35歳リーチ マイケルの新たなる挑戦――ロック転向で新生日本代表の「超速ラグビー」を具現化する存在へ

年下の仲間について話すのに「選手」をつけた。

35歳のリーチ マイケルは、2月6日からの2日間、日本代表トレーニングスコッドの福岡合宿で汗を流していた。

初日のトレーニングを終えると、報道陣から参加した34人中9人を占めた大学生選手について聞かれた。この調子だった。

「明治の伊藤選手。(司令塔として全体の)まとめをしていて。それと土永選手のパスの速さ、印象的でした」
明大4年でスタンドオフの伊藤耕太郎、京産大3年でスクラムハーフの土永旭は、ふた手に分かれて行なう実戦形式練習でリーチと同組だった。15歳で来日して24歳で日本国籍を得た有名アスリートは、一緒に戦ったり、チームメイトになったりした後輩によく「選手」とつける。

この午後は、グラウンドを引き上げる折にも「選手」と交流した。

京産大1年の石橋チューカに声をかけられたのだ。ロックで選出の新星は、不得手なジャッカル(地面の相手ボールを奪うプレー)について先輩の助言が欲しかった。やがて名手の姫野和樹も交え、即席の授業が始まった。

その様子について聞かれ、リーチは絶妙に間を置いて話した。

「チューカ選手がジャッカルをやりたい、って。…僕は、タックルやりたかったんですけど。で、姫野選手にお願いして、どうしたらうまくなるかを聞いて…参考になりました」

ワールドカップ出場は4回。8強入りした2019年の日本大会までは、2度続けて主将を張った。

年長者は周りの規範となるのを求められがちで、福岡ではリーチも「いい見本にならないといけない。(練習前の)準備とか、行動とか、ちゃんとしないといけない」。今回に至っては、新しい宿題とも向き合うよう請われる。

これまで6、7番のフランカー、8番のナンバーエイトといったフォワードの3列目に入って突進、タックル、接点でのファイトを繰り返してきたが、今度は2列目のロックに転じるように言われた。8対8で組むスクラムでは1列目を真後ろから押し、空中戦のラインアウトでは主要なジャンパーとしても期待される位置だ。

リーチの主戦場は、その左側にあたる4番となるか。

このほど2015年のイングランド大会以来の就任となったエディー・ジョーンズヘッドコーチが、その考えを明かした。

「あなたは、10番だよ。そう伝えました。6+4は10。ブラインドサイドフランカー(6番)と左のロック(4番)がプレーできる選手を、私たちは求めています」

フォワード第3列並みの仕事量を誇る人をフィールドに4名、散りばめる。これはいまのところ、現指揮官の謳う「超速ラグビー」を構成する一要素となりうる。

最後にロックをしたのは東海大の頃というリーチ。所感を述べる。

「問題は、スクラムですね。何でもやります。頑張ります」
キャンプを打ち上げ、いまは所属先に戻る。2011年度入部の東芝ブレイブルーパス東京では、10季ぶりに主将を務める。ここでも新たな挑戦をしていると言える。
近年は、船頭役になるとプレーヤーとしての働きが鈍るのではと懸念した時期もあった。しかし、その領域は脱したとトッド・ブラックアダーヘッドコーチは見る。

「リーチには『主将になったからと言って特別なことをしないで、パフォーマンスを示してくれれば』と話しました。チームでは彼以外にリーダーが育っているのと同時に、リーチ自身もチームを引っ張る準備ができている」

いざ役職に就いたリーチは「負けて、すぐポジティブに切り替える(習慣)をなくしたい。気分が悪くなっても、反省するところは反省する」と部内で正直なフィードバックを推奨。長年の課題だった反則の多さにもメスを入れ、昨秋までニュージーランド代表スタンドオフだったリッチー・モウンガら新加入勢の力を最適化した。

自身も持ち味を発揮。前年度12チーム中5位に終わったリーグワン1部で、開幕6連勝と好調だ。

一時低迷したことのあるクラブの一員として、かように述べる。

「ブレイブルーパスは強くなったり、弱くなったりと、いろんな経験をしてきて、自分も日本代表でやってきた。ここまできて、ただただ勝ちたいという思いが一番あって。主将になって、自分のなかでの責任感が変わってきた」

2月の第3週から、リーグワンは段階的にレギュラーシーズンを再開させる。ブレイブルーパスは24日、東京・秩父宮ラグビー場で昨季3位の横浜キヤノンイーグルスとぶつかる。

取材・文●向風見也(ラグビーライター)

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