先発ローテへ静かに闘志を燃やす阪神・及川雅貴 指揮官の信頼を勝ち取るカギは“新球種”

◆ 5年目で得た先発転向のチャンス

タイガースの沖縄・宜野座キャンプで主役の1人となっているのが、高卒2年目の門別啓人だ。

無駄のない完成されたフォームからムチのように左腕をしならせて捕手のミットに極上のストレートを投げ込んでいる。

今春初の対外試合となった17日のイーグルス戦でも1軍主力クラスも名を連ねる中、任された3回を零封。昨秋キャンプから開幕ローテーション候補の1人として期待してきた岡田彰布監督も「別に、予想通りというかな。あのくらいのピッチングはやるやろうな、という感じはそのまま出た」と目を細めた。

昨年から指揮官は先発ローテーションに関して、シーズン中の好不調での入れ替えや故障などの状況も踏まえて全体「7、8人」で回していく構想を持っており、今年も不変。門別ももちろん、その中に入ってくるのだが、宜野座では期待の有望株に負けじとその7、8人の枠に割って入るべくアピールを続けている若虎が他にもいる。

2月1日、サブグラウンドでのキャッチボール中に高卒5年目の及川雅貴は、安藤優也投手コーチに「先発調整でいこうか」と配置転換を告げられた。

昨季は32試合で救援登板し、今季もその心づもりでいた左腕。「1軍で投げてナンボだと思う。正直、(今年は)中継ぎでと思っていた」と率直な思いを口にしたが、コーチからの打診に「先発の思いが無いと言ったらウソになる」と“まっらなマウンド”への渇望が蘇ってもいた。

「先発なら実績もくそもないんで。本当に紅白戦から実戦でアピールしかない」

静かに闘志を燃やして、背番号37の挑戦は始まった。カギとなる球種がある。先発、中継ぎのポジションに関わらず、今オフから習得に取り組んできた新球・カットボールだ。

「直球とスライダーの間に(曲がり幅の違う)球種があったら、スライダーも生きる。操れるようになれば決め球として使える。内野ゴロも増える」

入団時にも習得を試みながら断念した経緯もあるだけに、今回はカットの使い手である先輩左腕の高橋遥人にも助言をもらい、モノにしようと必死に腕を振ってきた。

18日のカープとの練習試合。6回から4番手で登板すると、2回を6人で封じる完全投球を披露。カットボールも配球に加え「やってきたことは間違いじゃなかった」と投球の幅が広がる手応えも得た。何より、岡田監督の評価が及川の今春の充実度を物語る。

「ずっとええやんか。ブルペンでもええボールいっとるし」

現時点では経験のある中継ぎとの両にらみが現実的だろう。それでも「先発・及川」のカードを指揮官が切ってもおかしくない成長と進化を22歳は示しつつある。

文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)

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