『相棒』右京に挑む若い才能たち 中川翼&吉田日向は大きく成長していく俳優になる

誰にでも人より得意なこと、ずっとやっていても飽きないことがひとつはあることだろう。右京(水谷豊)はとにかく頭を使うことが好きだったようで、小学生に入った頃からチェスをはじめ、本や音楽、落語などを“友達”として嗜みながら知的好奇心を満たしてきたそう。それが巡り巡って今の仕事に繋がっているのだろう。『相棒 season22』(テレビ朝日系)第17話は、「自分の得意なことはどんなことに使うのがいいのか?」そんなことを考えさせられた。

五期連続で市長を務め、次期都知事の最有力候補と目される山田征志郎(升毅)の自宅に爆弾が届けられた。差出人の欄には、一方に右京の名前、もう一方に“INVISIBLE”という意味ありげな英単語が。幸い、市長宅で怪我人は出なかったものの爆弾によって火災が発生。警視庁はテロ事件として捜査を始める。

いっぽう、自分が事件に関わるように仕向けられていると感じた右京は、亀山(寺脇康文)と共に独自の捜査を開始。征志郎から事情を聞くが、私怨で狙われる覚えはないとの証言しか得られなかった。そんな中、警備会社に勤める男性が、宅配業者に届けられた爆弾で重傷を負う、第二の事件が発生。この被害者は元警察官で、征志郎の息子が所長を務める城北中央署に勤務していた。手口も同じで、被害者にうっすらとした関係性も見えはじめたが、荷物を配達した本城(吉田日向)と名乗る若い男の正体を警察は掴めずにいた。

捜査の途中、右京は街角で山田(中川翼)という顔見知りの少年と遭遇。山田は、右京が「チェスのライバル」と評するIQ150の天才で、右京は近々ある大会での再戦を楽しみにしていた。しかし山田はバイトが忙しく、最近はチェスをしていないよう。それでも「必ずリベンジさせてください、近いうちに」と意味ありげな言葉を残してその場を去っていった。

この事件の大きな鍵を握る山田と本城を演じているのは、中川翼と吉田日向。長年の空気感で息のあった演技を見せる右京や亀山、伊丹(川原和久)らとは異なり、この2人は爽やかでありながら、怪しさと危うさを含んだ行動をする青少年を好演している。中川は松坂桃李、菅田将暉、趣里らと同じ事務所に所属する18歳。2021年に『青のSP―学校内警察・嶋田隆平―』(カンテレ・フジテレビ系)で連続ドラマに初めてレギュラー出演し、同じ年には映画『光を追いかけて』で映画初主演も果たしている中川は、今、まさに波に乗ろうとしている若手俳優である。

吉田はかつて、米津玄師プロデュースのユニット「Foorin」で「ひゅうが」として活動しており、ダンスや歌が幅広い世代に知られている曲「パプリカ」でメインボーカルを務めていた。「Foorin」を卒業後は俳優としての活動を本格化させ、初主演を務めたドラマ『月食の夜は』(NHK総合)での演技は、第28回アジアテレビジョンアワードの「青少年主人公の部」日本で唯一ノミネートされるなど、注目が高まっている。

シリーズが長く続いている『相棒』では、子役や若手時代に出演し、後々、人気俳優となった人も多い。例えば、『season1』に登場していたのが当時10歳で子役だった染谷将太。小学校教師がボウガンで胸を刺されて死亡したこの事件で、染谷は事件の一部始終を目撃した小学生として登場。特命係の追及に対して物怖じせず、ふてぶてしく受け答えしている姿は強く印象に残るものであり、今でもたびたび、ファンの間で話題になっている。

染谷はその後も、着実にキャリアを積み重ね、大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK総合)の織田信長役や『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)の“福ちゃん”こと福田俊介役でその演技力が高く評価されている。おそらく中川や吉田も染谷のように大きく成長していく俳優となるだろう。後半に続くふたりの演技からも目が離せない。

山田とばったりと会った時はニコニコして、未来の知的な交流を楽しみにしていた様子の右京。だが、次に城北中央署で山田に会った時には、一際驚いた表情を見せたのが印象的だった。右京は、頭の良さを活かしながら趣味を楽しんでいたが、山田は右京に出会ったことで、自分の才能を右京からの関心を得るために使うようになってしまった。ひとりの友人として、そして正義を大切にするひとりの大人としてこんなに悲しいことはないのではないだろうか。爆破事件の全貌も、本城がこれからしでかそうとすることも、なぜ山田がこんなことをしようとしたのかもまだわからない。次回は、解決編。右京と亀山がどのように事件を解決し、山田に何を伝えるのかに注目していきたい。

(文=久保田ひかる)

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