これって何の動画なの? わずか2カ月で23万再生、海外からも注目 仕掛け人はロシア出身で群馬・前橋市の地域おこし協力隊だった

前橋市のPR動画の一場面

 一本の動画が話題を呼んでいる。夜中の商店街をさまよう少女、そこに現れる闇の世界のドン、銃を片手に仁王立ちするサンタクロース姿の女性、笑顔で踊る妙齢の女性たち…。予測不能な展開に少々困惑する。これは何の動画なの? その解が最後にメッセージとして浮かび上がる。「Take me with you to MAEBASHI(私を前橋に連れてって)」。この動画、前橋市をPRするミュージックビデオなのである。特に海外の人たちの目にとまり、昨年末に動画投稿サイト「YouTube」にアップしてからわずか2カ月で、既に23万回再生されている。仕掛け人は同市の地域おこし協力隊として活動するロシア人男性だ。

 パーペル・ヒョードロフ(通称パーシャ)さん(48)はロシアのハバロフスク出身。25年ほど前に来日し、大学留学を経て、テレビの仕事に就いたという。制作会社でNHKのドキュメンタリー番組のプロデューサーなどを務めていたが、2020年以降、コロナ禍で仕事が一切なくなり、新しい挑戦との思いで22年10月に前橋市の地域おこし協力隊に就任した。

 協力隊としてのパーシャさんの目標は国内外に前橋市をPRすること。その手段の一つとして、これまでの経験を生かし、動画を手がけることにした。ただし、観光地や風景、文化財を紹介するような、誰もが想像できる作品は作りたくなかったという。「前橋にはこんなにバラエティーに富んだ人たちがいることを紹介したかった」

 出演者は総勢70人。首長に代議士、ご当地アイドル、ミュージカル劇団に所属する小学生や、油絵を中心に国内外で活動する画家、移住コンシェルジュ…と、前橋市のために活躍する一人一人にパーシャさんが声をかけ、集まってくれた人たちだ。音楽は加藤登紀子さんの「百万本のバラ」をカバーしたロシア人女性歌手の楽曲を採用。シーンは目まぐるしく転換し、ストーリーは全く読めないが、なぜか引き込まれてしまう。

コメント欄には英語やロシア語が… 

 特徴的なのが、動画のコメント欄だ。英語やロシア語が大半を占める。出演者を評価するコメントが多いが、「前橋を訪れる日が待ち遠しい」とか、「前橋に行くのが楽しみ」とか、「前橋が日本の首都になるべきだ」とか…そんなメッセージも散見される。

 なぜこれほどまでに話題を呼んだのか。「海外の人たちは元々、日本への関心が高い。その上で、予測不能な動画があれば、今、前橋で何が起こっているのか、行ってみたいとなる」と、パーシャさん。「期待しながら来ても、前橋には何もない」という批判的なコメントも耳に入ってくるが、「『こんな素晴らしい人たちがいるんだから会いに来て』というPRの仕方だっていいのでは」と言う。

 今回は出演者も制作側も全てボランティアだった。そのため、プロデューサー目線で見れば、もう少し工夫したい部分やアレンジしたい箇所もある。良いものが撮りたいという思いもある。

 今年の年末にかけて、新作を手がける予定だ。「地元の企業がPRとしてスポンサーになってくれたらうれしい。そして、出演者は市民の投票で決めるとか、年末の紅白歌合戦のようなお祭り的な要素のあるプロジェクトにしていきたい」。それがさらなるPRにつながる。パーシャさんはそんな思いを抱いている。

動画を手がけた前橋市の地域おこし協力隊でロシア出身のパーシャさん
動画に寄せられた視聴者のコメント

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