スポーツ協賛、積極的な企業が見据えるマーケティング面の意義 〜インテージ✕コーセー担当者対談レポート / Screens

熱量のあるエンゲージを獲得する手段として、マーケティング・ブランディング視点から注目が集まるスポーツ協賛。経済学者のフィリップ・コトラーは自身の提唱する概念「マーケティング6.0」のなかで中心テーマを「イマーシブ(没入感)」と定め、熱狂感、没入感のあるコンテンツにブランドメッセージを入れ込むことの重要性を説いている。

いま積極的にスポーツ協賛に取り組む企業は、マーケティング面においてどのような魅力と意義を見ているのか。本記事では、スポーツコンテンツを取り巻く生活者の動向を調査する株式会社インテージ 事業開発本部 PR総括・深田航志氏と、フィギュアスケートをはじめさまざまなスポーツコンテンツへ積極的な協賛を行う株式会社コーセー 宣伝部 メディア総括課 課長・千葉拓也氏の対談をレポートする。

■「企業方針の“具現者”としての支援」コーセーがスポーツ協賛に取り組む背景

インテージ 深田航志氏

深田氏:コーセー様はどのような理由からスポーツへの協賛を行われているのでしょうか。根底にある思いについて、ぜひ伺えたらと思います。

コーセー 千葉拓也氏

千葉氏:コーセーは化粧品メーカーとして、美と健康を広く推進しています。スポーツの根底にあるのもまた健康であることから、弊社の理念において高い親和性を感じており、かねてから積極的に協賛、支援を続けさせていただいています。

昨今は、商品の特徴で差別化することがだんだんと難しくなってきました。ブランドの先にある企業の好感度や認知は、消費者のみなさまが商品を選択する要素として大きな影響を及ぼしていると考えており、これらを向上させるためにもスポーツ協賛が有効だと考えています。

深田氏:コーセー様が協賛されるスポーツのうち、フィギュアスケートへのアプローチは目を見張るものがありますが、どのような背景から協賛を決められたのでしょうか。

千葉氏:フィギュアスケートは演技における美を求められ、選手のファッションやメイクも評価項目となっています。これは弊社が扱う化粧品にも直結する要素であり、協賛させていただく理由の一つとなっています。

深田氏:最近は羽生結弦さんなどスター選手の登場で女性を中心にフィギュアスケートのファンが急増していますが、こうした状況もまたブランディングにおいて重視されているところなのでしょうか。

千葉氏:現在弊社では羽生さんやプロ野球選手の大谷翔平さんらを広告キャラクターに起用していますが、これは女性ファンの方々への訴求に留まらず、「3G(Gender, Generation, Global)を越える」という企業方針に基づき、性別や年齢や国境を超えて多くのお客様へのアプローチを狙ったものです。

いまは若年層を中心に男性でもメイクやスキンケアを習慣づけている方々が増えています。あらゆるボーダーを越え、ひろくお客様として捉えるなかで、弊社のメッセージを“具現者”として発信していただくのにふさわしいと考える方々を起用させていただいています。

■継続的な協賛はブランド想起の効果高。新興競技へのいち早いコミットで裾野を広げる

左からインテージ 深田航志氏、コーセー 千葉拓也氏

深田氏:企業文化の発信という意味でも、志を同じくするスポーツへの協賛は生活者の方々に強い印象をもたらすことが、データの面でも明らかになっています。インテージが行った「スポーツスポンサー調査2023」の結果をご紹介させてください。

※2023年9月15日 ~ 22日 に 関東圏 男女15~69歳に性年代均等割付にて5,864名の有効回収を行い「スポーツ視聴に関するWEB調査」をインテージ自主で実施。

*なお2022年調査は有効回収数が6,326s、2021年調査では有効回収数5,124sでした。

この調査では、関東地区の男女6,000人を対象に「過去1〜2年に見たことのあるスポーツ」と、そのなかで想起したスポンサー企業の名前を尋ねました。

このなかで特に想起の順位が高かったところを見ていくと、いずれも長年にわたって協賛を続けている企業でした。各スポーツのファン層における協賛企業の浸透度の高さを裏付けるものと言えるでしょう。ちなみにフィギュアスケートにおいてコーセー様は、2021〜2022年の想起結果で2位という高い順位でした。

千葉氏:弊社ではフィギュアスケートへの協賛を2007年より行わせていただいており、今年(2024年)で17年となりますが、長年続けるなかで感じていたのは、認知を上げることの難しさです。

協賛におけるファン層の方々への認知度を弊社でも年1回のペースで独自に調査していますが、当初は認知度がわずか3〜4%程度という状況でした。ここから学んだのは、単にスポンサードするだけでは世の中に広まっていかないという事実です。

コーセー 千葉拓也氏

たとえば協賛するスポーツの魅力にあたる要素と親和性の高いメイクブースを作り、それをメディアで取り上げてもらうなど、それぞれのスポーツが持つ世界観や文脈に深くコミットした取り組みが必要だと考えています。

深田氏:eスポーツやエクストリーム・スポーツにおいて高い認知を得ているレッドブルのように、これからメジャーになる兆しを持つ競技にコミットし、新たなブランドファンの発掘につなげているケースも見受けられます。コーセー様でもeスポーツへの協賛に取り組まれていますね。

千葉氏:eスポーツに関して現状は単発メインですが、協賛の取り組みを始めています。こちらはフィギュアスケートのように企業姿勢に対する協賛とはまた別軸で、トップゲーマーと呼ばれる選手の方々に着目したブランドプロモーション施策から協賛へと発展した形です。

深田氏:メセナ的協賛とともに、競技人口の増加に着目したプロモーション的協賛とにも取り組まれているのですね。ダンスプロリーグ「D.LEAGUE」に対しても発足当初から協賛されていますが、この場合はどちらにあたるのでしょうか?

千葉氏:こちらもeスポーツ同様、競技人口の増加が背景にあります。小学校の保健体育で必須項目化されたことを受け、いまやダンスの競技人口は野球、サッカーに次いで全国で600万人ほどとされています。市場という面で見ると他のメジャースポーツに比べてはまだまだ小さい規模でありますが、eスポーツ同様、スター選手をプロモーションで起用することで、そのファン層の方々から認知を広げていけると考えています。

スポーツ協賛には、普段のブランドコミュニケーションでは届きにくい方々にもメッセージをお伝えできるというメリットがあります。弊社の製品には日焼け止めなど活動的なシーンでのご利用に役立つものもありますので、よりスポーツに特化したブランド展開など、新たなお客様の創造につながる流れを作れたらと考えています。

■“プロモーション手段“としてのスポーツ協賛、価値基準は「中長期的にプラスならよし」

インテージ 深田航志氏

深田氏:ここで、ブランドリフトの観点から見たスポーツ協賛の効果を資料から検証してみましょう。

1つ目は、スポーツ協賛に感じるイメージの調査結果です。

個々の協賛について親しみが増す、好感を抱くという割合は年齢層が上がるほど高くなる傾向にある一方、スポーツ協賛の取り組みに対するイメージは年齢層が若いほど高くなる傾向にあることがわかりました。

2つ目は、テレビCMとスポーツ協賛それぞれにおける企業イメージの上昇度合いを比較したものです。

中長期的な視点で見ると、テレビCMよりもスポーツ協賛のほうが男女ともにイメージが良くなっていることがわかります。

一方、性別で見ると、男性ではほぼ全ての年代でスポーツ協賛のほうがイメージの上昇が高い反面、女性はZ世代において「親しみを感じる」「応援したくなる」以外のイメージ上昇度はテレビCMのほうが高いという結果になりました。

若年層の女性向けのアプローチ手段として考えた場合、スポーツ協賛だけでなく、テレビCMも組み合わせた展開が必要とも言えそうです。この結果を見て千葉さんはどのように思われますか?

千葉氏:男女で差こそあるものの、スポーツ協賛が生活者のあらゆる層に対してまんべんなく効果を発揮するという結果には驚きました。

男性においてスポーツ協賛による企業イメージの上昇度が高いという点は、弊社が扱う化粧品に限らず、あらゆる商材に共通するところだと思います。スポーツ協賛が男性層に対してブランドリフトの効果を持つことは間違いないように思いました。

一方女性の場合、商品購入の判断軸はスペックや価格の要素が大きいと思います。とはいえこの結果を見ると、スポーツ協賛による効果も決して低いとは言えないように思います。

深田氏:スポーツ協賛はその性質上、売上に対してどのくらい貢献したか、社内に対して具体的に説明する指標を定めるのがなかなか難しいと思いますが、コーセー様ではどのような価値基準を定めていらっしゃいますか?

千葉氏:スター選手の広告キャラクター起用など、ブランドプロモーションを目的とした施策の場合は費用対効果を精査していますが、売上に直結しないスポーツ協賛の事業貢献度を正確に見るのはさらに難しいのが正直なところです。

現在、弊社のスポーツ協賛においては中間KPIを設け、最終的に中長期的なブランド売上につながっていればよしとするスタンスを取っています。弊社では純粋な社会貢献活動であるCSRにも取り組んでおり、これらと協調しながら一定の指標を持つことが必要とは考えています。

■「“真実性の担保“が真髄であり責任」選手の広告起用から考えるスポーツ協賛の意義

深田氏:スポーツ選手を広告キャラクターに起用するというお話がたびたび出てきましたが、一般的な芸能人を起用する広告に対して、スポーツ選手を起用してプロモーションを行う際、特に注意されているところはありますか?

千葉氏:一般の芸能人は文字通り芸を生業とする人々ですから、あらゆる発露は演技やパフォーマンスという軸で見られます。一方、日々試合で戦うスポーツ選手に対して「演技をしている」という見方をする人はほとんどいないでしょう。すべてにおいて本気の勝負で臨んでいると思うはずです。このポイントを忘れてはいけないと思っています。

世の中の人々がその選手に対して抱いているイメージから離れたことをやってはいけない。スポーツ選手を起用したプロモーションは、おのずと「真実性」の担保が責任になってくると考えています。

深田氏:貴重な視座を示していただき、ありがとうございます。最後にあらためて、スポーツ協賛において重要視すること、今後に向けた展望を伺えれば幸いです。

千葉氏:スポーツ協賛においては、なによりも継続性が重要と考えています。現在弊社がスポンサードするスポーツが継続していくことが、我々はもちろん、スポンサードするチームや団体にとっても共通した目標であると思います。

もっともそのためには、弊社としても原資となる事業の安定が欠かせません。スポーツ協賛が本来の事業に対してプラスとなる具体的な仕組み作りには、これまで以上に意識的に取り組んでいかなければならないと思っています。

深田氏:継続性と効果の両輪で見ていくことが重要ですね。

千葉氏:単にロゴを露出させるだけの「協賛」がまだまだ多いと思います。冒頭にも述べましたが、もはやロゴを出すだけで売れるという時代ではありません。現在、弊社はスポンサードだけでなく、「D.LEAGUE」のプロダンスチーム「KOSÉ 8ROCKS」の運営にも参加するなど、スポーツそのものを盛り上げていくプレーヤーとしての立場も担っています。

継続のためには、それを支える熱量が何よりも欠かせません。プロモーションの場としてのみ見るのではなく、チームやスポーツを愛するファンのみなさんに向けて、熱狂度を上げていく仕掛けづくりに打ち込んでいくことが、トータルで見て大きなエンゲージの創出につながると信じています。

【関連記事】企業がスポーツ協賛に感じる“効果”とは? インテージ×JT担当者対談

© 株式会社TVer