進まぬ耐震、和歌山も 能登地震で被災家屋調査の田辺市職員「過疎の課題痛感」

道路をふさぐようにして倒壊した家屋(石川県能登町で)=和歌山県田辺市提供

 能登半島地震では、古い住宅が数多く倒壊した。近い将来、南海トラフ巨大地震の発生が予想される和歌山県でも、耐震化が思うように進んでいない。過疎や高齢化といった地方共通の課題がハードルになっている。

 石川県内では、住宅被害が約7万棟に上る。現地では、公的支援などに必要な「罹災(りさい)証明書」の発行に向け、全国から集まった自治体職員らが被害認定調査に当たっている。

 「実際に行ってみて、思っていた以上に被害が大きかったことを実感した」。和歌山県田辺市の税務課職員、小松浩典さん(54)はそう話す。

 小松さんは、住家被害認定士の資格を持つ。2月上旬、石川県能登町で3日半にわたって被災家屋の調査をした。

 3人一組になり、屋根瓦のずれ、家屋の傾き具合、外壁のひび割れなどを確認。内閣府の基準に基づき、「全壊」「大規模半壊」「半壊」など6段階で判定する。山間部から海沿いまで、70戸余りを見て回った。

 家屋が道路をふさぐように倒れていたり、大きくゆがんでいたり。「倒壊したのは、やはり古い家。新しい家の場合、基礎のコンクリートが割れている所はあったが、建物そのものは無事だった」と振り返る。

 被害の大きさを目の当たりにして、耐震化の必要性を改めて認識した。一方で、高齢の被災者からは「跡を継ぐ人もいないし、もう家は直せない」という声も聞いた。もし大きな地震が起きたら、田辺市も似た状況になってしまうのではないか。「過疎地ならではの現実、課題を痛感させられた」という。

■高齢化も影響

 和歌山県の住宅耐震化率は81%(2018年度)で、全国平均(87%)を下回っている。都市部に比べ、住宅に占める一戸建ての割合が高いことが一因という。一戸建ては共同住宅に比べ、耐震化率が低い傾向がある。これが全体の耐震化率を引き下げている。

 世帯主の高齢化も影響している。世帯主を年齢別で見ると、65歳以上が占める割合は全住宅で42%なのに対し、1981年以前の旧耐震基準の住宅では68%に跳ね上がる。跡継ぎがおらず、放置される空き家も増えている。空き家は耐震化率に含まれていない。

 田辺市の住宅耐震化率は73%(20年度)で、県平均を下回る。市では耐震改修の補助制度をPRしているが、なかなか浸透していない。22年度の耐震診断件数は120件で、改修は35件。23年度は昨年11月末現在で、診断42件、改修25件にとどまっている。

 市建築課の担当者は「高齢者は『今さら』と言う人も多い。津波の浸水域とされているエリアでは『どうせ津波被害を受けるから』の声もある。ただ、家屋が倒壊しては避難自体ができない。救助や撤去のためにも人員が必要になる。公私どちらの視点からも耐震が必要」と呼びかけている。

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