登里享平が感じるC大阪のリーグ制覇への“空気”。優勝請負人として語る悲願成就へのポイント【インタビュー後編】

川崎一筋15年を貫いてきた登里享平が、2024年シーズンへ向けて選んだのが、C大阪への移籍だった。驚きの決断の背景にはどんな想いがあったのか。そして新天地での決意とは。リーグ開幕前に胸の内を明かしてくれたスペシャルインタビューの後編をお届けする。

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15年所属した川崎を離れての挑戦。だらこそ、登里の新天地での決意は熱い。

「やっぱりクラブ設立30周年で優勝したいという想いが強いです。僕が積み上げてきた15年は、他のクラブの人からしたら、自分が思っている以上に貴重なものだとセレッソに来て感じていて、それをセレッソに還元し、優勝に貢献できたら、これ以上嬉しいことはありません。

実際に加わってみて、練習やピッチ外も含めて雰囲気はすごく良いですし、上の選手がしっかり引っ張って、下の選手もすごく向上心がある。良い環境だなと。

リーグ優勝を一度できれば、絶対にその後が続いていくクラブだと思うんです。改めて来て良かったと感じていますし、優勝してからより『良かった』と言いたい。自分にプレッシャーをかけながら、周囲の成長を促していければ良いですね」

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川崎でも2016年まではシルバーコレクターと揶揄され、悔しさを何度も味わってきた。だが、2017年にリーグ初優勝を手にすると、2度の連覇を果たすなど4度の王者に輝いた。C大阪はルヴァンカップ、天皇杯の優勝経験はあるが、悲願のリーグ制覇を成し遂げれば、クラブとして新たな領域に立てるのだろう。

「リーグを制するには本当に細部までこだわらなくてはいけない。でもフロンターレと同じではなく、セレッソにはセレッソの良さがある。そこを大切にしながら、シーズンを通して良い時も悪い時もあるので、どう振る舞うか、そこを気にしながらやっていきたいですね。

要所を締めると言いますか、試合のなかでも、ここを逃したらダメだとか、ポイントってあるじゃないですか。そうした一瞬のプレー、ここを切らないといけないなど、チームをコントロールできるくらいにやっていきたいです。

でもそれをするには日頃の周囲との信頼関係、信頼できる人、選手でなければダメですよね。僕はセレッソでは説得力の部分でまだまだ足りないと思います。そこはしっかり積み上げていきたいです。

ただ僕はシルバーコレクターと言われた悔しい経験もしてきたので、少なからず良し悪しの空気感、雰囲気は分かっているつもりです。そういうところにアンテナを張りながら上手くチームを良い方向に導いていきたいですね」

まさに勝ち方を知る伝道者である。そして、さすがと言うべきなのはチームに溶け込む早さであった。

「めっちゃ意識しました、この年齢で自分が気を使っていたらおかしいと、カラ元気ではないですが、こんな感じの人なんやと知ってもらうようにどんどん話しかけていきましたね」

そんな話題が出ると、これだけは伝えたかったのだろう、横でインタビューを聞いていたクラブ関係者もこう明かしてくれた。

「登里選手が入ってガラっと空気は変わりました。チームは以前から賑やかは賑やかでしたが、登里選手は今までにいない空気感を持った人。あっという間に溶け込まれたなと。そしてその求心力ですよね。

それこそ先日、コーチが誕生日を迎え、コーチ陣で写真を撮る時に、率先して『僕が撮りますよ』とすぐ前に出て、自分に向けてシャッターを切ったりと、おどけてみせてくれた。するとチームもバーッと盛り上がって、あそこまでの渦はなかなか見ないので、さすがだと思いました」

まさにムードメーカーの真骨頂である。

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一方、プレー面では、近年の川崎で見せていた姿とは異なる部分も意識しているという。

「今まではチーム最優先で考えてきた部分もありましたが、こっちに来て自分をもっと出しても良いんじゃないかと感じました。

上手くチームを回すなど自分が来た意味を考えつつ、貪欲に物事を考えられれば、両面を出していけるはずなんです。だから自分にフォーカスしながらチームのことも考える。自然体でいければなと思います」

我をよりさらけ出す。その意味で、かつてアタッカーだった血をC大阪では思い出しつつあるようだ。

「バランスも大事ですが、やっぱり上がる回数だとか、ここぞという時の攻撃への関わり方はもっと行って良いんじゃないかと。移籍してきて、自分を知ってもらう、アピールしないといけない立場でのスタートなので、そこは意識しています。するとまた違う自分も見えてきたりするんですよね。

キャンプではGPSなどを使ってデータを取りますが、トップスピードの数値を見たら、ここ数年ではなかった記録が出ていた。小菊(昭雄)さん(監督)も驚きながら喜んでくれて、新たな自分が開花してきているような気持ちです。改めて進化していきたいですね」

チームに順応するには、「アンダー世代で一緒だった」清武弘嗣の存在も大きかった。4-3-3を基本布陣とする小菊監督のサッカーにも楽しさを覚えているという。

「一番心配だったのは馴染んでいけるかというところでしたが、キヨくん(清武)が助けてくれました。それにキヨくんや、(香川)真司くんらと一緒にやるのはやっぱり面白いですよ。多くのことを考え、周りや相手を見ている人たちなので、プレーしやすいですし、ふたりの動きを見て、どうポジションを取るかも大切です。川崎と感覚は似ていますね。

(左サイドの前に)カピ(カピシャーバ)がいるのも、川崎時代のマルシーニョとのコンビに似ていて、縦への速さもチームのストロング。そこをどう生かすか、どう関わるかをしっかり考えていきたい。

小菊さんも、強烈な選手たちの個性や、技術の高い選手たちのクオリティを大事にされていて、やはりボールを持って主導権を握るチームですし、ハマれば相当強力だと思います。なおかつこれまでも見せていたような良い守備からのカウンターもプラスできれば、優勝できるチームだと信じています。

イメージの共有はできていますし、どこかで歯車がズレることもあるかもしれないですが、しっかり話し合える空気があり、輪に入っていく選手が多い点も良いなと感じています。みんながすごくサッカーのことを考え、成功体験を積み重ねられれば、『この取り組みで良いんだ』と、それがきっと正解になっていくはず。

しかもセレッソにはチームのために動ける選手が多い。それは来る前から感じていましたが、チームのために走れる選手が多いクラブは絶対に強い。優勝への空気感はあると思います」

そして改めて悲願へのポイントを口にする。

「自分たちのサッカーを貫き通すうえでも連敗しないこと。そして一試合が終われば勝とうが負けようが切り替える。次の試合は待ってくれない。一喜一憂している場合ではなく、日付が変わればしっかり次の試合にフォーカスする。引きずらないのが何より大事です。

選手の動揺は連鎖します。だからこそ落ち着いている姿を見せることも大切で、伝染しないように。フロンターレでは副キャプテンを務めてさせてもらい、その意識も強くなりました」

川崎で酸いも甘いも噛み分けた33歳は、今度は新たなユニホームを身に纏い、クラブとして一度しか経験できない“あの瞬間”を迎えるために全力で走る。

「プレーに関しては、内と外の使い分けであったり、今まで通り周りを輝かせられる気の利く選手でありたいですし、なおかつ自分でも仕留めにいきたいです。そのチャレンジにはワクワクしています。

そしてとにかく優勝したい。キヨくん(清武)や(香川)真司くんらも戻ってきて、これまでクラブを長く支え続けた人たちもたくさんいる。クラブ30周年でいろんな人の積み重ねが、シャーレを掲げる瞬間につながれば最高ですよね。その光景をみんなが見たいでしょうし、僕も見たい。やっぱり初優勝を越える喜びはないですし、そうすればクラブもより動き出すはずです。

自分も優勝請負人と言いますか、結果を残せれば、それこそ移籍して良かったという価値を改めて示すことができる。だからこそ常に優勝することだけを考えてやっていきたいです」

数えきれない涙と、覚悟。その想いが昇華する瞬間を待ち望んで。これぞ“ノボリ”と呼べる満面の笑みに期待したい。

■プロフィール
のぼりざと・きょうへい/1990年11月13日生まれ、大阪府出身。168㌢・68㌔。EXE’90FC―香川西高―川崎。J1通算280試合・9得点。周囲に柔軟に合わせるいぶし銀の左SB。

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取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)

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