食事面の聞き取りから始めましたが血糖値は300mg/dl台、HbA1cは12.3%と高値でした。服薬していましたが、このように高血糖の状態では、調理がままならない奥さまが対応することは困難であり、週に3回ヘルパーさんが家事を代行。お弁当の宅配も利用しているという状況でした。お子さんはおらずご夫婦2人、奥さまの妹さんが週に1回程度買い物などはしているということでした。

初回聞き取りでいくつか問題点がわかりました。①食事はお弁当が多い、②甘い缶コーヒーを1日2~3本飲んでいる、③野菜などの摂取量が少ない、④デイサービスなどの利用はなくほとんど家で過ごしているため運動量は少ない、以上の4点です。これらを改善していかなければならないのですが、自分で調理ができる環境ではないなどかなり難しい課題もありました。しかし、ヘルパーさんがクリニックへ引率してくれたのが幸いでした。

田村:Gさん、ここまで通うのは大丈夫ですか?

Gさん:ヘルパーさんが連れてきてくれるし、気晴らしにもちょうどいいよ

田村:そう言ってもらえるとありがたいです。血糖値が安定するまで、大変ですが通院お願いしますね。ところでGさんは甘い缶コーヒーが好きなんですね?

Gさん:甘いほうがおいしいね。でもコーヒーが好きなんだよ

田村:そうですか、そしたら甘くないコーヒーでも飲めそうかしら?

Gさん:血糖値が高いらしいから、甘くなくてもコーヒーなら大丈夫だよ。甘いほうがおいしいけどね

田村:そうですね。甘いのに慣れちゃうと甘いほうがおいしいですよね。でも血糖値が高いので、甘いコーヒーは楽しみで1日1本くらいにして、あとはブラックにしましょうか?

Gさん:1本は飲んでもいいの?

田村:本当は砂糖なしが理想ですが、楽しみに1本は大丈夫ですよ

Gさん:ブラックは大丈夫なの?

田村:大丈夫ですよ。ブラックは飲んでも血糖値に影響はないので

Gさん:それなら減らしてみるよ

ヘルパー:缶コーヒーは手軽に飲めるため買い置きしてあります。今度は無糖のと2種類買っておくように伝えます

田村:お願いします。それとGさん、お野菜は嫌いですか?

Gさん:そんなことはないよ

田村:では、ヘルパーさんに野菜のいっぱい入ったスープや煮物、お浸しなんかをつくっていただくようにレシピを渡してお願いします。お弁当にする場合、お野菜から食べるようにしてください

Gさん:ご飯から食べちゃいけないんだ?

田村:ダメではないですが、血糖値が上がりやすくなっちゃうので、できるだけ野菜から食べてほしいです

Gさん:そうなんだね。わかったよ

田村:ありがとうございます。では、甘い缶コーヒーを控えてなるべく野菜から先に食べる、この2つをまずやっていきましょうね

週2回デイサービスも利用

このような栄養食事指導からスタートして月1回のペースで継続しました。4回目の栄養食事指導時には血糖値200mg/dl台、HbA1c9%台まで改善してきました。

田村:Gさん、血糖値がよくなってきましたね。今日はHbA1cが一桁になりました

Gさん:それはよかった

田村:でもまだ高い状態ではあるので今の食事のとり方を継続して習慣にして頑張りましょうね

しかしそこからは横ばい状態が続き、通院開始から8ヵ月目に院長から本人にインスリン導入の話となりました。この日は担当のへルパーさんとケアマネジャーさんも来院していたので、院長もよい機会と判断したようです。院長診察前に栄養指導のほうが先に入るのですが、ここではいつもどおり、食事のとり方の確認やヘルパーさんの対応の確認などを行いました。すると付き添ってきたケアマネジャーさんから、『今度本人の了解もとれたので、週に2回デイサービスへも行くことになりました』と話がありました。

田村:Gさん、デイサービスに行くんですね?

Gさん:あまり気乗りはしないんだけどね

田村:あら、どうして?

Gさん:なんか年寄りみたいじゃない?

田村:皆さん最初はそう言われますけど、行くと意外と楽しいみたいですよ

Gさん:仕方ないね。行ってみるよ

田村:お食事も出るし、運動もできるんですよね?

ケアマネ:そうなんです。昼食と運動と入浴ができます

田村:それは安心ですね。では、食事についての注意点をお伝えしておきましょう

このあとの診察で院長よりインスリンの話があり、注射の指導で次回までに奥さまにも一度来てもらうこと、またヘルパーさんやデイサービスでの確認の体制を整えていくことになりました。そして数カ月後……。

田村:Gさん、血糖値がすごくよくなりましたね。注射も頑張っていますか?

Gさん:うん、だいぶ慣れたね

田村:今日は血糖値が125mg/dl、HbA1cは7.9%です

Gさん:よかった

田村:本当に。デイサービスはいかがですか?

Gさん:楽しいよ

田村:それはよかった。よいことばかりですね

Gさん:そうだね

ヘルパー:最近、缶コーヒーをやめて、スティックタイプの甘いコーヒーで1日1杯、あとはブラックにしています

田村:それはいいですね。缶よりスティックのほうが糖分は少ないですね。インスリンは静注していますが、頑張っているとお薬が減ったりしてきますのでね

ヘルパー:院長先生からもそんな話がありました。最初は血糖値をある程度下げないといけないけど、様子を見て減らすこともあると

田村:先生がちゃんと数値も見てくれますからね。安心してくださいね

このような状況が続き、HbA1cが7%台前半まで改善し、インスリンの量も少し減らせる状況になりました。
スタート時は地域のケアマネジャーさんからの紹介でしたが、管理栄養士の存在を知っていてもらうことでつながった事例だったと思います。まだまだ管理栄養士が常駐しているクリニックは少ない状況ですが、こういうところに管理栄養士がもっと増えていけば、病院と在宅の中間の栄養管理ができるのではないかと感じています。外来栄養食事指導がいい場合や在宅でのサポートが必要な場合など、柔軟に対応できるよう多職種と連携していけるといいなと感じています。(『ヘルスケア・レストラン』2023年5月号)

田村佳奈美
福島学院大学短期大学部
食物栄養学科講師
かとう内科クリニック 非常勤 管理栄養士

たむら・かなみ●療養病院、急性期病院での勤務を経て、2011年8月からフリーランスの管理栄養士として活躍中。福島県いわき市内のクリニックでの栄養指導や全国各地での講演活動、自宅で暮らす高齢者の栄養サポートにも力を入れている

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