中医学による花粉症改善「脂っこいものをなるべく食べずに、よく寝て、深呼吸」

今年も花粉症の時期がやってきました。2月中旬から花粉の飛散が始まっており、昨年、猛暑が続いた気候の関係で花粉の量も多くなると予想されています。漢方コンサルタントの櫻井大典氏によると、春は「気」の切り替えシーズンで調子を整える大事な季節、中医学からみた花粉症が悪化する原因や改善方法を解説してもらいました。

※本記事は、櫻井大典:著『櫻井大典先生のゆるゆる漢方生活 -こころとからだに効く!-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

花粉症悪化の原因はバリアエネルギー不足

現代病ともいうべき、花粉症。スギ、ヒノキなどの花粉を原因として発症します。これは誤解されがちなのですが、“免疫が弱っている”から、花粉症を発症するわけではありません。

実際は、免疫の反応が正常な状態ではないために、花粉などの外敵に「過剰に反応しすぎている」状態をいいます。つまり、本来であれば、さほど反応しなくてもいい外敵に対して、総攻撃をくり広げているようなもの。そのために、鼻水・咳・微熱などの炎症作用が出て、私たちは苦しめられるわけです。

▲花粉症悪化の原因はバリアエネルギー不足 イメージ:GrandJete / PIXTA

中医学では、花粉症の主な原因を、バリアエネルギーの不足と考えます。このバリアエネルギーを「」といい、衛気が皮膚や鼻や口の粘膜を覆い、花粉などから身を守る役割をしているとします。

つまり、衛気がたっぷりある人に花粉症の症状は出ませんが、衛気が少なければバリアとなるものが不足しますから、花粉などのが体に入り込み、刺激され、粘膜が腫れ、炎症を起こし、鼻水や目のかゆみなどの症状が現れるのです。

は、呼吸によって取り込まれる大気のエネルギーと、飲食物から作られるエネルギー、そして、親から受け継いだ元来の体質にあたるエネルギーで構成されています。

たっぷりと睡眠をとることは花粉症対策にもなる

このが不足し、花粉症になりやすい人を、中医学では次の3つに分類しています。

ひとつは空気が悪い環境の中で生活し、が弱っている人。呼吸が浅く、深呼吸ができていない人。

次に食事に偏りがあったり、ストレスや暴飲暴食などによって、胃腸の消化力が低下している人。腸内環境が悪い人。

最後に親から受け継いだ、元来の体質が虚弱で、エネルギーの弱い人。

また、花粉症の症状もさまざまです。水っぽい鼻水で寒気のある冷えタイプ。目の周りが赤くなって、かゆみが強く、黄色い鼻水が出る熱タイプ。両方を併発する混合タイプなどです。

冷えタイプの花粉症の対策としては、とにかく冷たい飲食物をひかえ、防寒保温に努めること。加えて、玉ねぎや生姜など、体を温めるものをこまめに摂るようにしてください。

熱タイプの花粉症には、熱を冷ます効果を持つミント、夏野菜のキュウリやトマト、ナス、それからセロリやドクダミなどを摂るとよいでしょう。目のかゆみには、菊の花のお茶もおすすめ。

ただし、どのタイプも基本的には衛気の不足が元凶となっているので、タイプごとの対策をしつつ、不足の対策をしなければいけません。

では、このを強めるには、どうしたらよいのでしょうか? 答えは、しっかり食べ、眠り、深い呼吸をすること。一見シンプルに思えますが、私たちが生きていくうえで欠かせない、大切な3つのアクションです。

▲たっぷりと睡眠をとることは花粉症対策にもなる イメージ:マハロ / PIXTA

つまり、基本的な花粉症対策は「しっかり食べて寝て、呼吸する!」ということなのです。不足による花粉症には、たっぷりの休息と、シンプルでさっぱりとした味の食事と深呼吸で、を補うこと。

なかでも、消化系のケアは特に肝心だとされています。消化器系の負担になるような「」(脂っこくて味の濃いものと甘いもの)と「」は避けるようにしてください。

その代わりに、次の衛気を補うを食材を摂りましょう。

<衛気を補う食材>
じゃがいも / 山いも / かぼちゃ / キャベツ / 生姜 / シソ / しいたけ / しめじ / 米 / 餅米 / 大豆 / 鶏肉 / サバ / カツオ / 鮭 / 栗 / ナツメ

いくらか症状が軽くなるように感じられるかもしれません。

「肝」を働かせて体の調子を整える

花粉症で憂うつな季節とはいえ、本来は、春はエネルギーが満ちていく新しい1年の始まり。春は「発生」の季節であり、私たちが1年を健やかに過ごせるかどうかは、この春をいかに快適に過ごすかにかかっているといっても、過言ではありません。中医学では、春を「」といい、古いものが新しくなり、あらゆる万物が芽吹き、成長し始める季節だと考えられています。

中医学的に、春は五臓のの季節です。肝が持つ機能は大きく分けて、のふたつ。

(注) 中医学の考えで、「五行論」に基づく「肝、心、脾、肺、腎」の5つを「五臓」といいます。いわゆる「五臓六腑」の五臓にあたります。

は、と呼ばれるうるおい(水分)、栄養を運ぶ「」、そしてエネルギーである「」の流れが滞りなく流れるようコントロールする働きのこと。仮に、津液が滞るとむくんだり、血が滞ると腫れて痛んだり、気が滞ると情緒が不安定になり、あるいは、胃腸などの消化系がうまく働かなくなったりします。

は、いわゆる血を蓄える働きをしています。血は、全身の細胞や組織、器官に栄養とうるおいを与えていますが、その血を蓄えておくのが、肝のもうひとつの役割なのです。

肝に蓄えられているはずの血が不足すると、体のあちこちに栄養が届かず、正常な働きができなくなってしまいます。たとえば、目がショボショボしたり、筋肉がピクピクしたり、立ちくらみを起こしたり、不安感が増大したり、不眠になったり……。

女性であれば月経に不調が出るようになりますし、また、皮膚や髪の毛が乾燥しやすくなってしまいます。

春は、この肝がよく働く季節ですから、自分の体を、肝がうまく働きやすい状態にしておくことが肝心です。

▲「肝」を働かせて体の調子を整える イメージ:Luce / PIXTA

中国最古の医学書と呼ばれている『黄帝内経』(こうていだいけい)にも、春について、次のような説明があります。

「春の3か月は「発生」の季節。万物が芽生え、天と地のあいだに生き生きとしたエネルギーが満ちあふれる。春は、少々の夜更かしはかまわないが、朝は早く起きよう。そして、朝には庭をゆったりと散歩し、髪をときほぐして、服装もゆるくして、体をのびのびと動かそう。

精神的には、今年はこれをやろう・あれもやろうと、やる気を起こすのがよく、心持ちとしては何事も生まれよう・伸ばそうとするのはよいが、制限を加えるのはよろしくない。また、やる気が失せるようなことは思うべきではない。

人に対しても、褒めたり励ましたりすることはよいが、虐げたり罰したりすることのないように心がけるのがよい。これに背くと、春に活動する肝気が痛み、夏になって寒性の病にかかりやすくなる」と。

つまり、春は、のびのびと過ごすことが大切だということ。そうすることで、肝の持つ疏泄の機能が正常に働き、心も体も安定しやすくなるわけです。

そして、この1年を健やかに過ごすための良いスタートとなることでしょう。

© 株式会社ワニブックス