『ソウルメイト』ミン・ヨングン監督 “人の顔”からインスピレーションを受けてきた【Director’s Interview Vol.388】

少年の君』(19)でアカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた、デレク・ツァン監督の単独長編デビュー作『ソウルメイト/七月と安生』(16)。多くの映画好きを魅了したこの話題作が、韓国・済州島を舞台に新たな傑作として生まれ変わった。ドラマ「梨泰院クラス」でヒロインのチョ・イソ役で大ブレイクを果たしたキム・ダミと、ドラマ「ボーイフレンド」でパク・ボゴムの親友役を務め注目を集めたチョン・ソニの二人を主演に迎え、メガホンを取ったのはミン・ヨングン監督。彼は如何にしてこのリメイクに挑んだのか。話を伺った。

『ソウルメイト』あらすじ

公募展で大賞に選ばれた一作。それは「作者・ハウン」による高校生のミソがモチーフの絵画だ。ミソ(キム・ダミ)とハウン(チョン・ソニ)は、小学生からの大親友。絵を描くのが好きな2人は、性格も価値観も育ってきた環境も違うが、大切な存在だった。しかし、ジヌ(ピョン・ウソク)との出会いが2人の運命を大きく変えていく。想い合いながらもすれ違い、疎遠になっていた16年目のある日、ハウンはミソに“ある秘密”を残して忽然と姿を消してしまう。思いもよらない壮絶な半生が紐解かれるとき、涙なしでは観られない“2人だけの秘密”が明らかになるー。

“人の顔”からインスピレーションを受けてきた


Q:同じアジア圏で比較的最近の作品をリメイクするという体験はいかがでしたか?

ミン:原作となった中国/香港版の『ソウルメイト/七月と安生』は、韓国でそれほどヒットはしなかったものの、一部の観客に非常に愛された作品でした。そういった根強い人気のある作品だったため、韓国でリメイクされることに対して懸念を示すファンもいました。韓国版のシナリオを書き、それを元に調査したところ、原作のファンがこだわっている部分が見えてきた。最初のうちは、その“こだわり”を超えることが出来るかどうか悩みましたね。

ただ、映画を作りながら気をつけたのは、私たちのチームが固有のリズムを作り出せるかどうか。リメイクだとしても、私たちにしかない固有の感情をどのように生み出すことが出来るのか、それを絶えず考えていました。

『ソウルメイト』© 2023 CLIMAX STUDIO, INC & STUDIO&NEW. ALL RIGHTS RESERVED.

Q:「絵を描く」というモチーフを取り入れたことが、とてもうまくハマっていますが、その着想はどこにあったのでしょうか。

ミン:これまで私が撮ってきた映画は、全て“人の顔”から大きなインスピレーションを受けてきたと思います。今回の映画でも、ミソとハウンの“顔の持つ力”が、映画の中で最大限表現されて欲しかった。また、とても大きなキャンバスに描かれたハイパーリアリズムの絵を見たことがあるのですが、そのビジュアルが持つイメージに圧倒されたことを覚えています。その絵を描いた作家さんは、自分の娘の顔をハイパーリアリズムでずっと描き続けている方でした。毎日その娘さんと向き合いながら、数ヶ月から数年がかりで絵を完成させていく。その過程は、まるで修行僧が求道しているかのよう。それぐらいの大きな愛がなければ、この絵を完成させられることは出来ない。そこにとても感銘を受けました。そういった経験が、今回の設定として自然に溶け込んだのではないかと思います。

緊張感を持続させる


Q:映画のほとんどがミソとハウン、そしてジヌの3人を軸に展開していきます。つまり、3人以外の登場人物がほとんどいないシンプルな構成とも言えますが、それゆえの難しさなどはありましたか。

ミン:多くの映画ではまず大きな事件が起こり、それを巡って様々な人物が織りなすストーリーが展開していきます。ただし本作では、軸となるような事件は特になく、二人の人生を十数年に渡ってフォローしています。二人の関係に対して、いかに関心が持続できるかに気を使いましたが、シナリオ自体が、人物に向けられる集中力を最後まで維持させるような構成になっていたので、演出として難しく感じるようなことはなかったですね。

Q:ミソがソウルに行った後は、お互いが物理的に関わることはなく、どうしても日常の点描が多くなってしまうかと思いますが、決してルーティンに陥らず見事に構成されていました。

ミン:ミソとハウンが離れて暮らすようになってからは、この映画の最も重要な二人を会わせることなくストーリーを展開させなければならない。観客の集中力が下がる危険がありました。主要な二人が離れた状況でも、二人の間の緊張感を生み出せるものは何か。それはミソとハウンそれぞれが隠し持っている本音であり秘密。お互い言葉にすることのない秘密があったからこそ、緊張感を維持することが出来ました。ただし、緊張感というものは目に見えるものではありません。この“秘密”に基づいた二人の微妙な関係が、どのように観客に受け止められるのか、そして観客の集中力を損なわずに、このテンションをどうやって最後まで保っていくのか、そこの表現はとても難しかったですね。

『ソウルメイト』© 2023 CLIMAX STUDIO, INC & STUDIO&NEW. ALL RIGHTS RESERVED.

この映画でもう一つ重要だったのは、歳月による変化の表現。それは表情で見せるのか?衣装やメイクで表現するのか?その見せ方によって、時間の蓄積の感じ方も変わってくる。そこの難しさもありましたね。

Q:韓国映画界から多くの監督や俳優がハリウッドに進出したり、Netflixでも韓国作品が世界的に人気があったりと、韓国映画の勢いを感じます。まさにその中心にいるミン監督からみて今の韓国映画界はいかがですか。

ミン:韓国社会は、ある意味変化にとても敏感です。そして、絶えず変化しているからこそ、そこからもたらされるエナジーや勢いが大きな役割を果たしている。おっしゃる通り、以前と比べると、今は映画やコンテンツが作られる機会が増えていて市場も大きくなっている。コンテンツ産業がどんどんシステム化されているのを毎年体感しています。

コンテンツ産業が変化したことによって、様々なチャンスが増えていること自体は肯定的に捉えています。ただ一方で、様々な成功事例が出たことにより、今後作られる作品は以前のものを踏襲しないようにしなければなりません。また、この産業が健全に発展するためには、監督や作家といった創作をするクリエイターとプロデューサーとの健全な緊張関係が必要です。ただ、あまりにも産業化やシステム化、巨大化が進んでいくと、創作者の自由が守りにくくなる。システムに従属させられる懸念があります。産業が発展していく中でも、クリエイターの自由な創作環境が守られるかどうかは課題ですね。

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監督・脚本:ミン・ヨングン

第36回ソウルインディペンデント映画祭で最優秀作品賞、コダック賞、独立スター賞の3冠を獲得し、第15回釜山国際映画祭「韓国映画の今日-ビジョン部門」の監督賞までを受賞した映画『短い記憶』(10)で脚光を浴びる。その他の作品に、短編映画「泥棒少年」(06)などがある。

取材・文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。

『ソウルメイト』

2月23日(金・祝)新宿ピカデリーほか全国公開

配給:クロックワークス

© 2023 CLIMAX STUDIO, INC & STUDIO&NEW. ALL RIGHTS RESERVED.

© 太陽企画株式会社