【ハンドボール】ピヴォットはクレバーに攻撃仕切る | ポジション解説 | JHL名鑑vol.6

JHLで活躍するピヴォットの選手。左から川上勝太、森淳、永田美香、初見実椰子、佐原奈生子(いずれも久保写す)

ハンドボールの各ポジションの役割、求められる資質について、日本リーグ(JHL)でプレーする選手(プレー経験のある選手も含みます)のプレースタイルとともに紹介します。第6回はピヴォットです。ポストとも呼ばれるポジションで、相手のDFのなかに1人だけ混じって、攻撃を手助けします。ボールを持たずに動き続ける難しいポジションなので、強さだけでなくハンドボールIQが求められます。(Pen&Sportsコラムニスト・久保弘毅

【勝ちの位置を取る】酒井翔一朗

ピヴォットがDFよりもいい位置を取ることを「勝ちの位置」と言います。「がめる」という言い方もあります。いい位置取りとは、先回りしてDFをブロックする(スクリーンをかける)動きのことです。あとから来てぐりぐり押したり、突き飛ばしたりすると、オフェンシブファウル(ブロッキング)になります。

 岡本竜生(トヨタ車体)は力強いスクリーンプレーが持ち味の、攻撃型ピヴォットです。フィジカルの強い大型ピヴォットが揃うトヨタ車体のなかでも、得点力は一番です。酒井翔一朗(トヨタ紡織九州)も強い体で勝ちの位置を取るのが得意技。最初はわざと体を丸めて、DFとの接点を減らすあたりがなかなかクレバーです。女子では兼子樹(アランマーレ)が急激に強くなりました。桐蔭横浜大学時代の「走れるけど細すぎて、得点力は皆無に等しい」イメージから大きく成長し、今ではライン際で強さを発揮しています。7mスローを獲得したり、相手を退場に追いやったりと、ライン際での支配力が増しています。

【片手キャッチできる】グレイ クレア フランシス

力強い位置取りからの片手キャッチはピヴォットの見せ場。わかりにくい動きが多いポジションですが、この片手キャッチはだれが見てもわかりやすいし、会場が盛り上がります。

橋本明雄(ジークスター東京)はセンターの東江雄斗が落とすトリッキーなパスにも難なく対応。バックパスなどビックリしそうなパスでも片手で捕球して、得点に結びつけます。オーストラリア人の父を持つグレイ クレア フランシス(オムロン)は、筋肉質な体と片手キャッチで、ライン際を制圧します。伸び盛りのタイミングに韓国代表の名センター・李美京と組んだことで、2対2の理解度が上がりました。出場時間は多くありませんが、渡辺樹(三重バイオレットアイリス)も女子では数少ない、片手キャッチができるピヴォットです。エリア内へのバウンドパスを捕って、そのまま押し込む姿をもっと見たいですね。

【スクリーンで味方を打たせる】永田美香

位置取りが上手いピヴォットは、自分で点を取るだけではありません。スクリーンプレー(ブロック)でスペースを作って、味方に気持ちよく打たせる術も心得ています。

ディエゴ・マルティン(豊田合成)は力強いポストシュートだけでなく、味方にスペースを作るのも上手です。本人は先発で出たくて仕方ないのですが、流れのなかでの修正力が高いため、田中茂監督はベンチに残しておきたいようです。OFもDFも立て直してくれるディエゴの存在は、とてもありがたいです。永田美香(北國銀行)は片手キャッチで空中を制圧するだけでなく、スクリーンプレーも年々上達しています。ロングシュートを打たせたいポイントにさりげなく入ったり、2枚目の牽制が高く出た横にスクリーンをかけて、左腕エースの中山佳穂を助けたりと、記録に残らない部分でも貢献度します。攻守にゲームを支配できるピヴォットです。

【裏を走りスペースへ移動】川上勝太

DFが積極的に仕掛けると、必ず裏のスペースが空いてきます。裏の空間へ瞬時に移動するのが、機動力系ピヴォットの最大の見せ場。小柄でもスペースの嗅覚に優れた選手がそろっています。

川上勝太(安芸高田ワクナガ)はワクナガらしい「セットOFをわかっている」ピヴォット。位置取りで勝てる強さだけでなく、DFの裏を上手に利用できます。その気になれば1試合で10点も取れますが、「死に役」になって味方の点数を伸ばすことを第一に考えます。中西麻由香(イズミ)は小さくても得点の嗅覚が抜群です。チーム全体でピヴォットへのパスを練習してきた年明け以降は、中西も得点を大幅に伸ばしています。角森彩(飛騨高山ブラックブルズ岐阜)はちょこまかと動き回るピヴォット。がっつり2対2をやるタイプではありませんが、スペースを走ってノーマークになります。

【スライドでスペース作る】初見実椰子

ピヴォットがボールに集まりすぎると、バックプレーヤーの動けるスペースが狭くなります。だからボールからスッと離れて、スペースを作る動きが重要になります。本能に反する動きですが、いいピヴォットはこの難しい動きをサラリとやってのけます。

3月末で引退する小室大地(ジークスター東京)は屈強な見た目に反して、スライドプレーが上手なピヴォットでした。足はそんなに速くないけど、飛び出しのタイミングがいいので、速攻で点を取るのが得意だったり、見た目とのギャップに味があります。初見実椰子(三重バイオレットアイリス)もスライドが上手なピヴォット。ソニー時代は初見がスライドして、できたスペースに北ノ薗遼が切れ込むのが定番でした。三重では横田希歩との相性がいいようで、スライドでDFを引き連れて、横田のカットインを手助けしています。 

【展開力あり】森淳

ピヴォットにパスが通ったら、シュートで終わるのがほとんどです。でも気の利くピヴォットなら、DFが2枚寄ってきたところでノーマークの味方にパスを出し、より確実に点が取れる方法を選択します。 

森淳(大崎電気)はがめる動きもできるし、スライドもできる、ピヴォットの完成形とも言えるベテランです。高確率で決めるだけでなく、近年はDFが寄ったらライトウイングにパスを展開するプレーにも自信を持っています。ちなみに森がDJを務める「Monday night OSOL」(発するFM https://fm840.com/ )でも、ゲストとのトークを上手に展開しています。笠井千香子(ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング)は元々がセンターだったため、他のピヴォットよりも視野が広いのが特徴です。ライン際のうまさにプラスして、展開力でチャンスをさらに広げます。

【速攻で走れる】佐原奈生子

3枚目を守る大型ピヴォットが速攻で走ってくれると、楽に点が取れます。攻撃回数を増やしたいチームには、大きくて走れるピヴォットが欠かせません。

身長2mの玉川裕康(ジークスター東京)は、長身でも速攻の先頭を走ります。以前は速攻でドカーンとGKにぶつけるシーンもありましたが、最近は細かいフェイクも覚えて、タイミングに幅が出てきました。岡松成剛(トヨタ紡織九州)も走れるピヴォット。重さの酒井翔一朗とうまくすみ分けができています。女子では佐原奈生子(北國銀行)が、永田美香とともに走れる大型ピヴォットの代表格。特に対ヨーロッパになると、佐原の脚力は際立ちます。宇野史織(オムロン)は守れて走れるので、宇野を3枚目に入れておくと攻守の切り替えがスムーズになります。メンバー構成上レフトウイングに入った時も、しれっといいサイドシュートを放ちます。

【細かい動きで勝つ】菅野純平

サイズが足りないピヴォットは、力任せでは勝てません。相手のスキを見逃さない眼と丁寧さで、シュートチャンスを作り出します。ひと手間を惜しまないから、チームメートからも信頼されるのでしょう。

菅野純平(トヨタ車体)は守備型の選手ですが、最近は離れ際の動きがとても強くなりました。ライン際でしっかりとDFを押し込んでから、スッと離れてノーマークを作ります。以前は真面目なDFの人でしたが、攻守に強さが増し、今季から始めたちょんまげでキャラも立ってきました。高木裕美子(アランマーレ)は、細かい動きで勝負するピヴォット。細かいところで気が利くし、小さくてもライン際の争いに負けません。佐藤那有(HC名古屋)はチーム待望の純正のピヴォット。父・佐藤壮一郎さん(大同大学監督)と同じポジションで、理にかなった動きをします。やかましさは父親に遠く及びませんが、攻撃のいいアクセントになっています。

【体を張れる】市原宗弥

ライン際での人柱になってくれる選手がいると、とても助かります。たとえ技術が足りなくても、体を張る姿勢があれば、いずれはチームの背骨になるでしょう。ライン際で押し負けない強さは、天性の才能です。

香川壮次郎(大崎電気)はピヴォットの5番手ぐらいからスタートして、時間をかけて主力に成長しました。器用なタイプではありませんが、香川がいてくれないとチームのバランスが崩れてしまいます。市原宗弥(豊田合成)は豪華メンバーに囲まれながら、日々成長中。ライン際の粘り強さがあるので、見た目以上に実戦的です。佐藤光(ゴールデンウルヴス福岡)はウルヴスの人柱。上位勢との肉弾戦に対抗できる、数少ない肉体派です。女子では安藤かよこ(イズミ)がパワフルです。戦術理解を深めて、特にOFでの出番を取り戻したいところです。立石恋菜(香川銀行)は恵まれた体を武器に、1年目からポジションをつかみました。ピヴォットを絡めて相手を崩したい亀井好弘監督の戦術にもフィットしています。

【DF型】上田遥歌

「ピヴォットは3枚目のDFができるのが大前提」と考える指導者も多いようです。サイズのある選手が攻守にチームの真ん中にいてくれると、試合運びが落ち着きます。得点力には多少目をつぶってでも、守備型のピヴォットを入れておいた方が、トータルでプラスになる場合もあります。

 山田信也(トヨタ車体)は、笠原謙哉(ホルドゥル / アイスランド)が抜けたあとから、トヨタ車体のDFリーダーになりました。自ら率先して体を張り、強度の高いDFラインをよくまとめています。田代翔真(大同特殊鋼)はHONDAから移籍後に、バックプレーヤーからピヴォットに転向しました。まだまだ攻守に勉強中ですが、まずはDFでチームをまとめられるようになってくれたら。内藤佑哉(アースフレンズBM)はトップDFでの動きがいい選手。トップDFからピヴォットだと走行距離が短くなるので、速攻で点を取りやすくなります。

女子のDF型の代表格は福井亜由美(オムロン)。「DFのオムロン」の伝統を受け継ぐ、リーグ有数のディフェンダーです。上田遥歌(大阪ラヴィッツ)はラヴィッツの命綱。平田ほのかとの3枚目コンビが倒れたら、DFが崩れてしまいます。代えの利かない、チームにとっては絶対的な存在です。

【OFに特化】落田駿兵

コートの縦40mを走るのは苦手でも、ライン際に置いておけば、いい仕事をしてくれる選手もいます。セットOFだけ出てくるピヴォットは、攻守交替での難しさもありますが、上手に使えば攻撃のいいオプションになります。

落田駿兵(福井永平寺ブルーサンダー)は日本リーグで一番重い116㎏の体で、ライン際のくさびになります。なだれ込むようなシュートで、得点と2分間退場をセットで奪えるため、相手のDFを崩したい時は落田にボールを集めるのが定番です。楳木武士(トヨタ自動車東日本)はヒザのケガで走るのは難しいですが、ライン際では年々力強さを増しています。女子のOF特化型ピヴォットには「ドンちゃん」こと佐伯綾香(三重バイオレットアイリス)がいます。ナチュラルに強い体といい声で、チームの攻撃に火をつけます。 

【ノーポストから攻める】藤村勇希

ピヴォットがライン際から浮いて、いわゆるノーポストで攻めるパターンもあります。誰がどこから切ってくるかわからないから、短時間ならDFも守りにくいでしょう。特に立体的なDFの場合、このノーポストの戦術がうまくはまります。

藤村勇希(トヨタ自動車東日本)は元々がライトバック。屈強な体を買われて、ピヴォットに転向しました。相川浩一ストレングスコーチの指導で、格闘家のような体を手に入れた今は、上位勢との身体接触に負けないだけの強さを誇っています。カットインも強烈で、少し浮いた位置からDFを引きずりながらゴールに突進します。ノーポストの戦術がはまるピヴォットは、今のところ藤村しかいません。大学では国士館大学の女子で佐々木思和がいるくらい。もっとノーポストで仕掛けるチームと選手が増えてもいいと思うのですが。

【オールラウンダー】佐藤立盛

本職じゃなくても、サイズがあって戦術理解に優れた選手は、ピヴォットで機能します。応急処置ではありますが、こういうオールラウンダーがいてくれると、長丁場のリーグ戦では重宝します。

佐藤立盛(トヨタ自動車東日本)はどこでもこなせるセンスの持ち主。スピード型で、3枚目を守るような身体接触はやや苦手と、ピヴォット向きではなさそうですが、やれと言われたら無難にこなします。とにかく勘のいい選手で、空いたポジションに入る「8番目の選手」で機能しています。佐藤陸(ゴールデンウルヴス福岡)はバックプレーヤーも兼ねる大型選手。佐藤光がいない時間帯にはピヴォットに入り、サイズと強さで貢献します。

 以上がピヴォットの資質です。これでコートプレーヤー(CP)は終わり。ラストはいよいよGKです。

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