社説:児童虐待死 なぜ防げなかったのか

 なぜ幼い命を救えなかったのか。後を絶たぬ悲劇を食い止めるための検証と対策が不可欠だ。

 4歳だった次女を不凍液と抗精神病薬を摂取させて殺害した疑いで、東京都台東区に住む両親が逮捕された。父親は容疑を否認し、母親は黙秘を続けている。日常的なネグレクト(育児放棄)があったともされ、関連や動機の解明が求められる。

 この家族には次女誕生前から、都児童相談センターなどが長男と長女への心理的虐待の情報を受けて支援に入っていた。精神的に不安定な母親を「養育困難」とみて、家庭訪問や電話連絡を重ね、子ども3人を一時保護したこともあったという。

 なのに、最悪の結果を防げなかった。次女は約3年半の間に6カ所の保育園や託児室の転園を繰り返した。2022年秋には通っていた保育所が2カ月間で5回、顔や腕にたんこぶやひっかき傷があると報告していたが、都は虐待でないと判断していた。

 預け先を転々として行政の介入を免れようとした可能性も指摘されており、虐待の恐れや一時保護について、慎重に見極める必要があったのではないか。児相や区の対応をつぶさに洗い出したい。

 こども家庭庁によると、虐待で亡くなった子どもの数(心中を除く)は21年度で50人。児相などが問題視していた家庭でありながら、子どもが虐待死する事案が絶えない。

 青森県八戸市では、5歳女児に浴室で水を浴びせて放置したとして、母親と交際相手の男性が先週に逮捕された。警察などから2度の通告があったにもかかわらず、児相は1回の面接で指導を終えていた。県などは第三者による検証に取り組むという。

 虐待の対応は複雑で難しい。児相の判断ミスや関係機関との連携不足が指摘されるたびに、機能や体制は見直されてきた。

 通報の増加もあり、全国の児相が子どもの虐待について受けた相談は、22年度に約21万9千件と過去最多にのぼった。児相の現場は業務が逼迫(ひっぱく)している。

 国は対応に当たる児童福祉司の増員を進めるが、経験の浅い職員も多く、資質の向上や待遇改善も含めた抜本的な体制の強化が欠かせない。

 新型コロナウイルス禍では家庭以外の居場所が減り、社会とのつながりが途絶えがちだった。親子が孤立しないよう、社会全体で見守る安全網を紡ぎたい。

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