アシックスとミズノが圧倒…スポーツブランド5社の明暗を分けた、投資家が注目したポイントとは?

ちょうど1年ほど前、この連載でスポーツブランド5社(アシックス、ゴールドウィン、デサント、ヨネックス、ミズノ)の業績が好調で株価も堅調だという記事を書きました。その株価の動向を確認したら、驚くほどに勝ち組と負け組が、はっきり分かれていました。

画像:TradingViewより

1年前と比べてアシックスとミズノは80%以上、上昇しているにもかかわらず、ほか3社はマイナスという悲惨な状況。同じスポーツブランドでも、何を買うかで投資成績は大きく変わってしまう結果となっています。

株価の推移をみると、2023年5月あたりから少しずつ勝ち組、負け組の騰落率が乖離し、その後8月あたりからきっぱり分かれた感じがします。ちょうど決算発表時期ですね。

アシックスは12月決算で、ほか4社は3月決算です。となると、5月に発表された24年3月期の新年度予想にヒントがあるかもしれません。


23年5月に発表された各社の予想

まずは、3月決算のゴールドウィン、デサント、ヨネックス、ミズノが23年5月に発表した2024年度3月期の予想を見てみましょう。

●ゴールドウィン

①売上高123,000(百万円)②前年比+6.9%、③営業利益22,600(百万円)、④前年比3.2%増

●デサント

①売上高127,000(百万円)②前年比+5.3%、③営業利益8,500(百万円)、④前年比9.1%増

●ヨネックス

①売上高116,000(百万円)②前年比+8.4%、③営業利益10,700(百万円)、④前年比6.3%増

●ミズノ

①売上高225,000(百万円)②前年比+6.1%、③営業利益15,000(百万円)、④前年比15.9%増

ここで気づくのは、売上の増収率は各社それほど大きな違いはないものの、営業利益の伸びは、ミズノが突出しています。

ちなみに22年度3月期と23年3月期を比較すると、営業利益の増減率は、

ゴールドウィン:32.7%増

デサント:51.7%増

ヨネックス:49.3%増

ミズノ:31.1%増

全社二桁の大幅増益で、これが22年の各社株価を押し上げたのは納得です。そこからの24年3月期予想ですから、一桁台の損益率はかなり物足りない。唯一、ミズノだけは、31.1%から15.9%と増益幅は減少しているものの、二桁増益を維持しています。この損益率の変化が、5月の株価に影響を与えたと考えられます。

12月決算のアシックスについては、5月に2023年12月期の第1四半期決算が発表されていますので、そちらを見てみます。

画像:アシックス「2023年12月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)

①売上高152,297(百万円)②前年比+44.6%、③営業利益22,120(百万円)、④前年比119.9%増。なんと営業利益はほぼ2倍の伸びとなりました。ちなみに通期予想では、営業利益は前年比で③8.8%の伸びの予想ですので、第1四半期が想定以上に好調であることが分かります。

アフターコロナでスポーツイベントが再開されるようになり、各社とも大きく凹んだところからジャンプアップで業績を回復しましたが、その後、勢いが鈍化すると投資家はつれない態度になることが分かります。2023年5月の決算シーズンが5社の株価の行末をすでに暗示していたようです。

営業利益に大きな差

次にはっきりと明暗を分けた8月の決算をみてみます。

●ゴールドウィン

①売上高23,150(百万円)②前年比+9.7%、③営業利益2,263(百万円)、④前年比-0.1%減

●デサント

①売上高27,162(百万円)②前年比+2.8%、③営業利益1,951(百万円)、④前年比-22.9%減

●ヨネックス

①売上高27,992(百万円)②前年比+18.1%、③営業利益2,774(百万円)、④前年比-18.9%減

●ミズノ

①売上高57,176(百万円)②前年比+23.8%、③営業利益5,344(百万円)、④前年比40.8%増

驚きの数字です。4社とも売上は増収ですが、営業利益に関しては、ミズノが40.8%増という驚きの損益率にたいして、ほか3社は減益に転落。デサント、ヨネックスに関しては、二桁の大幅減益です。

画像:アシックス「2023年12月期 第2四半期決算短信〔日本基準〕(連結)

同時期に第2四半期決算を発表したアシックスはというと①売上高290,079(百万円)②前年比+28.9%、③営業利益33,610(百万円)、④前年比75.4%増。こちらは文句なしの好決算。

大幅増益を発表したミズノとアシックスは翌日に株価が急騰。ほか3社は下落し、ぱっきりと勝ち組と負け組の株価が分かれました。最後に直近発表された各社の決算を確認します。

●ゴールドウィン

①売上高94,832(百万円)②前年比+9.3%、③営業利益19,189(百万円)、④前年比5%増

●デサント

①売上高90,100(百万円)②前年比+4.6%、③営業利益6,434(百万円)、④前年比-11.9%減

●ヨネックス

①売上高85,172(百万円)②前年比+7%、③営業利益8,204(百万円)、④前年比-11.9%減

●ミズノ

①売上高168,046(百万円)②前年比+14.0%、③営業利益13,738(百万円)、④前年比35.3%増

第3四半期まで来た段階でも、大逆転は起きておらず、ミズノの圧倒的な強さが際立ちます。ほか3社が営業利益率を悪化させているのに反して、ミズノは営業利益率を大きく改善していることも株価の反応をよくしている原因でしょう。ミズノは第3四半期決算の発表翌日、株価は16.2%上昇しています。

画像:アシックス「2023年12月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

では、2023年12月期が着地したアシックスの直近決算はどうかというと、①売上高570,463(百万円)②前年比+17.7%、③営業利益54,215(百万円)、④前年比59.4%増と立派な数字です。じつはアシックスは、この1年で2度の上方修正を行っており、なおかつ着地の数字は予想を上回るものでした。

気になる新年度2024年12月期の予想は?

画像:アシックス「2023年12月期 決算短信〔日本基準〕(連結)

①売上高590,000(百万円)②前年比+7.0%、③営業利益10,700百万円)、④前年比6.3%増

前年の伸び率と比べると損益率が一桁ですので物足りない印象です。ここまでのセオリー通りならば、株価は下落すると予想されますが、なんと翌日は14.6%上昇しています。一見、腑に落ちない結果ですが、営業利益率を見ると、前期は9.50%、今期は9.83%と改善しています。また同時に増配を発表したのも株価押し上げ要因になりました。

ここで見えてくるのは、投資家は営業利益率の改善をかなり気にするということでしょう。ここのところの原材料高や円安でも利益率が改善できているのは、価格改定が受け入れられる商品を提供していることになります。5社の中でもアシックスとミズノが勝ち組になったのは、価格改定が受け入れられやすいブランド力があったからだと考えられます。

スポーツメーカーのすべてが好調に見えた1年前、営業利益率の変化に気づき、ミズノ、もしくはアシックスを選んだ投資家は大正解だったと言えます。これは、今後、同業他社から投資対象を選ぶときにも参考になるのではないでしょうか?

※本記事は投資助言や個別の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっての最終決定はご自身の判断でお願いします。

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