「初めて言いますが…」笠井季璃の光と影 大谷翔平のようなバレー界の先駆者へ【笠井×岡本祐子監督(旭川実高)対談③】

エースでキャプテンの笠井季璃を擁し、1月の全日本バレーボール高等学校選手権大会(春高)でベスト4入りを果たした旭川実高(北海道)。笠井と岡本祐子監督が大会を振り返った。第3回は春高でも発揮した笠井の強烈なリーダーシップについて。高みにたどり着くまでには、知られざる苦悩があった

試合で勝利し、応援団を盛り上げる#1笠井

——春高でも光った笠井選手のリーダーシップ。岡本監督はそのルーツは何だと思いますか?

岡本監督(以下、岡本) いろいろな巡り合わせがあったと思います。特にユース(2年生時のU18日本代表)でキャプテンをさせてもらったことが大きかった。こんなにキャプテンシーがあるとはほんとうに思わなかったです。

笠井 石川祐希(ミラノ〔イタリア〕)選手やほかのスポーツの一流アスリートの方々の考え方をまねをしたりしながら、試合を重ねてきた結果だと思います。

1年生のときからエースを張らせてもらい、3年生ではキャプテンとエースという二つの立場になりました。最初は両立することが難しかったですが、試合を重ねるなかで、「キャプテンとはどういうものなんだろう」と自分で見つめ直しました。そのときに、「キャプテンがダメなチームは必ず負ける」と思ったので。エースというよりは、キャプテンとして何ができるのかを考えながら日々生活していました。

岡本 いろいろなキャプテンがいると思いますが、(笠井)季璃は鼓舞するタイプ。私はどちらかというと叱るけど、それをフォローしてくれるから、すごくやりやすかったです。ただ、めっちゃマイペースなんですよね(笑) それもいい味だったと思います。

——以前、ごはんを食べるのがすごく遅いと言っていましたね

岡本 遅い、遅い!(笑)

笠井 はははは!

(マイペースの自覚は)ある…、と思います(笑) バレーではかなりキビキビ動いていると思いますが、それ以外はオフになってしまっていると思います。

岡本 やっぱり、ほかの人より牛の数が多いところの出身だから(笑) マイペースな性格がこのチームにはすごくいいふうに働いていて、何か起こっても、最後は「やるしかない」とまとめてくれていました。ストイックなのも、ほんとうに自分のペース。なかなかの大物だなと思います。

でも、そこに至るまでには孤独な部分もあったと思います。

笠井 はい、合っています(笑) 「キャプテンは強くないといけない」という思いがあって。初めて言いますが、練習前は絶対に人と話さないようにしていました。体育館に入るとみんなは1ヵ所に固まっていますが、自分だけいちばん離れたところでストレッチをして、その日のテーマを決めていました。

そして、チームメートの前では絶対に弱音を吐かないように。試合後は泣くことが多かったですが、3年生になってから練習中はこらえていました。さすが、先生はよくわかってらっしゃるなと思いました(笑)

岡本 この強さはやっぱり孤独。責任感が強いから、失敗したときのリスクも考えていたと思います。だから、「もう仕方がない」という開き直りもできるんですよね。練習でも誰よりも「いけー!」と声を出しているし、誰よりも声を出してレシーブやスパイクをしている。引退した今もですよ(笑)

試合では笑顔で仲間を鼓舞。大黒柱として強くあり続けた

——笠井選手の原動力は何でしたか?

笠井 常にバレーボールをうまくなりたいという気持ちでした。先生の「人は居心地が悪いときに成長する」という言葉が常に頭の中にありました。

試合中の自分は、もしかしたらバレーボールを楽しんでいるように見えるかもしれませんが、練習中は常に居心地が悪くて。自分はキャプテンとエースという役割があったので、プレーだけに全力を注ぐというよりは、それぞれの役割で乗り越えながらやってきました。だから、試合では楽しんで力を発揮するだけと、割りきってできたのかなと思います。

岡本 高校は最後の教育機関だと思っています。そうなると、伝えたいことがいっぱいあって。さっき季璃が言ったことや、「努力しないとダメ」ということも伝えてきました。でも、それを今わかるのがすごい。10年、20年後に「先生の言っていたことがわかりました」と言われるケースは多いですけど(笑) 季璃は自分に向き合うのが早かったね。

——改めて、笠井選手にとってどんな3年間になりましたか?

笠井 まだ人生は短いですが、これまででいちばん成長できた3年間だったと思います。バレー面はもちろんですが、人としてもかなりレベルアップすることができました。

岡本先生には中学校のころからお世話になっていて、特にこの3年間でここまで成長させていただいてほんとうに感謝しています。最後の春高は必ず全員をセンターコートに連れていきたかったので、それを達成することができてほんとうによかったです。

岡本 組織の中で生きていくには、枠にはまらないといけないときと、そこから飛び出す必要もあると思っています。季璃にはやりたいことにどんどんチャレンジして、枠にはまらないでほしい。結果がよくなかったとしても、それは全部成功だと思うし、挫折するときがきても、それを乗り越える強さがあると思っている。常に「笠井季璃」という世界のなかで生きていってほしい。

笠井 それは意識しています。人と違うことをするのが好きというか、みんなが考える真逆のことをしたくなるので。人々が思ってもいないことを達成したいです。アンダーエイジカテゴリーの世界選手権(昨年8月の第18回世界U19女子選手権大会)で世界一を達成することができなかったので、シニアで必ず世界一を取りたいです。

岡本 ワクワクしますね。ロス(28年のロサンゼルスオリンピック)、行きますか?(笑)

季璃はメジャーリーグの大谷翔平選手のようなタイプかなと思っています。高校の女子で、これだけエンターテインメント性のある選手は今まであまりいないですよね。去年の国体ぐらいからファンサービスも結構しているし、バレー人気をどう高めていくか、その先頭に立ってくれると思います。

笠井 今は男子の人気が高いので、女子もそれを上回るぐらいの人気を出せたらと思います!

プレー、そしてパフォーマンスで見る者を魅了する選手に

笠井季璃

かさい・りり/身長175㎝/最高到達点306㎝/別海中央中(北海道)/アウトサイドヒッター

2022年度はU18日本代表、23年度はU19日本代表に選ばれた世代屈指のエース。V1女子のトヨタ車体クインシーズに内定し、2月10日のプレステージ・インターナショナルアランマーレ戦で早速デビュー

岡本祐子

おかもと・ゆうこ/旭川実高→早稲田大

早稲田大卒業後は東洋紡、栗山米菓でプレー。旭川実高のコーチを経て、2010年に監督就任

取材/田中風太(編集部)

写真/中川和泉(NBP)、山田壮司

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