子どもが泣くまで叱る夫。もっとおおらかに育てたいのに、将来に悪影響があるのでは と不安に思います

3人の子どもを育てる相談者のまどかさんは、夫が子どもに厳しいことを心配しています。夫婦で叱り方に対する考えが違い、その溝を埋められないことも悩みです。家族の問題に詳しい心理カウンセラーのよしおかゆうみさんがやさしくアドバイスします。

【相談者】
まどかさん〈仮名〉
39歳

夫(50歳)、長女(8歳)、長男(5歳)、二女(1歳)の5人暮らし。兵庫県在住。保育士で育児休暇中ですが、4月に職場復帰する予定。夫は明るくてしっかり者。長男は甘えん坊でマイペースな性格。

【回答者】
心理カウンセラー
よしおかゆうみさん

幼稚園教諭を20年務めた後、思春期カウンセラーなどを経て、現在は夫婦や親子など家族問題のカウンセリングに携わっています。相談者数は2万組以上。
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食事のときの行儀など、細かなところまでとにかく厳しい。子どもはすっかり委縮しています

まどか:私と夫の育児観のズレに悩んでいます。私は子どもが泣きたいときはしっかり泣いてから切り替える、甘えるときはとことん甘えるのがいいと思っています。でも夫は「ちゃんとしなさい」という考え方。特に5歳の長男に厳しくて、泣くな、甘えるな、しっかりしろと言って、泣くまで怒ったりするから、情緒や成長に影響しないか心配で・・・。

よしおか:パパはどんなときに怒りますか?

まどか:例えば、キッズバイクがうまく乗れないと「練習が足りない」と𠮟る。叱られて泣くと「男のくせに泣くな」とまた叱る。長男は委縮してしまって、練習がイヤになってしまいました。

よしおか:そうなのね。

まどか:「そんなふうに言わないで!」と言ったら「そうやって甘やかすから、ああなるんや」と返されました。私が10歳下だからか、ちょっときつく意見すると怒ります(笑)。男だから、女だからという昭和な考え方もあるのかな。

よしおか:なるほど。

まどか:「男のくせにっていう発想はやめて」というのも伝わらなくて。それから食べ方にも細かいです。食べこぼしをしないとか、左手を添えるとか、三角食べをしなさいとか、食事中はいつもそんな感じです。

よしおか:そっか~。

まどか:子どもの前で言うのは夫のプライドを傷つけると思って、2人で話し合ったこともありますが改善しなくて。「あんまり怒ると自信がどんどん失われていくから、今はできるできるって言って、自信をつけさせてほしい」と頼んだけど、「でも気になることは言ってしまう」と話していました。

「男らしさ」を求められて育つと、息子にもそれを期待しがち。急に変わってもらうのは難しいかも

よしおか:「男のくせに」って、最近はあまり言わなくなってきていますが、世代もあるかもしれないし、親御さんにそうやって育てられたのかな。

まどか:そうなんです。義母も「男の子は泣くなと言って息子を育てたから、そのせいかしら」と反省してて。

よしおか:価値観は親だけじゃなくて、学校や友だちや社会などいろいろな要素からつくられるけど、価値観を変えるって難しいですよね。自分は親からそう言われてちゃんと育ったという感覚があると、疑問を持つことなく息子にも「男らしく」とか昭和な言葉が出るんだと思います。

まどか:最近、長男はパパに話しかけられると聞こえないふりをするんですよ。また何か怒られると思って。

よしおか:聞こえないふりをしますね、子どもって(笑)。

まどか:夫は子どもたちのことがすごく好きだし、愛情もあるんですが、子ども目線で関わるのが苦手なのかな。夫と子どもの関係や、夫婦でどう協力して子育てをしたらいいのか悩んでいます。

よしおか:なるほど。でも子どもって意外と愛情は感じてるから、基本的には大丈夫だと思いますよ。

まどか:そうですか。

よしおか:うん。愛情が伝わっていれば、「パパちょっと怖いし、ときどき嫌だけど、でも好き」みたいな。

まどか:そう、長男も長女も、パパは好きなんだけど怒られるからイヤ、みたいな感じなんです。怒り出すと結構長いので・・・。

よしおか:そうか~、長いのか~。

まどか:子どもには「パパはあなたのことがすごく好きで、外でご飯を食べたときにかっこ悪くないように言ってるんだよ。愛されてるね!」と話しているのですが。

よしおか:すると見方によっては、父性と母性のバランスがとれてるのかも。一人が父性を発揮して規律やマナーを教え、一人が母性を発揮して優しくフォローしているので、しつけの面ではとてもバランスがいいと思うんですね。

まどか:はい。

よしおか:食事のマナーは身につけたほうがいいから、パパが言うことも最もで。厳し過ぎるのもよくないけど、両方の親が「まだ小さいし」と言って全てを自由にしちゃうと、子どもは何が良くて何が悪いのかがわからなくなってしまいます。

まどか:うんうん。

よしおか:パパがちょっと厳しすぎたら、まどかさんはパパが怒る理由を子どもに一生懸命伝えてる。「だから怒ったんだね」と、パパを悪者にせず子どもに反省を促して、とてもうまく役割分担ができていると思いますよ。

まどか:そうですか~。よかったです。

よしおか:父性の役割がないと、子ども中心でルールがないから、わがままが助長されて歯止めが効かなくなって困ることも。優しいのはとてもいいことだけど、子どもの年齢が上がるにつれて、そればかりでは、ね。

まどか:確かに。

よしおか:今は穏やかな弟くんも、やがて思春期や反抗期がくると思うんだけど、そのとき壁になってくれる人がいると心強いですから。

まどか:うん、頼りになりそうです。

よしおか:居心地のいい家庭で育つのはいいことだけど、社会に出たときに家とのギャップが大きいとおびえてしまう子たちもいます。特に息子さんみたいな温和な子は我慢しちゃったり、自分が悪いと思い込んだりする傾向があるので、そうなるとかわいそうじゃないですか。

まどか:そうですね。

よしおか:でも、お父さんがちょっと怖いタイプだと「人って怒るときもあるんだ。怒ると怖いんだ」とわかっているから、社会に出ても多少のことは「そういうこともあるよね」と落ち着いて対応しやすくなりますから。

編集部:お母さんが怒るとときどき鬼になるとかも、いい面があるわけですね。「上司よりお母さんのほうがもっと怖かった」とか(笑)。

よしおか:そうね(笑)。外のからっ風に当たったときにうまく乗りきるためには、今彼がしているように、聞こえないふりして逃げてみたり、かばってくれる人を見つけたりするのも、生きる知恵ですから。

まどか:そう思います。

父性の厳しさと母性の優しさでバランスがとれればOK。「パパ、話長いよね」と笑い話にして、否定せずにフォローしてあげて

よしおか:小さいうちに規律やマナーを身につけておくと、あとで子どもが困らずにすみます。だから、パパは間違ってるわけじゃないんですね。

まどか:そうなんですよね。言ってることはわかるけど、言い方と、細かいのと、しつこいのと、長い(苦笑)。

よしおか:でも、そこは個性でもあるから全否定はしないで、「お父さんの話って長いよね。ここで終わらせればいいのにな」なんて言って止めに入ってあげて。そうすると子どもは「ママがわかってくれるから、ここは耐え忍ぼう」と知恵がついてくるので(笑)。

まどか:本当にそうです。夫が怒ると、いつも私のほうを見ます。「きたきた、ママ、きたよ~」とみたいな。

よしおか:しつけに関して正解はありませんが、子どもが主体的に判断して自らを律する力が育めればOK。俯瞰で見ると、まどかさんの家庭はそれができているし、愛情がちゃんと伝わっているので心配ないなって思います。

まどか:安心して泣いちゃいそうです。

まどかさんがずっと悩んでいた夫の厳しさには、子どもが学校や社会に出たときに役立つマナーや規範を教える大事な役割がありました。それがうまく機能するのも、まどかさんのやさしさやフォローがあればこそ。父性と母性。何ごともバランスが大事なのですね。

次回は、子どもに厳しい夫を上手にフォローする方法をさらに詳しく伺います。

イラスト/髙栁浩太郎 取材・文/神坐陽子 企画/サンキュ!コメつぶ編集部

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