〔アングル〕TSMCの熊本工場、日本の半導体復活へ弾み 24日に開所式

Miho Uranaka Sam Nussey

[東京 22日 ロイター] - 半導体受託生産世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は24日、熊本県菊陽町に建設してきた第1工場の開所式を開く。巨額の補助金を投じた日本政府は半導体立国の復活へ弾みをつけたい考えで、地元九州の経済が沸く中、新工場は本格稼働に向けて動き出す。

TSMCの第1工場は、総投資額約1兆円で、このうち日本政府が最大4760億円を支援する。敷地面積は、東京ドーム4.5個分に当たる約21.3万平方メートル。回路の線幅が12―16ナノ(ナノは10億分の1)メートルと22―28ナノの演算を行う汎用型ロジック半導体を月間5.5万枚(12インチ換算)生産する計画。

TSMCは2021年11月に、新工場建設を正式に発表。22年4月に着工してから急ピッチで建設を進め、通常3年かかると言われるところ2年たらずで竣工した。年内に量産開始を控える。TSMCが米アリゾナ州で進める400億ドルの工場の生産開始が度々延期されてきたのとは対照的だ。

斎藤健経産相は22日の閣議後会見で、熊本県を始めとする地元自治体の協力、日本のサプライチェーンの厚み、人材の質といった要素などが強みとなった、との考えを示した上で、こうした点が評価されたことがTSMCによる「第2工場の建設発表につながった」と述べた。

かつて世界シェア50%以上を有した日本の半導体産業は、現在10%程度まで凋落したが、世界の半導体供給網の再編の中で、日本政府が産業の復興をかけたTSMCの誘致に成功し、古くから「シリコンアイランド」と呼ばれた九州を中心に再び集積が進み始めている。

日本のテクノロジー産業を長く見ているマッコーリー・キャピタル証券のダミアン・トン調査部長は、「TSMCの日本工場建設は、日本の半導体業界の様々な業種から支持を集めた」との見方を示し、「雪だるま式に業界のモメンタムを加速した」と指摘する。

ソニーグループは熊本県内で2カ所目となる工場を新設、半導体ウエハー大手SUMCOは2250億円を投じ佐賀県内に工場を新設する。「TSMCのプロジェクトがけん引する形で多くの半導体関連企業の国内での新たな投資に繋がった」(斎藤経産相)という。

ソニーGやデンソーが出資する工場の運営会社ジャパン・アドバンスト・セミコンダクター・マニュファクチャリング(JASM)は今月第2工場の発表を行い、トヨタ自動車も出資を表明している。当初JASMでは1700人が働く予定で、台湾からは300人が来日するとされる。

九州では、TSMCの生産を支える関連企業の進出も相次ぐ。製造装置を納めるフィネステクノロジー、 は自社工場を建設中で、受託材料分析サービスのマテリアル・アナリシス・テクノロジーは新研究所を開設。これに伴い外国人労働者の数も急増している。

熊本労働局によると、23年の県内の事業所で働く外国人の数(10月末時点)は1万8226人で前の年よりも25.5%増えた。台湾出身者は744人で前年から約5倍となった。大半が菊陽町を中心とする地域で、TSMCの熊本進出の影響が大きいという。

人や物が集まる中で、半導体産業以外の企業の期待も大きい。九州旅客鉄道(JR九州)は、TSMCの進出を移動需要や消費の増加が期待されるとして成長機会としてとらえる。利用増を見込み菊陽町に新駅建設を決めた。一方で、JR九州の広報担当者は、技術系を中心に人材確保がより一層難しくなるリスクや地価の高騰等も想定されるとしている。

九州経済調査協会は、2021年から30年にかけて、大規模な設備投資を含めた九州での半導体関連設備投資は6兆円を超え、九州地域における10年間の経済波及効果は20.1兆円と試算。電気機械、建設、飲食や旅行等のサービスを中心に広がると分析する。

同協会の河村奏瑛・研究員は、最大の課題は人材だとし、海外の技術者が来日することで必要性が増す中国語を話せる人材などが、自動車学校や空港等ですでに不足していると指摘する。TSMCやソニーなど大手は別とした上で、地場の企業で人材確保が出来るかどうかによって想定している数字が目減りする可能性があるとの見方を示した。

(浦中美穂、Sam Nussey 編集:宮崎亜巳)

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