ワンちゃんにあげるお肉は「ささみ」より「豚肉」がおすすめな理由【獣医師が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

ペットへのケア方法について、西洋医学的な療法が主流となっている現代。しかし飼い主は西洋医学と東洋医学、両方の「いいとこ取り」をしていくべきだと、現役獣医師で『愛犬と20年いっしょに暮らせる本 いまから間に合うおうちケア』の著者である星野浩子氏はいいます。2つの医学を比較しながら、より効果的なワンちゃんのケア方法をみていきましょう。

東洋医学によるワンちゃんのケア「新」常識

私はおもに東洋医学を治療にとり入れていますが、西洋医学には西洋医学のいいところがあります。

たとえば、緊急の外科的手術などは西洋医学のほうが向いています。ですから、飼い主のみなさんは「いいとこ取り」でいいのではないかと思います。

しかし、東洋医学をとり入れた治療でさまざまな成果が上がるのを経験してからは、西洋医学の常識のなかに、「それはほんとうにワンちゃんのためになっているだろうか」と疑問を感じるものもあります。

よかれと思ってやっていたことが、じつはそうではないかもしれません。

東洋医学の考え方にふれると、「これまで聞いていたことと違うな」と感じる方もいるはずなので、ここでいくつか例を挙げておきましょう。東洋医学がなぜワンちゃんの健康長生きにいいかも、合わせてお伝えできればと思います。

心臓や腎臓の病気も血のめぐりが大切

年をとってきて心臓や腎臓が悪くなってくると、多くの場合、降圧剤(血圧を下げる薬)が処方されます。目的は「血圧を下げて、心臓や腎臓の負担を減らすこと」です。それが西洋医学の考え方です。

一方、東洋医学では、お灸や鍼によって「全身の血のめぐりをよくすること」をまず考えます。血のめぐりがよくなると、心臓や腎臓にかかっている負担を自然に減らすことができます。

また、血が順調に栄養を運ぶので、それらの臓器自体も元気になってきます。

長くなっている高齢期を元気に過ごすには、血のめぐりをよくすることがもっとも近道で、同時にもっとも効果的です。

鍼灸で気血がめぐると食欲も戻る

腎臓の病気は高齢のワンちゃんに非常に多い病気です。

腎臓が悪くなると、ワンちゃんはとてもつらいので、なかなかごはんを食べません。

食べないと体力がなくなるので、飼い主さんはなんとか食べてほしいと、あれこれ工夫して一生懸命になって食べさせようとします。それでも食べなければ、点滴で栄養や水分を入れることになります。

こういった腎臓病との闘いは、ワンちゃんにとっても、飼い主さんにとっても、ほんとうに大変です。

でも、そうしたワンちゃんでも鍼灸をすると、気血がめぐりはじめて、食欲が戻ることがよくあります。

飼い主さんにとって、ワンちゃんが病気になったとき、ごはんが食べられるようになるのは希望そのものです。

ごはんが食べられれば、内臓が動きはじめます。栄養が体内に行きわたって、起き上がる力も出てきます。起き上がって動ければ、ぼんやりしていた頭も働きはじめます。排泄ができれば、体内の余分な水分や悪いものは外に出ていきます。

こうして、食欲が戻ったことをきっかけに、体全体が元気になるワンちゃんを私はたくさん診てきました。

どこかがよくなれば、連鎖的に全体がよくなるのが東洋医学です。

高齢になってもタンパク質はしっかりとる

ワンちゃんが高齢になってくると、「できるだけ低タンパクのフードを選ぶように」「手づくりごはんの肉や魚などのタンパク質を減らすように」といわれています。

年齢とともにしだいに機能がおとろえる「腎臓に負担をかけないため」です。西洋医学では、まだ機能している部分にできるだけ負担をかけないようにするために、タンパク質を減らすことがよいとされるのです。

でも、タンパク質は筋肉、骨、血液をつくるうえで欠かせない栄養素です。タンパク質が不足すると、筋肉が落ちて、体力も落ちてきてしまいます。

東洋医学では、残っている部分にむしろ栄養を与えて元気にして、しっかりした体をつくり、体力を維持しようとします。

最近は、人間も「高齢者はもっとタンパク質をとりましょう。そうでないと、筋肉量が減って、体力や抵抗力が落ちてしまいますよ」といわれていますね。

高齢のワンちゃんについても、それと同じことがいえます。

ですから、私はそれぞれのワンちゃんに合わせて、必要量のタンパク質をしっかりとるようにアドバイスをしています。そのほうが長い高齢期をずっと健康的に過ごすことができます。

タンパク質源としてとくにおすすめしているのは豚肉です。

「ワンちゃんにお肉をあげるならささみ」という考え方がなんとなく定着している感があるので、意外に思われるかもしれません。でも、豚肉はエネルギーを上げて、若々しさを保つのにとてもよい食材です。

7歳でフードを切り替えるのは早すぎる

高齢になったらタンパク質を減らすという考え方は、フードの年齢分けにも反映されています。

「ドッグフードは7歳になったら高齢犬用に切り替える」とよくいわれます。

動物病院で、そのようにすすめられた飼い主さんも多いのではないでしょうか。「7歳からの高齢犬用」と書いてある製品もたくさんあります。

でも、私の経験では、遺伝や体質、すでに病気を抱えているなど、特殊な理由がない限り、フードは7歳ではまだ切り替えなくてもよいのではないかと思います。

一般的に、7歳からの高齢犬用とされているドッグフードは、タンパク質の割合が低くなっています。

でも、早くからタンパク質を減らすと、筋肉がおとろえ、脂肪ばかり増えて、太ってしまいます。あるいは、どんどん痩せてしまうこともあります。そうなると、免疫力が大きく低下してしまう心配もあります。

海外では、子犬でもシニア犬でも同じフードで、食べる量を調整するだけの商品も多くあります。

現代はワンちゃんの寿命が延びていて、高齢期が長くなっています。その長い高齢期を健康的に過ごすためには、やはり必要量のタンパク質をきちんととって、病気にならないしっかりした体をつくっておくことが大切です。

フードの切り替えは、小型犬で10歳ごろから検討すればいいと思います。

健康を維持するために何をどれだけ食べさせるか(食養生)は、おうちケアでもとても大切な部分です。

星野 浩子
ほしのどうぶつクリニック院長
獣医師/特級獣医中医師

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