社説:インドネシア 民主化の後退許されぬ

 四半世紀の民主化の歩みを前に進めることを期待したい。

 インドネシア大統領選で、人気の高いジョコ政権の継承を掲げるプラボウォ国防相が勝利を宣言した。開票結果は3月に確定し、10月に新政権が発足する。

 プラボウォ氏は陸軍出身で、1998年まで約30年間、独裁体制を敷いた故スハルト元大統領の側近だった人物である。民主活動家の誘拐など、人権侵害に関わったことも指摘されている。

 世界4位の人口を抱えるインドネシアは、東南アジア諸国連合(ASEAN)をリードする。ジョコ大統領のもとで経済成長を続け、2045年の「先進国入り」を目標に掲げている。

 プラボウォ氏も民主的なルールを後退させてはならない。過去に疑問を持つ国民への説明責任も求められよう。

 プラボウォ氏はスハルト氏の失脚後に軍籍を剥奪され、亡命から帰国後、政界入りした。ジョコ氏とも2度の大統領選で競った。

 今回の選挙では、ジョコ氏の長男を副大統領候補にするなど、事実上の「ジョコ後継」を打ち出す戦略に出た。

 過去の負の側面を封印し、「庶民派」をアピールしたことなどが奏功し、若年層の支持を集めたが、独裁政権時代を知る世代の不信感は高まったとも指摘される。

 2期10年を務めるジョコ氏は高い支持率を誇り、首都移転や高速鉄道などの整備を進めた。その一方で、汚職捜査機関の権限を弱めたり、政府批判に対する取り締まりを強化し、批判を招いている。

 プラボウォ氏が副大統領候補に指名したジョコ氏の長男は規定の年齢に達していなかったが、ジョコ氏の義弟が長官を務める憲法裁判所は出馬を認めた。スハルト時代に腐敗の原因となった縁故主義が再び台頭する恐れが拭えない。

 東南アジア各国で政権の権威主義色が強まっているのが気にかかる。ミャンマーやタイの軍事クーデターをはじめ、市民的自由を抑圧する動きが目立つ。民主主義が経済成長をもたらしたことを忘れてはなるまい。

 インドネシアは大国に寄りかからない外交を続けてきた。グローバルサウスの中核として存在感を強める。プラボウォ氏は国際社会での重責も自覚してほしい。

 日本は太平洋戦争時にインドネシアを支配下に置いたが、戦後は良好な関係を築いてきた。民主化と東南アジア地域の安定を支援する取り組みをさらに進めたい。

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