新NISA「めんどくさい」は正解! 荻原博子氏、森永卓郎氏、楠木建氏ら経済専門家が手を出さない理由

左から荻原博子氏、森永卓郎氏、楠木建氏

「みんなにいいさ! NISAがいいさ!!」

日経平均株価が34年ぶりの高値圏となり、盛り上がりに拍車がかかっている「新NISA」。日本証券業協会が冒頭のように呼びかけるほどに、1月に制度が始まるやいなや、日本中を挙げてのお祭り騒ぎとなっている。

いまや “やらなければ損” という風潮の新NISAとは、どういった仕組みなのか。

「通常の投資では、儲かった額に対して約20%の税金がかかりますが、NISAを利用して投資すると、儲かった額が丸々手取りになります」

と話すのは、経済ジャーナリストの荻原博子氏(69)だ。

「さらに、今回始まった『新NISA』では、『つみたて投資枠』が年120万円、『成長投資枠』が年240万円と従来の2~3倍に拡充され、非課税となる期間も無期限となっています」

2022年9月、岸田文雄首相はニューヨークで講演し、「老後のための長期的な資産形成のため、NISAの恒久化は必須だ」とぶち上げている。新NISAに乗り遅れてしまった写写丸世代は、今からでも始めるべきなのか。

■無責任な数字で煽る金融庁は “罪” だ(経済評論家、ジャーナリスト・荻原博子氏)

「いえ、やめるべきです。たしかに、新NISAは株価が上がったときは非課税の恩恵を受けられます。しかし、今は株価が右肩上がりでも、この先、確実に株価が上がっていく保証はまったくありません。それなのに、下がったときはなんの手当てもないのです」(荻原氏)

NISAは通常の投資と違い、納税する際に損失と利益を相殺して税金を減らすことができる「損益通算」や「繰越控除」はできないのだ。

金融庁は、ホームページで子育て世代にNISAの活用を推奨しているほか、毎月5万円、年間60万円を積み立てた場合、10年間で98万7000円の運用収益が出るというグラフを掲載している(想定利回りを3%で計算)。

このシミュレーションを見れば、初心者は “必ず儲かる” という錯覚を起こすだろう。

「こんな無責任な数字を出して、金融庁は罪だなと思います。投資は怖いもので、絶対なんてありません。なのに、国と金融機関が投資の “博打感” を覆い隠し、国民を駆り立てているようにしか見えません。国民に払う年金を抑えたい国が、『自分の老後は自分でやって』と、切り捨てようとしているのでしょう」

荻原氏が警鐘を鳴らすのは、これまでに多数、「投資信託はこりごりだ」と嘆く人たちを見てきたからだ。

「2000年に『ノムラ日本株戦略ファンド』という投資信託を野村證券が売り出し、退職金を注ぎ込んだ方がたくさんいました。ところが売り出した直後にITバブルが崩壊し、6割以上も暴落。値を戻すまでに20年近くかかりました。投資信託は、値上がりも値下がりもするということを理解しておくべきです」

■将来に備えたお金を投資に回すのは厳禁(獨協大学教授、経済アナリスト・森永卓郎氏)

経済アナリストの森永卓郎氏(66)も「新NISAは絶対にやってはいけない」と訴える専門家の一人だ。

「私は、新NISAを始めるのは、今ではないと考えています。投資は、相場が下落したタイミングで、 “ギャンブル” として一気に勝負をかけるべきです。老後や子育てなど、将来に備えたお金を投資に回すものではありません」

森永氏も数年前までは、株価は長期的に上昇していくと予測していたという。

「しかし、今は実力以上の株価をつけている会社が少なくありません。リーマンショック直前にも株価はバブルで、FRBも今と同様に5%超まで利上げを続けていました。その後に利下げに転じ、2%台まで下がったところでバブルが崩壊したのです。今回も、同様の事態が起きる可能性があると考えています」

森永氏は、その対処法として「債券を買うべき」と語る。

「米国債の10年債は、現在も4.3%の利回りがあります。直近の円高リスクを避けるためにも、米国債の20年債や30年債を買うべきです。ただ、債券そのものは新NISAでは買えません。そういう意味でも、いま新NISAをやる必要はないのです」

■お金が減るのはイヤ。利回り1%で十分だ(一橋大学特任教授、経営学者・楠木建氏)

一橋大学特任教授の楠木建氏(59)も、債券に投資しており、新NISAは利用していないという。

「僕の専門は競争戦略で、ある企業が競合会社よりも優位に立ち、長期的な利益を出す論理について研究しています。しかし、そんな僕でも個別株の値動きはわからない。戦争や地震、為替の変動など、競争戦略の外にあるものの影響が大きすぎるからです」

貯蓄以外の金融資産は、信託会社の担当者に運用をまかせている。

「お金のことについて考えるのがとにかく面倒なんです。僕は、年間1%でも利回りが出れば泣いて喜ぶタイプ。担当者には、とにかく低リスクで運用するようお願いしており、ポートフォリオの大半は社債になっています。だって、汗水垂らして働いて得たお金が、いきなり減ってしまうのはイヤじゃないですか。競馬を観るのは好きなのに、馬券は絶対買わないくらいケチなんです(笑)」

今のように株価が急騰している局面でも、楠木氏は焦ることはない。

「なんか儲かりそうだなとは思いますが、高リターンということは必然的に高リスクですよね。個別株はリスクが大きすぎます。損したり得したりというプロセスを、趣味として楽しめる人以外は、新NISAを使ってインデックス投資をするのはいいでしょう。いろいろな銘柄に長期分散投資し、低コストで運用していくぶんには、新NISAは合理的です。面倒なので僕はやりませんけど(笑)」

まわりの誰もが新NISAを始めているからといって、焦る必要はない。あなたが始めようとしたタイミングが、ちょうど買いどきかもしれないのだから。

写真・本誌写真部、共同通信

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