『機動警察パトレイバー』搭乗/操縦できるイングラム開発の利点とは? 日本の風景に馴染むロボットへの期待

『機動警察パトレイバー』の主役メカ"イングラム"が、「実際に登場/操縦できる機体」として開発するプロジェクトが発表された。開発を担当するのは、MOVeLOT株式会社。現在スポンサーおよびサプライヤーも募集中だ。

公式WEBサイトによれば、MOVeLOTの事業内容は「搭乗型ロボット操縦空間開発・搭乗型ロボット骨格基盤開発」というもの。字面を素直に解釈すると、実際のロボットそのものではなく、コクピットに人が乗って「操縦」が体験できる装置・環境の開発を行なっている企業ということになる。

「搭乗型ロボット骨格基盤開発」という点については、同社が開発しているロボット「ASTRO」の姿を見ると理解できる。このロボットはコクピット部分とその左右から伸びた腕部、頭に当たる位置に取り付けられたカメラで構成されているのだが、外装にあたる部分が付いておらず、ほぼ骨組みだけの機体なのだ。

骨組みだけで外装がない、コクピット周辺だけのロボットを作っている、というのが重要な点である。骨組みだけならば、外装を作って取り付けることで色々なロボットの外見をトレースすることができる。イベントや設置場所に合わせて異なるコンテンツの登場機体を組み立てることができれば、ビジネスとしては応用が効くだろう。MOVeLOTの事業は「有名なロボットのコクピットに自分が乗って動かす」という体験の魅力に焦点を合わせたもので、ハードコアなロボット開発というよりはイベント・テーマパーク的な方向性の事業と言える。

そういった搭乗・操縦する体験を提供するためのロボット型機材として、イングラムが選ばれたのは興味深い。いまだに人気のある作品とはいえ、初期OVAから36年も経過している作品である。にも関わらず「現実に人を乗せて遊ばせる」ための機材の題材としてイングラムが選ばれたのは、いったいなぜなのだろうか。

実物大のイングラムと言われて記憶に新しいのが、『THE NEXT GENERATION -パトレイバー-』制作時に作られた実物大イングラムとレイバーキャリアだ。このイングラムは車両でそのまま移送できるという利点を活かし、各地のイベントでデッキアップを披露している。

このデッキアップイベントの風景は、なかなか印象的なものだった。各地のイベントでは実際の警察官が警備に駆り出されることもあり、その展示風景は『パトレイバー』の劇中さながら。もともと現実感の強い近未来(といっても、今では作中の時間軸を現実の方が追い抜いてしまったけれども)の日本を舞台にした作品だったことから、白黒に塗られた(冷静に考えればおかしい)ロボットがキャリアによって立たせられる姿は、作品世界と現実との境界線を曖昧にしてしまうような効果があったのである。

今回のMOVeLOTによるイングラム製作も、イングラムという機体が持つ実在感の強さがカギなのだろう。「現代日本の風景の中に放り込まれても違和感を発生させない」というイングラムの持ち味は唯一無二。たとえば完成後に色々なイベント会場に持ち込んで動かすにしても、周囲の風景と馴染んでより『パトレイバー』っぽさを増すことができるわけである。

他の機体ではそうはいかない。お台場や横浜に立った実物大ガンダムはあくまでモニュメントであり、あれが立ったことによってお台場がスペースコロニーの内部に見えてくるようなことはなかった。稲城長沼駅の前のスコープドッグにしても、駅前に立っている限りはやはりモニュメントである。スコープドッグの場合、どちらかといえば工場で製作中の時点の方が雰囲気があったように思う。

しかし、イングラムは違う。『パトレイバー』という作品の特徴ゆえに、現実の日本の風景の中に立ったイングラムは、現実と作品世界の境界線を曖昧にしてしまうのだ。もちろん現実の日本を舞台にロボットが登場する作品は他にもたくさんある。が、8mほどというほどよい全高、ヒット作ゆえの知名度、見た目のわかりやすさ等々、これだけ好条件が揃っている機体は他にないのだ。

というわけで、MOVeLOTが題材としてイングラムを選んだ理由は十分に理解できる。サイズ、知名度、そして周囲の風景との親和性……登場から36年が経過した現在でも、これほどまでに実物大で作った時に様になる要素が揃ったロボットは他にないのだ。完成の暁には、きっと絵になるイングラムが完成していることだろう。ただ、漫画版も好きな自分としては、最初の方に出てきたイングラムのシミュレーターみたいな方向性の機材も見てみたいかも……と、思わなくもないのであった。

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