『ブギウギ』ライバルで友人で同志なスズ子とりつ子 氾濫するゴシップ報道への警鐘も

「ブギで勝負したい」と宣言するスズ子(趣里)のリクエストを、羽鳥(草彅剛)は二つ返事で引き受けた。『ブギウギ』(NHK総合)第100話は、りつ子(菊地凛子)とスズ子の対談の後日譚。愛子(小野美音)にかかりきりのスズ子のもとに強力な援軍が到着した。

芸能記者の鮫島(みのすけ)が仕組んだブギの女王とブルースの女王の対談は、愛子が泣き出したことで中途で終了した。りつ子はスズ子と愛子のことが頭から離れない。さらなるコメントを引き出そうとする鮫島に、りつ子は「消えなさい」と冷ややかに告げた。

「僕らが消えて困るのはあんたらだけどね。僕らがわざわざ話題にするから、あんたも福来スズ子だってスターでいられるんだ」

持ちつ持たれつだと、もっともらしいことを口にする鮫島。こう言えばりつ子が少しは動揺すると思ったのかもしれない。りつ子は毅然と「人気がほしくて歌ってるわけじゃない。たった一人でも一生忘れられない歌聞かせてあげるわ」と言い返し、鮫島を退散させた。

人気歌手を焚きつけて雑誌を売ってやろうという目論見は成功したが、そもそもりつ子にかなうわけがなかった。世界がひれ伏す“じょっぱり”なりつ子の面目躍如だった。とはいえ、今回のことでスズ子とりつ子の仲が冷え込んだのも事実。それからほどなくして、りつ子はスズ子の家を訪ねた。

りつ子の顔を見て息が止まったスズ子だったが、帰ろうとするりつ子をあわてて引き留めた。気の置けない会話で二人のわだかまりは氷解した。りつ子の「歌がまっすぐお客に届いてない」という反省の弁は、ゴシップを喜ぶ世間と面白おかしく書き立てるマスコミへの異議申し立てでもあった。

ライバルで友人で同志。歌で世の中と対峙する点で、スズ子とりつ子はまさに盟友だ。歌をこよなく愛し、戦火の時代を潜り抜けた二人の間には、二人にしかわからないものがある。感情を表に出さないりつ子だが、先輩として誰よりもスズ子の苦労を理解している。ここぞという場面で、スズ子の足元を照らしてくれたのはりつ子だった。

りつ子の表現者としての矜持、権力に立ち向かう強さ、慈愛に満ちた眼差しは唯一無二で、多面的な魅力を菊地凛子は体現してきた。ツヤ(水川あさみ)、USKの大和(蒼井優)や橘(翼和希)をはじめ印象的な女性キャストの多い『ブギウギ』だが、さまざまなエッセンスがりつ子に凝縮されていると感じる。

りつ子は「誰か助けてくれる人はいないの」とスズ子を案じる。「女が一人で仕事も子育てもなんて生半可じゃ務まらない」「連れ回しても面倒みられないんじゃ意味がない」という忠告はスズ子を思ってのこと。愛子を懸命にあやすスズ子を見て、りつ子はなんとかしなければと思ったはずだ。その思いは一つの行動を生んだ。

木野花演じる大野晶子は期待を裏切らない。登場した瞬間、人間味が画面からあふれ出した。ドラマに出てくる家政婦はなぜキャラが濃いのかという疑問はさておき、青森出身の木野を青森出身のりつ子の旧知の家政婦としてキャスティングした制作陣に拍手を送りたい。母娘二人の生活に晶子はどんな彩りを添えるだろうか。

(文=石河コウヘイ)

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