インドネシア・ミレニアルの肖像 Putri Sulistyowati (25) モデル

身長が178センチもあったので、外見に劣等感を持っていました。おまけに女子校にいて理系クラスで勉強ばかりしていて、コミュニケーションが不得意だったから、かなり内気に見えていたかもしれません。そんな私を心配した母に勧められ、高校を卒業してからモデル・スクールの短期コースに通ったんです。その時はモデルになるつもりはなくて、自分を表現するトレーニングに行く気持ちでした。ところが、写真家のいとこ(Anton Ismail)の強い勧めもあって、彼の作品でモデルをやってみたんですよ。自分にとって、それは、内向的な自分と決別するための、とても大きな決断でしたね。しばらくしたら、いきなり雑誌の表紙になっちゃって……へへへ。

トリサクティ大学で建築を学び、卒業してから英国へ留学しました。親からの資金援助は断り、モデルとして働きながら、歴史的建造物保護について学びました。古い建物だらけの英国では、この分野の研究が進んでいるんです。お金を稼いで自活することがいかに大変か、ということも実感しました。

幼いころからいつも、自分たちの伝統や文化に敬意を払うことがいかに大切か、ということを、ジョグジャカルタ出身の父に教えられて育ちました。父は音楽好きで、趣味が高じてバティック模様を施した手作りギター工房「G&B」を設立しました。父は私をしょっちゅう、そのギター工房へ連れて行きました。そこで私は、職人さんたちのコミュニティーや彼らの家族が持つ伝統的な価値観を実感することができました。だから、なぜ自分の国では古い建物や遺跡を英国のように保護できないのか、それこそが自分が取り組むべき仕事ではないのか、という思いが強くなったんです。

ここは父がデザインした家なんです。子供のころからずっとここで育ったんですよ。今はこの2、3階部分の18室をホームステイ用にリノベーションしているところです。今までも下宿として貸し出していたんですが、これからはここを、古い要素と新しいコンセプトを併せ持つ、快適なコミュニティー空間へと改造したいんです。

海外からの観光客の多くは、他国とは異なる体験を求めて、この国にやってきます。なのに、観光資源として価値のある古い建物の多くは、手入れされることなく朽ち果てている。その状況について政府や観光業界が現在、十分に自覚しているとは思えません。でも、いきなり大きなシステムを変えることはできません。だから、まずは、この自宅のホームステイで自分のコンセプトを実現することにより、一歩一歩、次のステップにつなげていくつもりです。同時に、大学の講師という仕事を通じ、学生たちに「伝統的な価値を再発見することの大切さ」を伝えることも、私の役割だと思っています。

自分のルーツや受け継いだものがなければ、私たちはここに存在することはできなかったはず。私は過ぎ去った歴史に向かって歩んでいます。それは後退のように見えるかもしれません。でも実際のところ、それこそが未来なんです。

プトリが表紙を飾った雑誌は「Dewi」「Asia Surface」「Two Tone」「L´Officiel Indonesia」。ファッションページのモデルは多数。メイクを決めたプトリは、きりっとした、ミステリアスな雰囲気。

プトリ・スリストヨワティ
1991年、ジャカルタ生まれ。トリサクティ大学で建築を学ぶ傍ら、国内でモデルとしてのキャリアをスタートし、数々のファッション誌のページを飾る。その後、英キングストン大学院へ進学し、歴史的建造物保護を専攻する。同時に、英国の有名モデル・エージェンシー「FM London」からのオファーにより、2015年の「ロンドン・ファッション・ウイーク」にデビュー。2016年9月から母校のトリサクティ大学で歴史的建造物保護について教える講師を務める。建築家の父がジョグジャカルタで営むバティック模様の手作りギター工房「G&B Guitar」の経営も手伝う。

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