<埼玉公立高入試の解説速報>今年度の問題、難易度は 教科ごとに配点など詳細分析、平均点の動向も予想

県立浦和高校の入試会場へ向かう受験生ら

 2月21日、令和6年度埼玉県公立入試学力検査が実施されました。

 昨年度(令和5年度)入試では、社会の平均点が64.1点と高かった一方、英語(学力検査問題)は45.8点と低く、その差は18点以上ありました。他の教科はおおむね50点台後半でした。

 はたして今年度の問題や難易度はどうだったのでしょう。

 以下、教科ごとに問題構成、出題内容、配点、難易度等について見ていきます。

【国語】

 大問構成と配点は昨年までと同じでした。

 大問1(長文読解・小説)は辻村深月著「この夏の星を見る」を題材とした問題でした。昨年6月に出たばかりの新刊です。出題内容は登場人物の様子や心情などを問うもので例年と同じでした。

 大問2は主に知識問題と言われるものですが、漢字の読みでは「懐柔(かいじゅう)」「拭う(ぬぐう)」などがやや難しかったかもしれません。文法問題や熟語に関する問題は特に難しくはありませんでした。

 大問3(長文読解・論説文)は、文化人類学者・小川さやか氏の著書を題材とする問題でした。昨年までの哲学をテーマとした文章よりも多少は読みやすかったかもしれません。問2(7点)、問5(7点)は二つの指定語を使って35字(40字)以上、45(50字)以内で説明する記述問題ですが、配点も高く、差がつきそうです。

 大問4(古文)の問4は昨年と同じ出題形式でしたが、記号選択になった分、答えやすかったでしょう。

 大問5(作文)は2種類のグラフを資料として、「持続可能な開発目標(SDGs)の推進」について自分の考えを書かせる問題でした。身近なテーマであり体験なども書きやすかったでしょう。書き方の条件等は例年どおりでした。

 難問は少なく、平均点は昨年並みと予想されます。

【数学】

 昨年度は学力検査問題、学校選択問題ともに前年より平均点は大きく上がり、40点台から50点台に回復しました。年度により変動が大きいため、今年の出題内容や難易度が注目されていました。

 学力検査問題は大問4問であるのは例年通りです。ただし、問題構成や配点はやや変わっています。

 大問1が計算問題を中心に各単元から幅広く出されているのは例年通りで、配点65点も変わりません。(15)は学校選択問題と共通でしたが、対策が不十分で戸惑った人もいたかもしれません。

 大問2は作図と証明、大問3は関数、大問4は図形の問題でした。大問3の関数では説明を求める問題が出されました。簡潔に説明できたかどうかが鍵になりそうです。

 学力検査問題の平均点は昨年並みか、やや上がる程度と予想されます。

 学校選択問題は大問5問であることは昨年と変わりませんが、構成や配点がやや異なっていました。

 大問1では(5)(6)(8)などが、難しくはありませんが少し時間がかかったかもしれません。

 大問2は作図と証明でした。作図はさほど難しくはありませんでしたが、証明問題の完答は難しかったかもしれません。

 大問3は関数、大問4は確率(場合の数)、大問5は図形の問題でした。

 大問5では、説明を求める問題が姿を消したため、その分取り組みやすかったと言えますが、時間内にここまでたどり着けなかった人や、十分な時間を残せなかった人も多いかもしれません。

 時間のかかりそうな問題がいくつかあり、それをクリアできた人がどれだけいたかにもよりますが、学校選択問題の平均点は、昨年よりやや上がりそうです。

【社会】

 大問構成はこれまでと同じでした。また、大問ごとの配点も昨年同様でした。

 大問2(日本地理)では、3年連続で山脈名(紀伊山地)を問う問題がありました。地図(地形図)の読み取り問題では、昨年に続き、地図記号や距離計算の問題がありませんでした。

 大問3(江戸時代までの歴史)では、人名で伊能忠敬を書かせる問題が出ましたが、ややなじみの薄い人物だったかもしれません。

 大問4(明治時代以降の歴史)では、これまで毎年出題され、正答率が非常に低かった年代の並べ替え問題が姿を消しました。

 大問5(公民)では、昨年(2023年)5月に広島で開催された「主要国首脳会議(G7)」が出題されました。時事問題と言われるもので教科書には載っていません。授業でも触れられなかったかもしれません。ただ、新聞やテレビでは連日大きく扱われていましたから、ふだんから世の中の動きに関心を持っていた人にとっては易しい問題だったでしょう。

 大問6(三分野総合)には年代の並べ替え問題が残りました。安土桃山・江戸・明治・大正と、示された出来事の時代が明確に分かれていたので分かりやすかったでしょう。

 各大問に1題ずつあり、合計で30点となる記述(論述)問題で差がつきそうです。

 昨年平均点は64.1点と5教科中もっとも高かった社会科ですが、今年も答えやすい問題が多かった印象なので、平均点は昨年並みかそれ以上となりそうです。

【理科】

 大問構成と配点は昨年と同じでした。

 大問1は各分野からの小問です。計算や作図などは必要なく、基礎的な用語や知識を問う問題が中心でした。半数は記号選択だったので取り組み易かったでしょう。

 大問2から大問5は地学・生物・化学・物理の各分野からの出題になりますが、長い問題文や多くの図表などを丁寧に押さえていかなくてはならないので非常に時間がかかります。

 大問2(地学分野)は、「天体(月)」に関する問題でした。計算により明るさを求める問題がやや難易度が高めだったかもしれません。

 大問3(生物分野)は、動物(バッタやザリガニなど)のつくりとはたらきに関する出題でした。記述問題が1題ありましたが、ここはクリアできた人も多いでしょう。

 大問4(化学分野)は、炭酸水素ナトリウムに関する問題でした。化学反応式を完成させる問題や物質の質量を計算させる問題は、この分野では繰り返し出題されています。過去問で十分な練習をしてきた人には想定の範囲内の問題ですが、不十分な人は苦戦したかもしれません。

 大問5(物理分野)は、運動とエネルギーに関する問題でした。問4の理由を説明させる問題などは時間不足も含めて苦戦した人も多いでしょう。

 平均点は、昨年は58.2点と60点近くまで上がりましたが、今年はやや下がる可能性があります。

【英語】

 学力検査問題の大問構成、配点などは例年とほぼ同じでした。各小問の設問内容なども特に大きな変化は見られないので、過去問等でしっかり準備してきた人は取り組みやすかったでしょう。

 英作文は「スポーツを見ることとすることのどちらが好きか」についてスピーチ原稿を完成させる問題でしたが、これは昨年の「本と映画ではどちらで楽しむのが好きか」とまったく同じと言っていいほど似ています。ここでも過去問学習が生きたはずです。

 作文だけではありませんが、記述問題では単語のスペルや基本的な文法事項の誤りで減点される人が多いようです。自己採点ではそのあたりはやや厳しめにチェックしておいたほうがいいでしょう。

 学校選択問題の大問構成や配点についても特に大きな変化はありませんでした。大問1(リスニング)のNO.7、大問2の問5、大問3の問4などの英問英答問題や、大問3の問6の長文内容の要約文を完成させる問題などが、高得点を取れるかどうかのカギとなりそうです。学力検査問題にも言えることですが、昨年、苦戦した人が多いのは英語を正しい順序に並べ替える問題でした。自己採点ではこのあたりもチェックしておきましょう。意外に差がつくところです。

 英作文は、「キャッシュレス決済」がテーマでした。昨年と異なり、今日的なテーマが選ばれました。消費者教育や金融教育の必要性が叫ばれている時代なので、それに沿った出題ということが考えられます。

 学力検査問題、学校選択問題ともに出題内容・形式に大きな変化はないので、平均点も昨年並みとなりそうです。

■梅野弘之氏

 教育ジャーナリスト、元埼玉県公立高校教諭。メディアバンクス代表取締役。埼玉新聞受験特集に執筆するほか入試関連イベント、進学情報誌の編集発行に携わる。

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