【介護×相続=嫁バトル!】父の遺言書をめぐる「長男嫁vs次男嫁」すさまじき場外乱闘の末路

父の遺志に、当の実子たちは納得も…。嫁たちの「それぞれの言い分」とは

「うちは兄弟仲がいいから、遺産相続争いとは無縁」

そう思っている人は、もしかしたら考えが甘いかもしれません……。遺産相続争いは兄弟仲が良い家庭でも起こり得ます。

法務省「令和4年司法統計年報」によると、家庭裁判所で調停を受け遺産分割が成立した件数は6857件もあります。

特に親の介護を兄弟のうちどちらか一方が行った場合は要注意と言えるでしょう。介護の貢献度を巡って相続争いになることも。

今回は、AさんBさん兄弟に起こった「介護の貢献度」を巡る遺産相続争いのケースを見ていきましょう。

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実家に同居する長男Aさん・実家と疎遠な次男Bさん

疎遠になった次男に対しても、父は変わらぬ愛情を持ち続けていた

長男Aさん:地元で就職、結婚後は実家に同居

Aさんは地方で小さな工務店を営む父親のもとに、長男として生まれました。地元の大学卒業後、地元の信用金庫に就職し、同僚だったA子さんと結婚しました。

子供が生まれると同時に両親と同居し、夫婦で父母の世話をしてきました。そして3年前に母を看取ったあと、足腰が弱くなった父の介護を夫婦で協力して行っています。

次男Bさん:海外勤務を経て、東京のタワーマンション暮らし

AさんにはBさんという弟がいます。Bさんは幼いころからとても優秀で、東京の有名大学を卒業後、東京の大手金融機関でファンドマネージャーをしています。

また、妻のB子さんと結婚したのを機に、東京のベイエリアにタワーマンションを購入して住んでいます。

職業柄、海外勤務だった期間も多く、実家との関係は疎遠です。帰省も年に一度、年末年始にするくらいです。

父の遺言に、当の実子たちは納得も…。

そんなある日、父親が亡くなりました。

父親は亡くなる5年ほど前まで小さい工務店を細々と堅実に経営していたので、不動産を含め遺産は1億円程度ありました。また、父親は生前、工務店に出入する税理士のすすめもあり、公正証書遺言を作成していました。

父の遺言に書いてあったこととは?

四十九日の法要でBさん夫婦が帰省した際に、公証人役場へ遺言をとりに行くと、その遺言には「長男Aには自宅の土地と建物と預貯金4000万円を、次男Bには預貯金3000万円を遺す」と書いてありました。ちなみに、自宅の土地と建物の評価額は約3000万円。

また、遺言の最後にある付言事項には

「同居し介護をしてくれ長男Aに多くの遺産を遺したが、次男Bも大切な私の子供だということをどうかわかって欲しい。同居と介護の手間賃として長男Aに多く遺しているだけなのだ。どうか2人とも揉めずに、これからも兄弟仲よく過ごしてほしい」

という父親の愛情が感じられるメッセージが書かれていました。

この付言事項をみて、AさんとBさんは父親の想いを受け取り、遺言通りに遺産分割をしようと決めました。しかし、ここで苦言を呈したのは、次男Bさんの妻B子さんです。

遺言書をめぐる「長男嫁 vs 次男嫁」壮絶なバトル

「ちょっとこの遺言、どういうこと?」

次男嫁「そっちは住宅資金や子育てで援助を受けてきたのに、不公平!」

「なんで同じ兄弟なのに、遺産の取り分が違うの!?確かにお義兄さんたちは介護をしたかもしれない。

でもお義父さんに二世帯住宅を建てるお金も援助してもらって、子供たちの世話を頻繁にお義母さんにお願いしたこともあったはずよ。介護以上の恩恵を既に受けているんじゃない?」

それに引き換え私たち夫婦は、慣れない海外で自分たちだけで必死に子育てをしてきた。

それに今のマンションだって自分たちでローンを組んで毎年支払っている。それなのに遺産まで少なくなるなんて不公平よ!」と凄い剣幕で話し出したのです。

長男嫁「私は毎日、義父のトイレ介護までしてきたのよ」

一同が騒然となっているところ、次に口を開いたのは長男Aさんの妻A子さん。

「あなたは介護の大変さを何もわかっていない。お義父さんは最期の半年は一人で起き上がることもできなかったのよ。トイレや食事のたびに呼ばれては、起き上がらせて、トイレまで付き添う。その大変さがあなたに分かるの?」

と一歩も引きません。

遺言書を無効にして欲しいと弁護士に訴えたB子さん

B子さんは東京の自宅に戻った後、弁護士に相談して遺言を無効にしようとしました。

内容にどうしても納得がいかない上に、少ない遺産しかもらえなくても、Aさん夫婦に義理立てしている夫Bさんがどうしても許せなかったのです。

しかし、弁護士が遺言書を確認したところ、形式は有効なうえ、遺留分を侵害されているわけではないので、遺言書を無効とするのは難しいと言われてしまいました。

このトラブル以降、B子さんは一周忌などの法事には一切出席しなくなりました。また、次男BさんもB子さんへ気を遣ってか、実家へ帰省することはなくなり、兄弟仲は冷え切ってしまったのです。

遺言書を作成するだけでは生前対策として不十分だった

今回紹介したAさん・Bさん兄弟は、一般的に遺産相続争いを防ぐために有効な手段と言われる公正証書遺言があっても争いが起こりました。

では、AさんBさん兄弟が揉めないために、父親は生前何をすればよかったのでしょうか。

それはAさんBさん両夫婦がそろっている場で、父親が自らの遺言の内容について腹を割って話すということです。

父親の意思を本人の口から遺産分割案を相談という形で聞いたのと、死後に遺言書で決定事項として知らされたのでは、遺産分割の割合が少ないBさん夫婦の心象は大きく異なることでしょう。

遺産相続争いを防ぐために生前対策として遺言書を作成する方は多いです。確かに遺言書があれば、その遺言書に形式的な不備がなく、遺留分を侵害していない限り、遺言書に記載さえた通りに遺産分割を行うことができます。

しかし、遺産分割方法が決まっているからといって、遺産相続争いが起きないわけではありません。相続人は一人ひとり置かれた立場も違えば、感情があります。

その感情を無視して形式だけの生前対策を進めていけば、B子さんのように不満を爆発させる人が現れることでしょう。

遺産相続争いを防ぐための生前対策として大切なのは、何よりも「相続人たちの心をくみ取る」という行為なのだということを、忘れてはならないのかもしれませんね。

【ご参考】一覧表:公正証書遺言の作成手数料

公正証書遺言の作成手数料

遺言の目的である財産の価額別:公正証書遺言の作成手数料数料

  • 100万円以下:5000円
  • 100万円を超え200万円以下:7000円
  • 200万円を超え500万円以下:1万1000円
  • 500万円を超え1000万円以下:1万7000円
  • 1000万円を超え3000万円以下:2万3000円
  • 3000万円を超え5000万円以下:2万9000円
  • 5000万円を超え1億円以下:4万3000円
  • 1億円を超え3億円以下:4万3000円に超過額5000万円までごとに1万3000円を加算した額
  • 3億円を超え10億円以下:9万5000円に超過額5000万円までごとに1万1000円を加算した額
  • 10億円を超える場合:24万9000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額

参考資料

  • 法務省「令和4年司法統計年報」3家事編 p.66 第52表 遺産分割事件のうち認容・を除く)―遺産の内容別―
  • 日本公証人連合会「公証事務」2遺言

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