休日の大人旅~伊豆沼を一望~

カフェ・コロポックル

カフェ・コロポックルは、そんな日本文化であるジャズ喫茶を現代風にアレンジしたお店で、2016年の春に伊豆沼からほど近い丘の上にオープンした。コンセプトは「気楽にジャズと触れ合い、寛げるお店」だ。音楽と珈琲を同時に楽しめるのも素敵だけれど、お店のテラス席から伊豆沼の豊かな自然を一望出来るのも、とっても魅力的!

「伊豆沼・内沼はすまつり」を目当てに、たった一人の自由な旅「大人の休日旅」を満喫中の一人の女性。ついさっきまで居た「はすまつり会場(若柳会場)」からわずか車で1、2分の場所に、こんな素敵なカフェがあるとは思わず、驚きの表情を浮かべてしまう。

『カフェ・コロポックル。アイヌ語でふきの下に住む小人の神様かぁ。』

手作りの木彫り看板を見つめつつ、早速店内へ。

店内に入ると思わずステップを踏みたくなるような、重低音の軽快なジャズの音が耳に飛び込んできて、そこはどこか異国の地の小さなライブハウスに足を踏み入れたよう。あたたかい暖炉のような照明が一段と雰囲気を盛り上げ、そして専用スピーカーに照明機材が天井からちょこんと顔を出している。周囲を取り囲む壁には、錚々(そうそう)たるアーティストのポスターや年代物のレコードにトランペットまで!いたるところにジャズの要素が散りばめられているので、思わず席に座るのを忘れてぐる〜りと見惚れてしまう。

喫茶のご主人は店内に設置されている一部のスピーカーを、自分で手掛けたほどの大の音楽好き。それと同じくして、店内で提供している珈琲の豆や淹れ方にもこだわりがあると言う。そこには単なるジャズ喫茶ではなく、本格的な珈琲の味も楽しめる店にしたい、と言うご主人の想いが感じられる部分だ。

『CDはね、8000枚くらいに・・レコードは約1000枚かな。あと他の音源も含めると、大体1万枚くらいあるね。』

ご主人は珈琲を淹れながら、さらりと店内のレコードやCDなどの説明をしてくれた。店内にある音源は、50年代後半から60年代のモダンジャズに加えて、ヨーロッパ地域やアメリカのニューヨーク出身のアーティストの楽曲など様々。店内で流してほしい曲があればリクエストをすることが可能で、お気に入りの曲を聴きながら本格珈琲が味わえる。

店内窓際の椅子に座り、外を眺めるとそこには輝く水面が美しい伊豆沼の姿。スゥッと青空を流れるように飛行する野鳥の姿に、沼の周囲を囲む青々とした植物たち。この窓からの景色が絵画のようで注文した珈琲が届くまでの時間、ただただ眺めているだけでも不思議と贅沢な気持ちになってくる。

ご主人が丁寧に淹れている珈琲の香りが店内を包みこみ、ジャズの心地良い音が心をじんわりと満たしてくれる。友人や家族で旅をするのも素敵だけど一人で自由気ままに、こうやって時間を忘れて物思いに耽ったり出来るのは、大人の休日旅の醍醐味だ。

心の奥から込み上げてくる嬉しさを感じていると、そこにご主人の優しい声が響く。

『おまちどうさま。やっぱりね、美味しい珈琲はちょっと時間がかかるんだよね。』

そう言ってご主人はニコリと微笑むと同時に、淹れたての珈琲をソッと置いてくれた。珈琲からは、ふわりと立ち上る甘く深さのある上質な香り。店内の珈琲豆は東京都板橋区にある自家焙煎珈琲専門店「カフェ・ベルニーニ」から直送したもの。ご主人が選び抜いたその味は、ジャズの世界のように深い。

珈琲の香りとジャズに酔いながら、ついつい珈琲を飲み終えた後もそのままのんびりと新聞を広げて読んでみたり、お気に入りの本を片手に長居をしてしまう。ゆったりと流れる時間に焦ることなく、身を任せていられる安心感がここには存在しているようだ。

伊豆沼の小さな丘にあるジャズ喫茶「カフェ・コロポックル」。一杯の珈琲とジャズの音、伊豆沼の景色がまるで映画のワンシーンのようで、大人の休日の旅だからこそ沁みたひとときの素敵な時間。

窓際からの変わらない景色を願いながら『また来るから』そう心の中でつぶやいた。

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