『ブギウギ』木野花の存在がもたらす安心感 晶子は時に厳しくスズ子を導く存在に?

朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)の第100話に木野花が登場した。仕事と育児の両立で多忙を極めていたタイミングでの助っ人は実に頼もしい。それも作品にいるだけで安心感をもたらす木野がスズ子の家政婦役というのだからなおさらだ。

スズ子はタナケンこと棚橋(生瀬勝久)との撮影現場にも愛子(小野美音)を連れていく日々が続いていた。現代でこそ、子連れ出勤という形態が徐々に浸透しつつあるが、スズ子が生きている昭和は、まだまだ女性が家で育てるという考え方が一般的だった。周りの大人たちの訝しげな反応を見るに、おそらく自身の職場に連れて行っていたのはスズ子くらいと言っても過言ではないだろう。

現代でもそうだが当時もまた、女性が一人で子育てをするのは並大抵のことではない。それは実際に仕事と育児の両立をしているスズ子が身にしみて分かっていることだとは思うが、育児が仕事の妨げになるようなことはできれば避けたいのが本音だろう。だが、スズ子は愛子のためを思い、これまでは仕事の現場に連れてきていた。

そこで、大野晶子(木野花)の登場である。晶子は、茨田りつ子(菊地凛子)の紹介でスズ子の家にやってきた家政婦。青森県の出身で、りつ子が幼い頃に彼女の実家で女中をしていた。木野はこれまでNHK朝ドラ『純情きらり』『どんど晴れ』『あまちゃん』でも癖のあるキャラクターを好演し、作品にアクセントを加えてきた。最近でも、『unknown』(テレビ朝日系)において駄菓子屋「うめぼし堂」の店主で“梅ばあ”の愛称で親しまれる今福梅を演じ、口の悪いおばあちゃん役で存在感を放っていた。今回木野が演じる晶子は癖のない優しいおばあちゃんという、いわば自然体な人物。だが、スズ子を力強く支えていく頼もしい家政婦だ。

これまでスズ子は多くの人に支えられてきた。スズ子の“東京のお母さん”ともいえる小村チズ(ふせえり)は、まだ何者でもなかったスズ子をオープンな心で支え、時にははっきりと口にすることもありながらも、誰に対しても愛情を注いできた。そして市川実和子演じる羽鳥麻里はスズ子の先輩として恋愛相談をしたり、家事を手伝ってくれたりと、スズ子の思いを汲み取って常に相談に乗ってくれていた。スズ子が安心して歌と向き合うことができたのはこうした周りの存在があったからだ。

いまのスズ子は子育てに手一杯で中々仕事に向き合うことができない日々が続いている。正直なところ、もう麻里には迷惑をかけられないというのが本音だろう。だが、ここにきて晶子はスズ子が全力で仕事に打ち込めるようにサポートしてくれるようだ。

木野は『連続テレビ小説 ブギウギ Part2』(NHKドラマ・ガイド)の中で、「家政婦としての枠を超えた助言は、おせっかいだけではなく相手のことを大切に思うからこそ。そんな『言わずにはいられない言葉』を、スズ子の胸に届けたいと思います」と語っていた。晶子の力強い言葉は一人で抱え込んでしまっていたスズ子の心をきっと解放してくれることだろう。これまでスズ子が子育てに奮闘する姿を見て、どうにか手助けをしたいと思わずにはいられなかったが、ようやく晶子の登場で安心して観ることができそうだ。そしてスズ子もまた何の心配もなく歌と向き合うことができる。

末期がんなど重度の医療ケアが必要な人や、在宅の望めない人を受け入れる療養病棟を舞台とした人間ドラマ『お別れホスピタル』(NHK総合)では、「死んでたまるか」が口癖の気の強いおばあさん役を演じている木野。今回、木野が演じる晶子は支えられる側ではなく、支える側としてスズ子を優しく、時に厳しく導いてくれるのではないだろうか。

(文=川崎龍也)

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