日本で育まれる地域社会や伝統の理解につなげる――「SB'24東京・丸の内」特別企画「土着の知 Local Techniques Japan」開催中

サステナブル・ブランド ジャパンを運営する博展が主催する展覧会「土着の知 Local Techniques Japan」が、東京・丸の内のGOOD DESIGN Marunouchiで開かれている。2月21・22日開催の「サステナブル・ブランド国際会議2024東京・丸の内」に合わせた特別企画で、地域に根差している伝統技術や自然資源などを活用し、新しい視点やデザインを取り入れ、地域振興などにつなげている18件の事例を展示。全国各地から集めた事例を並べて見ることで、日本で育まれる地域社会や伝統の理解につなげていく。

「土着の知 Local Techniques Japan」は、地域の課題を解決し循環型社会に寄与する、その土地に根差した、その地域ならではの手仕事を紹介している。例えば展示されている事例のひとつ、「黒染めによるリウェア」は、100年以上黒染めを事業としてきた京都紋付(京都市)が、汚れてしまった衣料やアパレルの在庫品を黒く染め直してアップサイクルするサービスだ。

同社は、日本の和装の中でも伝統的な正装である黒紋付だけを染め続けてきた会社であり、深みのある黒を出すために、染職人が何度も下染めを繰り返して色を重ね、さらに染料の温度を微妙に変化させながら、「究極の黒」を完成させているという。こうした伝統技術を生かして、汚れて着られなくなった服や在庫過剰で廃棄するしかない服を、黒く染めることによって蘇らせることに成功している。

竹を活用した高野竹工の事例(左)と組子細工を用いた村山木工の事例
会場初日の様子

他にも、廃棄漁網をたわしに加工・販売したり、天然の木と漆でサーフボードを作るなど、さまざまな取り組みが紹介されているが、すべての事例に共通するキーワードが「マネタイズ」だ。伝統技術をそのまま継承するのではなく、社会課題に結び付け解決することで、さらなる価値を生み出している。それが地域産業振興や雇用機会創出につながり、地域を潤しているのだ。

日本にはこんなに魅力的なものがある

地域が活性化すれば、その地域は“強く”なっていく。本展は、環境省が促進している「LIBRARY」(気候変動地域強靭化 LLA・NbS事例収集発信事業)と連動する内容でもある。「LIBRARY」は、地域資源や伝統技術を活用し日本各地で成功した産業振興の事例を、主に発展途上国に向けて英語で発信しているウェブサイトだ。「気候変動に対し強靭な地域社会を実現すること」を目指した、気候変動対策の「適応」につながることが期待されている。

展示されている18事例のうち11事例が「LIBRARY」でも取り上げられる

「LIBRARY」の業務担当者であり、本展のアートディレクションを担当した博展の鈴木亮介氏は、「廃棄されるものが再び資源として活用され産業になっている。日本にはこんなに魅力的なものがある、ということを改めて知って欲しい」と話す。鈴木氏は本展開催のため、プランナーの渡邉歩氏と共に、インターネットで情報収集したり物産展などにも足を運んで100の事例を集めた。「技術的な発展」や「デザインのアップデート」をポイントに、最終的に18の事例に絞った。

越前和紙の技術と廃棄野菜でつくった紙文具「Food Paper」などを、写真を撮りながら熱心に展示を見ていた二人連れの女性は、「手仕事というと、古いものというイメージがあったが、私たち若い世代にも合うようアップサイクルされていて、いいなと思った」「私は特別支援学級の担当教諭で、子どもたちと手すき和紙などの手仕事は相性がいいと思っていた。子どもたちに見せる機会があれば」などと話した。

廃瓦の再生と循環に挑みたい

瓦には色のバリエーションがこれほどある(写真は展示の一部)

会場で大きなポイントとなるのが「廃瓦」だ。ディスプレイの棚に黒い廃瓦がはめ込まれ、事例製品を載せる天板には廃瓦を砕いて作ったプロダクトを敷いた。ベージュや赤茶色などがあり、全国から集められたその瓦の色のバリエーションに驚かされる。

もともと瓦は土でできており、各地の土質によって色が違うという。博展のデザイナー福地航大氏は、「実家が瓦を扱っているので、廃瓦の再生と循環に挑みたいと思った」という。瓦は不燃ごみ扱いで埋め立て処理しかできないが、2040年にはごみを埋め立てるための最終処分場がいっぱいになってしまうという問題がある。「瓦から新しいものが生まれないか」と空間自体がひとつの事例となるよう考え、デザインに取り入れた。

手仕事を体験する宿を運営する地域文化商社の事例(体験で作られた染物)
広葉樹の個性を生かした飛騨の森でクマは踊るの事例(左)と堤淺吉漆店の漆のサーフボード

福地氏自身も本展をきっかけに、新しい活用方法を調べる中で、瓦は多孔質で湿気や臭い取りにもなる効果があると分かったという。さらに瓦を砕いて環境負荷のないものを混ぜれば、新しいプロダクトになる可能性がある。「瓦は震災に弱く重いので、生産量は減っている。生産が縮小してかつ、捨てられていることを考えると『延命』させることがひとつのサステナビリティなのではないかと考えた」。

しかし、現時点で自社の技術だけでは、瓦を資源とした新たな循環の方法は見つかっていない。福地氏は、「続けることが大切なので、展示で終わらせずこの場を通して、瓦の可能性が見つかったり、協創するパートナーが見つかったりするといい」と次のステップに期待している。

鈴木氏は「今回の展示で、廃棄前に命を吹き込んだという点では有益なアクションだと考えている。具体的な方法は今後考えていきたい」という。また「今回の展示を2週間で終わらせるのはもったいないので、場所を変えて発信していきたい。興味のある人がつながると、もっと魅力的な事例が生まれていくと思う。今回瓦を取り上げたが、課題のある資源があれば、ぜひ挑戦していきたい」と意欲的だ。

【参加特典】Activation Hub in 「SB国際会議2024東京・丸の内」 パス引換券

白い線は手のひらを向けた人の手。上の青い渦は「人の手仕事」から生まれたエネルギーを表している

Activation Hub は、同時開催の「SB国際会議2024東京・丸の内」内にあるネットワーキング・交流エリアです。協賛企業や後援団体の展示やセミナーが実施されており、サステナブルに関連のある企業や団体と交流していただけます。

2月21日、22日に本展覧会にお越しいただいた方には特別に、2月22日(木)13:00から18:45の時間帯でこちらのActivation Hubへご入場いただけるパスの引換券をプレゼントします。ぜひ会場受付でお声がけください。

【開催概要】
会 期:2024年2月17日(土)~29日(木) 11:00-20:00
会 場:GOOD DESIGN Marunouchi(東京都千代田区丸の内3-4-1 新国際ビル1F)
   https://marunouchi.g-mark.org/
入場料:無料
主 催:サステナブル・ブランド ジャパン(株式会社 博展)
協 力:公益財団法人日本デザイン振興会
プロデュース・企画デザイン・制作:HAKUTEN

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