老けたくないなら「肉」を食え!?…東大医学部卒の医師が「健康至上主義は老ける」と断言するワケ

健康にこだわりすぎた結果、血圧や血糖値、コレステロールの数値は優等生でも、実年齢以上に“見た目が老けている人”も少なくありません。そんななか、『60代からの見た目の壁』(株式会社エクスナレッジ)の著者で医師の和田秀樹氏は「65歳を過ぎたら“健康至上主義”は捨てるべき」と断言します。いったいなぜなのか、詳しくみていきましょう。

健康至上主義は老ける

数値にこだわりすぎると、見た目年齢が上がることも珍しくありません。私自身もそんな患者さんを診ることがあります。血圧や血糖値、コレステロールの数値がどんなに優等生でも、70歳ぐらいで見た目がショボショボになっている人が少なくありません。

他の本でも書いていますが、私は65歳を過ぎたら、「健康至上主義」と決別したほうがよいといっています。その理由は、私が今まで接してきた高齢者でいうと、見た目年齢が若い人のほとんどが血圧やコレステロールがやや高めだったからです。

健康至上主義の人たちには、野菜が体によいという信仰があるようです。最近は、若い人の間でもベジタリアン(菜食主義者)やヴィーガン(動物性食品を一切口にしない完全菜食主義)が流行っているそうです。

しかし、動物性食品を摂らずに、十分なたんぱく質を摂ることは、生半可なやり方では到底できることではありません。

とくにヴィーガンを実践している人たちは、顔がシワシワになるなど、見た目が老けて見える人が多いといわれています。これなどは、動物性食品を避ける一方、たんぱく質が圧倒的に不足しているからでしょう。

菜食主義という思想に傾倒しているなら別ですが、少なくとも見た目年齢を若くしたいという人は、肉食を避けるべきではありません。

たんぱく質が足りないとシワが増える

たんぱく質は筋肉や皮膚などの材料になりますから、減った分を毎日補わなければなりません。

その目安は体重1㎏あたり1gのたんぱく質とされています。体重60㎏の人なら、1日60gのたんぱく質が必要ということです。さらに高齢になるとたんぱく質が吸収されにくくなるので、1gでは足りないという説もあります。

肉は100gで20gくらいのたんぱく質を含んでいるといわれていますから、肉だけでたんぱく質を摂るなら、1日に300gの肉ということになります。

もちろん、他の食材からもたんぱく質は摂れますが、摂らなければならないたんぱく質量というのは意外に多いのです。

たんぱく質が不足すると、シワができやすくなります。皮膚にシワが目立っている高齢者に対し、私がどんな食事をしているか尋ねると、ほとんどの人はたんぱく質が不足しています。

美容の専門家に聞くと、シワだけでなく、ツヤのない肌や髪、爪にできる縦すじなどは、たんぱく質不足のサインだといいます。たんぱく質は生命維持に多く関わっている部位が優先的に使われるので、肌や髪、爪は後回しにされるのだそうです。逆にいうと、肌や髪、爪はたんぱく質不足の影響が早く現れる部位なのです。

たんぱく質が不足するとうつになりやすい

見た目年齢が若い人は、血圧やコレステロールがやや高めといいましたが、逆に、うつ気分が続いている高齢者の数値は正常だったりします。この理由にも、たんぱく質不足が関わっています。

人間の精神状態を安定的に保つために必要なのが、セロトニンという脳神経伝達物質です。セロトニンは一般に「幸せホルモン」と呼ばれているので、知っている人がいるかもしれません。

セロトニンが正常に分泌されていると、意欲が高まる一方、不安が弱まるので、意欲的に毎日を過ごすことができます。

ところがセロトニンの分泌は、年齢とともに少しずつ減少する傾向があります。ですから、本来は年齢が上がるほどセロトニンを増やすための生活習慣を心がけないといけないのに、たんぱく質の足りない食生活はその真逆を行っているのです。

セロトニンはトリプトファンというアミノ酸を材料としてつくられます。たんぱく質は、何種類ものアミノ酸によって構成されていて、体内で分解されて、体をつくる材料になるのですが、その1つがトリプトファン。そしてトリプトファンは、肉や魚、乳製品や豆などのたんぱく質に含まれています。

つまり肉などからたんぱく質をしっかり食べる食生活にすれば、セロトニンがたくさんつくられるようになるので、うつな気分も吹っ飛び、意欲的な生活が送れるようになるというわけです。

たんぱく質が足りないと、シワなどのリアルな見た目も老けると同時に、意欲が低下して、うつな気分になるので、表情も老けて見えるようになると思います。

たんぱく質を摂らないと歩けなくなる

見た目が若いか老けているかを決めるのは、顔だけではありません。たとえば、歩き方がヨタヨタしている老人は、若くは見えませんね。

若い頃のようにスタスタ歩けなくなる原因の1つは、歩く習慣が少なくなること。いわゆる運動不足によって高齢者は歩けなくなります。

コロナ禍の3年間、「高齢者は外に出るな」と言われ、それに素直に従った高齢者は筋力低下で歩けなくなってしまいました。

では運動の習慣、といっても歩くだけでよいのですが、それを始めるだけで、筋力は回復するのでしょうか。残念ながらそれだけでは回復しません。

何が必要かというと、筋肉の材料を摂ることです。筋肉の材料はたんぱく質ですから、この栄養素が不足しがちだと、普段から歩いていても、だんだん足腰の筋力は低下していきます。

筋力低下が進むと、歩くのも大変になりますから、コロナ禍のように家に閉じこもりがちになります。

そうすると、ますます筋力低下が進みます。悪循環が進むわけです。そして筋肉が著しく低下すると、寝たきりになってしまいます。

寝たきりになる前に、脳の認知機能が衰えていく人もいます。家にこもっていることで、脳への刺激が少なくなることが原因です。

このように、歩くことは大事ですが、私は歩くために必要であれば、杖は積極的に利用するべきだと考えています。杖を使うのは恥ずかしいからといって歩くのをやめるより、杖を使いこなしてサッサと歩くほうが、かっこよく見えると思います。

杖を使いこなしながら、東京の銀座あたりをさっそうと歩いている高齢者は、とてもかっこよく見えます。また杖を使うことの利点は、転倒の予防になることです。高齢者の事故で多いのは転倒による骨折ですから、その不安がある人は杖を積極的に使用するべきだと思います。

でもせっかく杖を使うなら、おしゃれなものを選びましょう。いわゆる「ステッキ」と呼ばれるような杖です。

ヨーロッパの高齢者は、おしゃれなステッキをつきながら、かっこよく散歩しています。こういう道具にはお金をかけてよいと思います。

和田 秀樹
医師

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