新天地への翼(2月23日)

 羽のない昆虫のナナフシは、驚きの方法で新天地を目指す。鳥に食べられても、ただでは死なない。硬い殻に覆われた卵を相手の体内に残す。消化されなかった一部は排せつされ、子孫がはるかかなたで命をつなぐ▼福島大と神戸大などの研究チームが昨年、発表した。枝に化けて天敵の目を欺くのは得意だが、長距離を移動するのは苦手という。縄張りを拡大するために編み出したのが、敵の翼の利用だった。したたかな戦略は見事に成功した。700キロほど離れた場所に生息地を広げたケースが確認された▼人は機械の翼を借りて夢をかなえ、社会を進化させる。空飛ぶクルマだ。渋滞が解消され、被災者の救助にも役立つ。空の移動革命だと期待が高まっている。来年開かれる大阪・関西万博で、来場者を運ぶ乗り物として登場する。福島ロボットテストフィールド(南相馬市・浪江町)では、飛行試験の拠点化計画が進む▼ドローンに続くのは航空産業の新分野。世界中の企業が開発競争にしのぎを削る。コントロールに必要な通信技術や事故を防ぐ装置を日々、生み出している。SF映画のような未来が間もなく訪れる。未開の地を目指す志はナナフシも及ぶまい。<2024.2・23>

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