韓国で医師が大規模スト、政府の医学部増員計画に反発

韓国政府が医師不足への対策として、大学医学部の入学定員を拡大すると発表したことをめぐり、多くの医師が反発しストライキに入っている。医師が増えることで競争が激化し、収入が減少することを懸念しているとされる。

韓国では、医師を増やす政府の計画に多くの医師が抗議している。政府はストライキを続けている1000人以上の若手医師に対し、職場に戻るよう命じている。

当局によると、19日には6500人近いインターンや研修医が辞表を提出した。

韓国は経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で、医師1人あたりの患者数が最も多い国の一つ。そのため、政府は医学部の定員を増やしたい考えだ。

しかし医師側は、競争の激化につながるとしてこれに反対していると、観測筋は指摘する。

韓国では医療制度の民営化が非常に進んでおり、ほとんどの治療は保険で支払いがなされる。韓国の病院の9割以上は民間病院だ。

2022年のOECDのデータによると、公立病院の平均的な専門医の年収は20万ドル(約3000万円)近い。これは韓国の平均賃金をはるかに上回る額だ。

しかし現在、人口1000人あたりの医師の数はわずか2.5人で、OECD加盟国の中ではメキシコに次いで2番目に少ない。

ソウル大学の公衆衛生専門家、クォン・スンマン教授は、「医師たちにとって、医師が増えるということは競争が激化し、医師の収入が減るということを意味する。(中略)だから医師増員案に反対している」と指摘する。

医師が出勤拒否

20日、全国の病院で複数の医師が出勤を拒否していると報じられると、患者や保健当局は懸念を示した。

若手医師は救急病棟の中核となる存在で、ソウル市内の大病院では最大37%の医師が影響を受ける可能性があると、地元メディアは報じた。

保健省によると、辞表を提出した医師は6415人に上り、そのうち1630人は19日に出勤しなかった。ストライキの主催者は20日から全面的なストライキに入るよう呼びかけた。

保健省の第2副大臣は今週初め、「研修医が出勤を拒否している状況に深く失望している」と、記者団に述べた。

また、医師を復帰させるために法的手段に訴える可能性もあると警告した。

韓国の医療法では、医療制度を脅かす長期の労働運動に対して、当局は医師免許をはく奪する権限をもつ。国は以前にも、別の医師の抗議行動に関連して起訴を試みたことがある。

「医師たちが集団辞職の決断を撤回することを、我々は切に求める」と、同副大臣は述べた。

政府は一貫して、医療改善計画への医師たちの反発を非難してきた。韓悳洙(ハン・ドクス)首相は「国民の生命と健康を人質に取るようなものだ」と述べた。

当局は手術に遅れが出たり、治療の空白期間が生じる可能性があると警告してきたが、これまでのところ、ストライキの影響の程度は明らかになっていない。一部の病院は緊急対応計画へ体制を切り替えると発表している。政府もまた、遠隔医療サービスを全面的に拡大している。

医師らの支持得られず

今回の抗議行動は、政府の採用計画に反対して若手医師の最大8割がストライキに参加した2020年の出来事と似ている。

急速な高齢化は医療制度に余計な負担を強いることになる。そのため、韓国の政策立案者たちは、医師の数を増やして高齢化に対処しようと何年もの間取り組んできた。同国では2035年までに医師が1万5000人不足すると予測されている。

また、遠隔地での医療や、小児科や産科のような、皮膚科や形成外科に比べて利益が少ないとされる専門分野の医療にも重大な格差がある。

この問題に対処するため、尹錫烈(ユン・ソンニョル)大統領は、毎年計3000人強の学生を受け入れている医学部に2000人の定員を追加する案を提示している。現行の定員は2006年から変わっていない。

世論調査では回答者の70~80%がこの政策を支持している。

しかし一方で、医療関係者からは強い反発が起きている。大韓医師協会などの複数の団体は、医師の増加は国民健康保険制度で利用可能な資金を圧迫することになると主張している。

労働組合も、医師を増やしても特定分野における人員不足に対処できるとは限らないと主張している。

今後どうなる

労組は18日、病院の代表との緊急会議の後、ストライキを実施すると発表した。最初にストライキを起こしたのは若手医師だったが、今後さらに多くの医師が加わるのではないかとの懸念が浮上している。

2020年に医師たちは、新卒の医師の採用を増やすという政府の試みを食い止めることに成功した。政府は当時、コロナ禍の切迫した状況下で譲歩したのだと、複数のコメンテーターは指摘する。

「(今回は)どちらが勝つのか簡単には予想できない」と、前出のクウォン教授は述べた。

この政策は政治的スキャンダルで傷つけられた指導者の評価を上げることにつながったため、尹大統領の「決意はかなり固いように見える」という。

「ただ、民間が大部分を占める医療制度は、医師によるストライキの影響を非常に受けやすい。つまり、全面的なストライキに医師が加われば、実際に医療機関の閉鎖は起こり得る」

(英語記事 South Korean doctors strike in protest of plans to add more physicians

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