『ブギウギ』趣里×菊地凛子、初めての“怒り”のぶつけ合い タナケンの本質を捉えた格言も

『ブギウギ』(NHK総合)第99話では、スズ子(趣里)がりつ子(菊地凛子)と対談する。鮫島(みのすけ)に乗せられる形で決まった対談だが、スズ子は「茨田さんとギスギスしたまんまでいるんは本意やないし、誤解があるなら直接公の場ではっきりさせた方がよろし」と言うが、山下(近藤芳正)は「そうなったらええけど……」と不安を隠せない。

対談当日、スズ子と対面するりつ子の表情はかたい。りつ子は、スズ子を批判する記事にある言葉は本当だと答えた。仲が良かったとは言わないまでも、これまでライバルとしてともに歌の舞台に立ち、幼い愛子の面倒を見てくれることもあったりつ子の言葉に、スズ子は動揺を隠せない。りつ子から「ブギの人気だってすぐに終わるわ」と言われ、スズ子はカチンと来る。

2人は言い合いになってしまった。言い合いになる2人の姿を満足げに見つめる鮫島の顔が憎たらしい。スズ子とりつ子の関係にヒビを入れたのは、他でもない鮫島だ。けれど、りつ子が言いたいことは理解できる。りつ子を演じている菊地凛子の物言いと表情には、りつ子らしい芯の通った怒りが感じられる。りつ子の目には、りつ子がスズ子に訴えかけた通り、スズ子が歌だけで勝負しなくなったように見えている。

「映画にうつつを抜かして、歌を極めたつもりにでもなってるんじゃないの?」

もちろんスズ子には歌を捨てるつもりなどない。今はただ目の前の仕事に一生懸命向き合っているだけだ。スズ子にとってりつ子の言葉は心外だった。2人はこれまで歌を通じてお互いの理解を深め、競い合ったり支え合ったりしてきた。だからこそ、りつ子は、歌ではなく映画に夢中になっているように見えるスズ子が許せなかったのだろう。

だが、りつ子は心の底からスズ子が憎くなったわけではない。鮫島に煽られ、堪忍袋の緒が切れたスズ子は「ワテかて必死でやってんのに何で、何も知らへんあんたに、何で、そないなこと言われなあかんねん!」と声をあげる。

スズ子の怒声に驚き、愛子(小野美音)が泣きじゃくると、スズ子は愛子を連れてその場を出ていった。愛子を泣かせてしまい、肩を落とすスズ子を目にしたりつ子は、ふと視線を落とす。スズ子が仕事に育児に懸命に励んでいるのを知っていたはずなのに、と自責の念に駆られているようにも見えた。スズ子たちが立ち去った後も、その面持ちにまだ少しだけスズ子への憤りを残しつつも、出ていったスズ子を心配するような表情を見せた。

スズ子を歌手として認めてきたからこそ、スズ子が歌だけで勝負しなくなったことが許せなかったりつ子。りつ子の怒りが胸を打ったが、歌を捨てる気などないスズ子にとっては苦しい出来事だった。そんなスズ子にタナケン(生瀬勝久)がこんな言葉を送った。

「続けるしかない。邪魔されようが、誤解されようが芸で伝えるしかない。生き方でわかってもらうしかないんだよ。歌手も役者も」

そして何より、スズ子の精一杯の姿を一番近くで見ていた娘の愛子が認めている。映画の撮影が終わり、スズ子はさっそく羽鳥(草彅剛)のもとへ向かった。「次も、ブギでお願いします」「ブギで勝負したいんです」と言うスズ子の目は、これまでにないほど熱意に燃えていた。

(文=片山香帆)

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