「酒井宏樹さんにバチバチにやられた」。“本物のプレー強度”を体感し、意識がさらに変わった神村学園の名和田我空「守備が苦手という印象を払拭したい」

一言で言えば、名和田我空(2年)の印象は“巧い”だ。現代のサッカーでは絶滅危惧種に近い“ファンタジスタ”という言葉が最もしっくりとくる。

ポジションもサイドハーフで起用されるケースもあるが、基本的には2トップの一角で攻撃のフリーマンとして自由に振る舞うことが多い。

ただ、プロサッカー選手になるためには、本物の強さを身に付けなければならないし、プロの世界でも生き残れないだろう。そうした意味では、九州高等学校(U-17)サッカー大会での名和田は、今までとは少し異なる姿を見せてくれた。

神村学園で昨季からチームのエースナンバー「14番」を背負う注目株は、高校選抜の活動を終え、2月19日からチームに合流。決勝トーナメントから参戦し、圧倒的なプレーで力強くチームを牽引した。

大会が行なわれている鹿児島に到着したのは18日の夜。高校選抜でチームメイトだった日章学園のFW高岡伶楓(2年)とともに東京から戻ると、翌日にはキャプテンマークをつけてピッチに立っていた。

チームは怪我人が続出しており、主将のDF鈴木悠仁(2年)、司令塔の福島和毅(1年)らが大会の序盤で負傷した影響で台所事情は厳しかった。

「結果を見た時に複数失点を喫する試合ばかりで、これで大丈夫かなと思っていた」と名和田が言うように、状態は決して良いとは言えない。自身もコンディションが万全ではないなかで、流れを変えるべく準々決勝の鵬翔戦(2-2/4PK3)からスタメン起用された。

攻撃面では圧倒的な違いを示し、0-1でリードを許していた後半17分に今大会初ゴールをゲット。自ら右サイドに展開し、そこから入ってきたクロスに右足で合わせてネットを揺らした。

チームもPK戦で勝利すると、同日の午後には佐賀東との準決勝(3-0)に出場。スタートからピッチに立ち、0-0で迎えた後半11分に縦パスを受けると、左足を振り抜く。大雨の影響でぬかるんだピッチをものともせず、先制点を挙げて勝利に貢献した。

そして、迎えた20日の大津との決勝戦。鈴木に代わってこの日もキャプテンマークを巻いて登場した名和田は躍動する。

立ち上がりから相手に主導権を握られ、なかなか良い状態でボールが入ってこない。パスが来ても厳しいマークに遭い、簡単に前を向かせてくれなかったが、それでも自分の間合いに持ち込めるのは、さすがの一言。

劣勢のなかで迎えた前半29分。FW日高元(1年)が右サイドからクロスを入れると、ニアサイドで受ける。そこからもう1つ深く抉って、折り返してFW大成健人(2年)のゴールをお膳立て。視野の確保が難しい状況でも、大成のポジションを把握したうえで正確なクロスを送り込んでみせた。

このゴールが決勝点となり、チームは11年ぶりに優勝。「僕たちはまだまだ技術が足りないし、これから力をつけていかないといけない。満足している選手は一人もいないし、(監督の)有村先生からもまだ成し遂げていないよと言われた。自分たちは3冠を狙っているので、さらにレベルアップをしたい」と名和田は殊勝に語ったが、今大会のプレーは明らかに去年とは異なるものがあった。

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17日に高校選抜の一員として臨んだネクストジェネレーションマッチはベンチ外となったが、翌日の練習試合をこなしてチームに合流。コンディションが万全ではなく、相手からのマークが強まっていなかでも、結果を残した。

さらに、何より今回の九州大会で素晴らしかったのが、守備の強度だ。昨秋のU-17ワールドカップでは森山佳郎監督(現・ベガルタ仙台監督)からインテンシティの課題を問われ、スタメンで起用されたのは2試合だけ。出場機会が訪れなかったグループステージ第2節のアルゼンチン戦では、相手の凄まじい強度を間近で示され、世界で戦うためにはどのレベルで体現しなければいけないかを、これでもかと見せつけられた。

「ワールドカップを経験して、自分の力不足を痛感した。自分に足りない部分も明確に分かったし、それがまだ自分のウイークポイントでもある」

課題を認識している一方で、着実に変化は見られている。今大会では泥臭くボールを追う姿が目につき、ユニホームを汚しながら奪いに行くシーンが何度もあった。

泥臭いプレーが少しずつできるようになっているが、選手権後にプロの世界を体験できたことも大きな理由の一つ。浦和レッズと横浜F・マリノスの練習に行き、プロのプレー強度から多くのことを学んだ。

「(キューウェル監督から)攻撃の選手はゴールが取れないと意味がないと言われたし、強度の部分でもボールが少し離れたら、深いスライディングをバチンとくらって、プロの洗礼を浴びました」

そして、浦和では酒井宏樹とマッチアップ。日本を代表するSBとの対戦からも多くのことを得た。

「レッズでは酒井宏樹さんにバチバチにやられた。ボールを離したタイミングで身体が出てくるなと思って準備をしたら、身体ごと持っていかれて(苦笑)。左サイドでプレーしたんですけど、ボールを止めた時に守備の距離感が全く違っていて、ボディフェイントを使って抜こうとしたけど、全然ブレないんです。ブレないし、ゴツいし。そういう状況で自分はまだ綺麗にやろうとしているので、剥がしてシュートまで速く持って行く力をつけないといけない」

多くの刺激を受けた名和田はさらなる成長を目ざし、高いモチベーションで新シーズンに挑む。

「守備が苦手という印象を払拭したい。前線でボールを奪うところや最後までボールをタッチライン際まで追ったり、そういうがむしゃらさが自分にはまだまだ足りないので、誰よりも戦って、誰よりも巧いと言われる選手になりたい」

強くて、巧い選手になるべく、神村学園の大黒柱は現状に満足せずに、上だけを見てボールを追い続ける。

取材・文●松尾祐希(サッカーライター)

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