「貧しくなった日本」から復活する道筋は?…「株価上昇」と「高いリターンの維持」が豊かな生活につながる【株式ストラテジストが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

日本の1人あたりGDPはG7(主要7カ国)で最下位となり、いまや日本人の多くが「貧しい」と感じるような状況になっています。本記事では、みずほ証券チーフ株式ストラテジストの菊地正俊氏が、著書『低PBR株の逆襲』(日本実業出版社)から、日本の現状と投資の必要性、投資文化が定着していくかの見込みについて解説します。

米国の1人当たり金融所得は日本の約2倍と大差に

岸田政権の積極的な賃上げ促進策が奏功して、2023年の春闘賃上げ率は3.99%と、30年ぶりの高水準になりましたが、これは定期昇給も込みの賃上げ率であるうえ、物価上昇も続いたため、実質賃金は2023年8月まで17カ月連続で前年割れとなりました。

一方、株価上昇によって、プライム市場の平均配当利回りは2%強まで下がりましたが、高配当利回り銘柄で構成することで、まだ4%程度の利回りが得られるポートフォリオの構成は可能です。

TOPIXも企業の増益率並みの年率8%程度の上昇は見込めます。つまり、勤労所得だけに頼るのではなく、お金に働いてもらえば豊かな生活を送ることが可能だということです。

2023年3月末に日本の家計金融資産は2043兆円と過去最高になりましたが、米国の家計金融資産は114兆ドル(1.5京円)と日本の7倍以上です。米国の人口は日本の約3倍なので、米国の1人当たり金融所得は日本の約2倍ということになります。

2000〜2022年に日本の家計金融資産が1.4倍にしか増えなかったのに対して、米国の家計金融資産は3.2倍に増えました。日本の家計金融資産に占める株式・投信比率が15%にとどまる一方、米国の同比率は4割強に達するうえ、米国株のほうが日本株より値上がり率が大きかったためです。

米国では株主のリターンを上げない経営者は辞任を迫られます。一方、日本には株主から預かった資本のコストを意識せず、株価が下がっても気にしない経営者が多くいました。

円安基調が続いているのは、日米の金融政策の違いだけでなく、富裕層を中心に静かなキャピタルフライトが起きているからともいえます。

2024年に新NISAが始まっても、米国株のパッシブファンドに個人投資家資金が流れるだけとの見方もありますが、いまこそ、資本コストと株価を意識した経営を普及させて、国策として、日本株を上げて、日本を再度豊かな国にする必要があります。

日本では資産運用に保守的な高齢世帯が増えているので、株式・投信比率を米国家計並みに引き上げるのは無理でも、欧州並みの約3割にはしたいものです。若者世代はリスク資産への投資にも前向きなので、高齢者に偏った金融資産の世代交代が進めば、日本でも株式・投信比率がもっと高まるでしょう。

株価が上がれば豊かさを感じられるようになる

米国ではアップルの時価総額が約400兆円で、ブラックロックの運用資産が約1400兆円である一方、日本ではトヨタ自動車の時価総額が45兆円で、野村HDのインベストメント・マネジメント部門の運用資産が76兆円です。

米国では企業の時価総額が大きくなり、運用会社の資産規模や個人投資家の金融資産が増加し、個人消費が強くなるという好循環が起きました。

一方、日本では貯蓄がゼロという世帯も2〜3割あるため、NISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)などの投資促進プログラムを拡大すると、野党から金持ち優遇との批判が出がちです。

しかし、富裕層や高所得者層の足を引っ張っても、自分が豊かになれないのは自明です。

老後資金が2000万円不足するとの問題が論争になったのは2019年でしたが、経営者の株式市場への意識が変わったり、日本企業の競争力が改善して株価が上がったりすれば、公的年金の運用利回りが高まり、国民皆が豊かさをより感じられます。

早稲田大学の野口悠紀雄名誉教授は2023年9月14日に

「日本の1人当たりGDPは2012年に米国とほぼ同水準だったが、現在は約3分の1になった。2000年にはG7諸国中で最上位だったが、今は最下位を争っている。この状況が続けば日本は世界から取り残されてしまう」

とツイートしました。インバウンドで訪日外客数が増えることは地方経済にとっても望ましいものの、外国人旅行客が日本に来て安く感じるのは、日本が貧しくなったことの間接的な証拠です。

若い世代は将来のための積立が重要である一方、高齢者になれば、貯蓄・投資の残高維持と取り崩しのバランスが重要となりますが、いずれにとっても、高い投資リターンの維持が豊かな生活につながります。

NISAを通じて投資文化が定着することに期待

金融庁によると、2023年6月末時点のNISA総口座数は3月末比68万増の1941万口座でした。コロナ禍の始まった2019年末と比べると、NISA総口座数は578万口座も増えました。とくに、20〜30歳代のNISA口座数が240万口座→541万口座と2倍以上に増えました。

内訳を見ると、50歳代以上は一般NISAの口座数の方が多い一方、20〜40歳代はつみたてNISA口座数の方が多く、若者世代に長期積立の慣習が広がりつつあることを示唆します。

2014年に始まった一般NISAは年間投資枠が120万円、2018年に始まったつみたてNISAは同40万円なので、累計買付額は一般NISAが29兆円と、つみたてNISAによる累計買付額3.6兆円を大きく上回ります。

商品別買付額は投信19.3兆円、上場株式12.5兆円、ETF7936億円でした。20〜30歳代は総NISA口座数の28%を占めるものの、投資金額が小さいつみたてNISA中心であるうえ、投資余力も小さいので、累計買付額は5.5兆円と全体の17%を占めるに過ぎませんでした。

しかし、今後10〜20年経ち、現在の若者世代が投資余力の高まる中年世代に到達すれば、株式・投信への投資額が増えるでしょう。民間給与所得者の平均年収は443万円なので、合計360万円のNISA投資枠を使い切れる人は少なく、株式市場へ流入する資金の増加額は限定的でしょうが、中長期的な株式・投信への投資文化の定着が評価されます。

金融庁はNISAを通じて買われた株式や投信を公表していませんが、ネット証券のデータによると、株式ではNTT、JT、三菱UFJFGなどの大型の高配当利回り株、株式投信では米国株パッシブ投信への投資が多くなっています。日本企業に資本コストと株価を意識した経営が定着するとすれば、NISAを通じて、低PBRの日本株やバリュー型の日本株投信への投資も検討に値するでしょう。

菊地正俊
みずほ証券エクイティ調査部チーフ株式ストラテジスト

※本記事は『低PBR株の逆襲』(日本実業出版社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

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