夫亡き後、義実家との関係を断ち切りたいと思ったら
「終活」に関心を寄せる人は増えています。
自分のお葬式やお墓についての希望、相続トラブルを避けるための準備、家の中の片づけなどがイメージしやすいかもしれませんね。
中には「煩わしい人間関係を断捨離したい」と考えている人も多いはず。配偶者に先立たれた後、義実家との関係を続けることへの難しさを感じている人もいるでしょう。
みなさんは「姻族関係終了届」という制度を知っていますか?“死後離婚”と俗に呼ばれるものです。
そこで、義家族との関係を「整理」した、A美さんのエピソードをみていきましょう。きっかけは、若くして帰らぬ人となった夫の四十九日法要の場で起きた、A美さんの心をえぐるような出来事でした。
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【死後離婚のきっかけ】夫の四十九日法要、姑の一言で私の心は「えぐられた」
A美さん(神奈川県・47歳・専業主婦)は、42歳のとき同じ歳の夫が急性心不全で帰らぬ人へ。世間でいう、いわゆる「過労死」でした。
のんびりした地方都市で育った夫は、地元の公立進学校から誰もがうらやむ「旧帝大」に進学。両親にとってはまさに「故郷に錦を飾る」という表現にふさわしい、自慢の息子だったようです。
その後、地元でのUターン就職を望む親族を振り切り、東京に本社を置く大手商社に就職。そこで一般職として勤めていたA美さんと出会い結婚し、一男一女にも恵まれました。
夫が帰らぬ人となったとき、夫の両親はまだまだ健在。息子の早すぎる死に大きな衝撃を受けていたことは言うまでもありません。
しかし、四十九日法要で納骨を終えた後、親戚知人一同の目前で、義母がA美さんに対して衝撃の発言をしたのです。
「あなたみたいな嫁を貰ったのが間違いだった」
「地元に戻って就職していれば、あの子はこんな死に方なんてしなかったはず。やっぱり長男の嫁にあなたみたいな東京の娘をもらったのが間違いだったのよ。専業主婦のくせに旦那の健康管理もできなかったってことよね」
姑の発言に心をえぐられるような思いをしたA美さん。一周忌法要が近づくにつれ、過呼吸や動悸に悩まされるようにに……。
ある時遺影に向かい、A美さんはつぶやきます。
「あなたがいなくなっても、お義母さんたちと戸籍上の繋がりを続けていかないとダメなの?」
天国のあなたへ。これからもお義母さんたちと戸籍上繋がっていないとダメですか?
「あなたがいなくなっても、お義母さんたちと戸籍上の繋がりを続けていかないとダメなの?」
そんな苦悩を親友に打ち明けたA子さんは、「姻族関係終了届」という制度を知ることになります。俗に「死後離婚」と呼ばれるものです。
【死後離婚】姻族関係終了届ってどんなもの?
この「姻族関係終了届」とは、「配偶者の死後に提出し、姻族との関係を終了する手続き」のこと。姻族とは、結婚によって親族になった人たち、つまりは配偶者と血のつながりがある人たちですね。
民法上「親族」とみなされるのは、3親等以内の姻族。そのため夫(もしくは妻)の死後、その両親を扶養する義務などが生じる可能性があります。
「姑から嫁いびりを受けていた」「妻の家族とは最悪な関係だった」といった家庭は珍しくないでしょう。配偶者への愛情として、最低限の付き合いはするものの、金銭援助、ましては介護なんてまっぴら!という人も多いはずです。
こういった場合、決意表明の意味を込めて「婚姻関係終了届」の提出を検討する人がいることは不思議ではないでしょう。
姻族関係終了届は「提出期限なし・義実家にもバレない」
この「姻族関係終了届」には、提出期限はありません。届け出た後も、亡くなった配偶者の相続人としての地位や、遺族年金の受給権に影響は出ません。 さらにいうと、提出には配偶者の親・きょうだいなどの同意を得る必要はなく、届け出をしたことが義家族に知らされることもないのです。
「死後離婚」届け出の推移
「姻族関係終了届」はどれくらい出されているのでしょうか。法務省の「戸籍統計 統計表」で推移をみることができます。
「姻族関係終了届」届け出件数の推移
- 1998年度…1629件
- 1999年度…1824件
- 2000年度…1797件
- 2001年度…1834件
- 2002年度…1769件
- 2003年度…1799件
- 2004年度…1793件
- 2005年度…1772件
- 2006年度…1854件
- 2007年度…1832件
- 2008年度…1830件
- 2009年度…1823件
- 2010年度…1911件
- 2011年度…1975件
- 2012年度…2213件
- 2013年度…2167件
- 2014年度…2202件
- 2015年度…2783件
- 2016年度…4032件
- 2017年度…4895件
- 2018年度…4124件
- 2019年度…4344件
- 2020年度…3747件
- 2021年度…3595件
- 2022年度…3780件
1998年以降ゆっくりと増え、2000件前後で推移していましたが、2016年に4000件を突破。2019年の4344件をピークに、その後は3000件台後半で推移しています。
子どもたちの一言に背中を押され「死後離婚」を選択
「姻族関係終了届」の存在を知ったとき、A美さんの心は揺れました。
「義父母たちとの繋がりは、夫の一周忌法要を待たず、今すぐにでも断ち切りたい。でも、相手は子どもたちにとっては大切な祖父母。娘と息子はどう思うだろう…。そして何より、天国の夫が悲しむのではないかしら」
法要で起きた光景をすべて見ていた息子と娘は、「ママの気持ちを一番大事にしたい。天国のパパもきっとそれを望んでいると思うよ」と背中を押してくれたとのこと。こうしてA美さんは義父母との姻族関係に終止符を打つことに決めたのです。
先述のとおり、姻族関係が終了したことが、義実家に知らされることはありませんが、我が子にとっては父方のおじいちゃんおばあちゃん。遠くない将来に「代襲相続」が発生する可能性もある相手です。
そんな義父母と我が子の関係が良好であることを優先し、結果的に「姻族関係終了届」の提出を踏みとどまった人もいるようです。
さいごに
ちなみに、姻族関係終了届の届け出者の男女比が分かるデータは公表されていません。
とはいえ、厚生労働省「令和4年簡易生命表の概況」日本人の平均寿命の男女差は約6歳(男性81.05歳・女性87.09歳)。妻の方が年下、もしくは夫婦同年代、といった場合、妻が遺されるケースが多いことが推測されますね。
となると、女性からの届け出の比率が圧倒的に高いということは想像にたやすいことは確かです。
家族のスタイルや夫婦の生き方は、今後ますます多様化していくでしょう。しかし、とりわけシニア世代には「旧来の家族観」を大切にする人も少なくありません。
こうした価値観のギャップが見えたとき、「死後離婚」が脳裏に浮かぶことは、ある意味至極自然な流れなのかもしれません。
その逆もしかり。「わが子亡き後、そのパートナーと親族関係を持つ必要はないだろう」と考える舅姑も、もちろん一定数いるはずです……。
参考資料
- e-GOV法令検索「昭和二十二年司法省令第九十四号 戸籍法施行規則」
- 大阪市「姻族関係終了届」
- 豊中市「各種戸籍届書様式」
- 「姻族」世界大百科事典 コトバンク
- 「死後離婚」知恵蔵miniコトバンク
- 法務省「戸籍統計 統計表」
- 厚生労働省「令和4年簡易生命表の概況」